2話

「ぜぇ・・・ぜぇ・・」


怪しい呼吸音を撒き散らしながら、電車へ乗り込む。


本来、スーツとは社会性や相手への敬意を示すものだが、シワだらけで雨に濡れるとカジュアルな服よりも、むしろ不潔さが際立ってしまう。

実際、今の自分は相当みっともなく見えているだろう。


いつまでも息は乱れ、脹脛はパンパンに張っていて今にも攣りそうだ。

社会人になってから体力が落ちる話をよく聞くが、そもそも何の運動もしてこなかった自分にはその実感すらない。


週末でも無いのに座席はどこも空いておらず、「はぁぁ」と大げさな溜め息をつく。

水溜りを踏んだことで、靴下まで染み渡るほどに水を吸った革靴が擦れて、足の節々が痛い。

人目を気にせず床に座ってしまいたい衝動に駆られるが、開く反対側のドアに腰からもたれ掛かって耐えた。


一つ隣の駅へ到着すると、繁華街帰りの乗客が大量に流れ込んできた。

あっという間に車内は、酒に酔ったサラリーマンと陽気な学生達によって支配される。

酸っぱいアルコールの匂いで満たされ、個性的な笑い声が入り乱れる鬱陶しい空間に早変わりする。

ただ、エネルギー満ち溢れるこの空間において、自分一人だけがひどく惨めに感じ始める。

イアホンのノイズキャンセル機能をオンにする。

周囲に漏れること構わず、音量をめいっぱい上げることが精一杯の抵抗だ。


耐え続けること約二十分、ようやく電車が最寄駅に到着した。

改札までの人混みを避ける為、ドア前にスタンバイする。

ドアが完全に開ききる前に身体を横向きに滑り込ませ、ホーム階段を駆け上がる。

小走りで改札を通過し、出口横にあるコンビニへ突入する。

レジ横のお弁当コーナーへ最短時間で一着ゴール。


こんな時間でも種類豊富に取り揃えられている。

賞味期限を見ると、どれも残り数時間に迫っているので、大半は廃棄寸前だ。

『自分の在庫も賞味期限切れで廃棄出来れば楽なのに』と意味のない、愚かな考えが頭に浮かぶ。


迷う時間すら惜しく、結局いつものヤツを選択する。

ハンバーグ、海老フライ、唐揚げの三点が重なり合うように詰められた、塩辛い味付けと量の多さだけが特徴だ。

ここのところ、決まって毎日これを選んで食べている。

それと関係あるか分からないが、毎日の下痢もルーティン化していた。

ただ、高カロリーな食事でも吸収されることなく出ていくから、ほぼゼロカロリーになると前向きに捉えている。


弁当を温める時間すら勿体ない。


レジのやり取りを最短で済ませ、冷たい弁当が入った袋とレシートを受け取り、また小走りを再開する。

雨は降っていないが、むし暑い空気が湿度を含んで重苦しい。


家までの帰り道、濡れた靴と痛む足で黙々と進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る