逃亡令嬢エリクの気ままな旅 〜星爆破大量殺戮の濡れ衣を着せられた宇宙で唯1人のスーパータイプ【超人】少女は宇宙警察と賞金稼ぎに追われながら相棒ロボとともに星から星へ旅を続けます〜
第5星話 未来人の星 【巨乳美女を娶るため遂にタイムマシンを完成させた男の物語】 【作者のオススメ★★★★★】
第5星話 未来人の星 【巨乳美女を娶るため遂にタイムマシンを完成させた男の物語】 【作者のオススメ★★★★★】
まるで自分のために用意されたような
こざっぱりとした店内。木目調のデザインは柔らかく、温かく、明るかった。壁には控えめだが趣味の良い絵画が飾ってあった。天窓のガラスからは、静かに優しい光が射している。
小さいが、憩える場所。
そして、外の看板には、
『本日は当店特製のチェリークリームパイと自慢のミルクティーがございます』
と、書かれていた。
この
昼と夜の入れ替わりの時間だった。客は他にいなかった。
カウンターの椅子に座り、隣の椅子に鞄を置いたエリク。
チェリークリームパイとミルクティーを注文する。すぐに来た。エリクの顔がほころぶ。ゆっくりと味わう。思った通りの、優しく温かく心和ませる味わいだった。
「本当に素敵です」
エリクは、思わずカウンターの向こうの
「お気に召しましたかな? お嬢さん」
にこやかな表情の
「はい。すっごく。パイもミルクティーも、大好物なんです。私の好みにぴったりで。それにこのお店も、まさに、ちょうど入りたいな、と思っていたお店です」
エリクは満足していた。17歳の少女の頬が薔薇色に染まっている。この星に寄ってよかった。
「これってすごい奇跡ですよね。たまたまこんな素敵なお店に巡り会えるなんて。ほんとに偶然?運命? なんだか、私の好みを知っていて、私が来るのを知っていて、それで準備して待っていてくれたような。そんなふうに感じます」
「ほほう」
「この商売をしていて、どのようなお客様が来るが、お客様の好みは何か、それがあらかじめわかってれば、ずいぶん助かるのじゃがのう」
そうだ。エリクは考える。これから起きることを、予め知る。それができればずいぶん便利だ。でも、そんなことができるだろうか。それができるとすれば、
「タイムマシン!」
思わず叫ぶ。
エリクは慌てて、
「あ、すみません。ちょっと思ったんです。タイムマシンがあれば、未来で過去に起きたことを調べて、過去に戻って、これから起きることを万全の準備で待つことができる、ただ、そう思ったんです」
エリクは真っ赤になった。我ながら、突拍子もない思いつきだ。
だが、
「つまりお嬢さん、このわしが実は未来人で、未来で今日ここにお嬢さんが来ることを調べて、タイムマシンでこの時代に来て、お嬢さんの好みに合ったサービスができるよう準備して待っていた、そう言うんだね?」
「あ、いえ、本当に……ちょっと思いついただけです」
エリクは、ますます赤くなる。おかしなことを言ってしまった。バツが悪い。
だが。
「もし、未来人なら、タイムマシンを、そんなことのためには使わん」
きっぱりと。毅然たる口調。
え?
なんだ?
エリクは、はっとして
ややあって、
「お嬢さん、一つ、わしの知っている未来人の話をしようか」
「え?」
エリクは驚く。
「未来人を? 未来人を知ってるんですか?」
思わず身を乗り出す。しかし、
これは遠い未来の、ずっと先の世界の話じゃ。
ある星に、若者がいた。どこにでもいる若者じゃ。その若者は、
若者の夢と野心。それはありふれたものじゃった。星で1番の
若者が自分の夢に燃えている時、パーティーが開かれた。その星中の若者が招待されるパーティーじゃ。若者は、貧しいながらも、一張羅の晴れ着を着て、精一杯のおめかしをして、パーティーに出かけていった。
パーティー会場で、若者は、同じ夢と野心を持った同輩たちが溢れる中、ただ1人の姿を追い求めていた。
それはナスターシャだった。
ナスターシャは、星で1番の美女だった。その瞳はどこまでも澄んで碧く、その髪は
「あの」
エリクが口を挟んだ。
「遠い未来、ずっと先の世界の話をしているんですよね? 遠い未来でも、胸のサイズとか、それが
胸が決して豊満ではないエリク。エリクの胸はグレープフルーツ
「重要なのじゃ」
若者は、もちろん、ナスターシャに近づくことさえ出来ぬ身分じゃった。ただ、ナスターシャを遠くからでもひと目見ればいい、そう思ってパーティーに参加したのじゃ。ところが、奇跡が起きたのじゃ。会場の隅にいた若者のところへ、ナスターシャが自ら歩いてきたのじゃ。人の波を掻き分けて。いや、ナスターシャの歩くところ、自然に道ができたのじゃ。
ついに、目の前にナスターシャが来た。若者は、身動き一つできなかった。何が起きているのか、わからなかった。ナスターシャは微笑んだ。若者に向けて。若者ただ1人のためだけに微笑んだのじゃ。それはまさしく燦然と輝く女王の微笑みじゃった。あらゆるものを包み込む豊満なその胸は、もう目の前にあった。
夢だ。若者は思った。これは夢だ。こんなことが現実にあっていいわけがないーー
だが、まだ夢は醒めなかった。ナスターシャが若者に手を差し伸べ、婉然と言ったのじゃ。
ーー 初めまして。お目にかかれて、とてもうれしいです。
ここで夢が醒めたのじゃ。
笑い声が起きた。ナスターシャは、いぶかしげに、辺りを見回す。つまり、こういうことじゃ。ナスターシャの友人たちの悪戯だったのじゃ。その日、ナスターシャは、星1番の金持ちの青年に引き合わされる予定だった。それで、友人たちは巫山戯て、ナスターシャに、貧しい若者のことを、あれがあなたを待っている金持ちの青年だよ、と吹き込んだのじゃ。
真相を知ったナスターシャは、もう、わしのことを見ようとはしなかった。踵を返し、去っていく。わしはつい、追おうとした。そこに、星1番の金持ちの青年が現れたのじゃ。青年はわしを突き飛ばした。わしはパーティー会場に転がった。ナスターシャと金持ちの青年は、手を取り合って、笑いながら、去っていった。若者は、パーティー会場の床にへたりこみながら、周囲に笑われながら、ずっと見送っているしかなかった。
それで、若者にはわかったのだ。ナスターシャが見ているのは、
若者は決心したのじゃ。
「あの」
エリクが口を挟んだ。
「遠い未来、ずっと先の世界の話をしているんですよね? 遠い未来でも発明に三角定規とか、コンパスとか使うんですか?」
「使うのじゃ」
ただひたすら、ナスターシャを娶る、その一念じゃった。ついに設計図が完成した。そして試作に取りかかった。スパナを握る若者の手は油で汚れ、スパナダコができていたーー
エリクは、スパナとスパナダコについては、コメントしなかった。
ーーそして、ついに完成したのじゃ。それがタイムマシンじゃ。若者はついにタイムマシンを完成させたのじゃ。そのときには、若者はもう、若者と呼べる年齢ではなくなっていた。
完成したタイムマシンを前に、震えるわしはーー
「あの」
エリクが口を挟んだ。
「さっきから、若者とか、わしとか、人称が一定していないんですけど」
「つべこべ言わず、黙って聴いてろ!」
完成したタイムマシンを前に、わしはどうやってこれで金を稼ごうかと考えたーー
「あの」
エリクは、つい口を挟んでしまった。
「それだけの大発明なら、星系政府に売るとか、特許をとって大企業と契約するとか、そうすればいいんじゃないでしょうか?」
「そうでは無いのだよ、お嬢さん」
「タイムマシンが量産されて、一般に普及したらどうなるか。想像もつかん。良いことが起きるかもしれん。だが、悪いことが起きるかもしれん。良い願いから生まれた発明が、人類に巨大な災厄をもたらしたことは、これまでに幾度もあった。人がタイムマシンを手にしたら、世界は激変するだろう。いったいどうなるか、誰にもわからない。わしは、世界が激変することが望まなかった。ただ、ナスターシャと2人で静かに暮らしたかったのじゃ」
「確かに人がみんなタイムマシンを手にしたら」
エリクが口を挟む。
「すごいことが起きるでしょうね。本当に想像もつきません。今までと全く違った世界になってしまうような。胸のサイズとか、誰も気にしない世界になったりとか」
わしは決めたのじゃ。このタイムマシンの完成は秘密にする。わし1人で使う。わし1人で使って、金を稼ぐ。それにはどうすればいいか。
ニュースを見て、このことを自分が前もって知っていれば、そう思った事は無いかな? 例えば、偶然ダイヤの原石が落ちてるのを見つけて拾った人が、大金持ちになったとか、そんなニュースじゃ。
タイムマシンがあれば、過去に戻って先回りしてダイヤの原石が落ちている場所に行き、自分が手に入れることができる。それで金持ちになることができる。そういうことじゃ。それがタイムマシンで
「わかったかな、お嬢さん」
ゴトン、音がした。金属の音だ。なんだろう。結構重そうだな。エリクからは、カウンターの内側は見えない。
「エリク、動くな」
「わしは未来で調べたのじゃ。エリク、お前の行動記録をな。お前が今日この
エリクは瞳を落とす。ちょっとでも身動きすれば、頭を撃ち抜かれるだろう。しかし、
「今、あなたの話を聞いて分かりました。タイムマシンを発明しても、
「もう後戻りできぬじゃ」
「このために、わしは生涯を捧げてきたのじゃ。エリク、覚悟しろ」
引き金を引く。
エリクの体は後ろに吹っ飛ぶ。
その瞬間ーー
「
エリクが黄金に輝く
「
エリクの左手の人差し指から放たれた
やっと
「なんで教えなかったんだ?」
椅子の上の鞄から、エリクは
「仕方ないよ」
「あの
エリクは、床に落ちていた
「これ、私にロックオンしてた。私が店に入ってくる前から、ロックオンしてたんだ。
「それで、撃たれてから、
「うん。避けるの、本当にギリギリだった」
エリクは、未来の
「あ」
エリクは目を
エリクは、カウンターの向こうを見る。
胸を撃ち抜かれ、倒れ伏す
「なんだろうね、これ」
エリクが呟く。
「きっと、未来が過去に干渉したら、それを元に戻す原理が働くんだよ」
「そうなんだ」
おしゃれで、素敵な
「ねえ、
「わからないね」
「ナスターシャさんの胸は、今、どうなっているんだろう?」
「わからないね」
エリクは
未来。そこでは、私の行動記録を調べることができるんだ。いったいどこまでわかっているんだろう。その記録とは、これから私が変えることができるものなのだろうか。これから何が待ち受けているのか、もうすっかり決まっているのだろうか。
それでも。
「行かなきゃ」
◇
星から星へ。
エリクの旅は続く。
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