7 不仲説ENDまっしぐら
「……それでね、結局麻袋からはみ出すくらいスライムの目玉をゲットできたんだけどさ、役所で換金したら、いくらになったと思う?」
「……」
町の外れにある、小さな小屋。ロキちゃんの仕事場だというそこで、私は彼女の手元を眺めながら話しかけていた(ちなみに、今日はリゲルンはお留守番だ)。
「なんと、ちょうどぴったり『じゃがっこ』一つ分! あ、じゃがっこって知ってる? クビナガブチモヨウのキャラクターがパッケージになってるやつ」
「…………あの」
「ん? なあに?」
「こう見えて、仕事中……です」
「だいじょーぶ、見ればわかるよ。そんなに真剣な顔したロキちゃん、初めて見たもん」
「見て分かる……なら、邪魔、しないでほしい……」
「まーまー、作業用BGMだと思って」
「……」
微妙な顔をされた。作業中は無音派なのかもしれない。構わず喋り続ける。
「今作ってるそれは、どんな魔法具なの?」
「……BGMなら、話しかけて、こないでほしい……」
「あはは、確かに! こんな作業用BGMは嫌だって感じだね。……お、このテーマで動画一本作れるか?」
「……」
「で、何作ってんの?」
「そのまま、独り言に興じてればいいのに……」
「もしかして、ロキちゃんって結構辛辣?」
もし私に多少なりとも心を許したことで彼女の素に近い部分が出るようになっているとしたら、それはいい傾向だ。カメラの前でもこの調子が出せるようになれば、それはそのまま数字に繋がる。
「……爆破の、ポーション」
「え! ロキちゃんそんなの作れるの⁉」
「持ち運びが難しい……から、あまり売れない」
「あー、毎年あるよね、爆破ポーションの誤爆事例」
「そう……。結界魔法は、何重にもかけるけど……それでも、衝撃を与えすぎると、ドン」
「……動画映えしそうなおいしい事案ではあるよな」
「ベテル、さん……?」
「今日はこのポーションがあるからダンジョン攻略は余裕!」と前フリ、調子に乗ってカメラの前でポーションを振ったらドカン。……ちょっとわざとらしすぎるか?
「……」
「ちょっと、何その目。言っとくけど、ユアチューブなんて99%の計画と1%の奇跡で出来てるようなもんだからね」
「はあ……」
「真面目にやってチャンネルが伸びなくても、誰も責任取ってくれないんだから」
まあそうは言っても、計画的な放送事故(笑)を99回起こしても、たった1回の天然の放送事故には敵わないというのも事実ではある。結局、最後に物を言うのは小賢しい計略などではなく、「持っているか」ということだ。……だから、ロキちゃんの存在がどれほどありがたかったことか。
「あの、本当に、何しに来た……ですか?」
「いや、次のコラボ配信の予定、決めてなかったなーと思って」
「メッセージとか……飛ばしてくれれば、よかったのに」
「えー、直接会って話した方がいいかと思って。ほら私たち、まだ親密度を上げる余地が残ってそうというか、私、ロキちゃんとはもっと仲良くなれると思ったんだよね。ロキちゃんだって、私と仲良くなりたいから仕事場を教えてくれたんでしょ?」
「ひどい、誤解……。治療費の事とか……何かあったら、って、職場が記載された名刺、渡しただけなのに……」
「まーまー。仲良きことはちょーいいことだよってどっかの偉人も言ってたじゃん」
「そんな軽そうな偉人は、存在しないと思う……」
初回配信があんな調子だったので、たぶんここからロキちゃんと少しずつ距離を縮めて、「昔はあんなにぎこちなかったのに、今はこんなに仲良くなって……」という展開が、少し安易ではあるが一番視聴者にウケると思う。ただ、人付き合いが苦手そうなロキちゃんの感じだとそうなる前に不仲説を流されるのがオチという気がしたので、こうして多少強引に距離を詰める作戦に出たというわけだ。
「……とにかく、コラボの件は、メッセージで空いてる日……送るので、今日は帰って、ください……」
「つれないなあ」
「仲良くなるために、仲が良さそうな挙動をするなんて……馬鹿げてるじゃ、ないですか」
「……」
彼女がそんな強い言葉を使うなんて思わなかったから、咄嗟に返答できなかった。慌てて、取り繕うように
「ご、ごめんごめん、ロキちゃんと早く仲良くなりたくて焦っちゃってたかも」
と笑って見せるが、
「仲良くなくても、協力は……するので。そういうのは、いいです」
にべもなく切り返されて、言葉が続かない。続かないが、沈黙は嫌だったので、
「……そうだね。私は数字がほしいだけで、ロキちゃんはシリューと繋がりたいだけだもんね。利害は一致してるんだから、無理に仲良くする必要ないよね。ごめんね」
「え……?」
一気にまくし立てて、荷物を持って扉の方へと進む。このやり方で距離を縮めるのは無理そうだ。かといってこのままでは不仲説ENDまっしぐらなので、何か別の対策を考えなくては。
「本当、お邪魔しちゃってごめんね? とりあえず、今日はもう帰るから、コラボできそうな日にちだけ後でメッセージ送ってくれると助かるな! 私はロキちゃんの予定に合わせるから!」
「あ、謝ってほしかった、わけじゃなくて……」
「本当にごめんね、お邪魔しましたー!」
ばたん、そそくさと扉を閉める。その直前、背後でロキちゃんが口を開きかけた気がしたが、分厚い扉に遮られてその声は聞こえなかった。
「ベテルさん……が、苦しくなければ、いいなって……」
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