4話

アルコールはマイクのように心を拡声する。


気分が良い時は最高だが、今のような落ち込んだ時には最悪だ。

鬱になるか、死んでしまいたくなる。

だが、自分に負けないように出来ることは、その原因を整理し言語化することだと心得ている。


高額発注について、社内規定では部長の最終承認となっている。

今回の発注も正式な承認フローを通っているので、責任は間違いなく彼らにもある。

自分の責任をすり替えるつもりはない。

だが、事態が発覚してから今に至るまで、彼らの自己満足やメンツを保つ為に自分だけが働かされてきた。

本来、取締役への説明は部長以上が行う規定があるにも関わらず、今回は部長が都合の良い解釈で捻曲げた。


一ヶ月あたりの残業時間は最大42時間となっており、普段は口すっぱく言う課長も、それを超えて更にサービス残業をしている自分の状況を知って見ぬ振り。

組織を守るという大義名分の下、都合良くルールを解釈し、それが正しいことだと自分も含めて周囲に思わせようとしている。


結局のところ、規定やルールというものは、弱い立場の集団を従わせる為に存在する。

それらを管理する側は、抜け穴を見つけて、最終的にはその小さな穴へ力で無理やり押し通すのだ。


溢れ出る怒りを紛らわせようとテレビを点ける。

ニュースでSDGsの特集をしていた。

『貧困』『紛争』『水不足』といった日本の生活にはどれも縁遠い問題で、他人事にしか思えない。

というか、自分の出来る範囲を超えていて無力感を味わうだけなので、遠い国の悲惨な出来事は自分事に思いたくない。


世界で同時並行に発生し続ける問題は多過ぎて複雑だ。

利権、歴史、そして人の感情が同時に絡むので、とても解決出来るとは思えない。

仮に人間を超える神のような存在が現れたとしても、人間を一旦滅ぼす決断をするだろう。


まして、綺麗事をただ掲げたくらいでは、時間が経っても何も変わらないことは明らかだ。

結局、それが言えるのは生活に余裕がある人だけなのだから。

現にSDGsが掲げられた後でも、世界中で新たな戦争、領地争いは生まれ続けている。


互いの違い、過去の歴史を認めることも出来ず、一方的に猜疑心、不信、不満を募らせて、自国にとって都合の良い正義と真実で争いを仕掛ける。


映画やドラマといったフィクションの世界では、在るべき正義の形は統一され、成熟されつつある中、何故か現実では、特に国家は成長がなく幼稚なままだ。


毎回の言葉は立派で正しく聞こえるが、一貫性がなく、実際の行動が伴っていない。


会社も同じだが、『いい加減にしてくれ』という気持ちでうんざりする。


ところで、最近のテレビは子供と高齢者をターゲットにしているせいか、視聴者を馬鹿にしているようで、ネガティヴな感情しか生まれない。

SNSは更に酷い。


他人の自慢や成功は疎ましいし、不幸な人を見ると同情して気分が落ち込み、腹立たしい出来事には一緒に苛立ちを覚えてしまう。


結局、他人の何を知っても感情がプラスに働くことはないのだ。


そう頭では理解っていても、一時は頭の中を紛らすことは出来るので、習慣的にテレビはつけているし、SNSも見てしまう。


今はただ無感情且つ無表情に、テレビを眺めながら箸と口をせわしなく動かし続けている。

最後に残ったハンバーグの欠片を冷えて固まった白米で寄せ集め、口へ詰め込む。

味も何も分からないごちゃ混ぜの口内を、残りの発泡酒で流し込んだ。


5分の晩飯を終えると、電動歯ブラシを力任せに激しく動かす。

寝る準備が済んだら、すぐさま布団へ潜りこむ。

本当ならスマホ片手にショート動画でも見て現実逃避したい。


だが、そんな余裕すら無い。


それでも、やはり頭の切り替えもせずに、眠りにつこうとした自分は浅はかで愚かだったと、後で深く後悔することになる。

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