「あんたのこと好きにならないからね!」って言ったツンデレが落ちた日

赤いシャボン玉

第1話

 4月の朝は、空気が少し冷たくて、でもどこか甘ったるい匂いがする。

 桜の花びらがちらほらと舞う中、俺――桐谷蒼真きりたにそうまは、私立翠嶺学園の正門をくぐった。


「ふぁ〜……ねみぃ……」


 春休みが終わったばかりだというのに、転校で朝から緊張MAX。

 親の転勤に振り回されて、これで高校生活も4校目だ。

 友達? 恋? そんなの、どうせまた“すぐ別れる”んだろう。


 最初から期待しなければ、傷つくこともない。


 無気力に校舎へ向かいながら、靴箱の前で上履きを探していると――


「……っ、危ないっ!」


 目の前を、風のような速さで何かが横切った。


 いや、誰かだった。


「きゃっ――」


 その“誰か”は、俺の目の前で見事に転倒。

 床に散らばる紙資料、白く長い指が宙に舞う。

 その中心にいたのは、黒髪ロングの美少女だった。


「お、おい! 大丈夫かっ!?」


 慌てて手を差し出すと、その子は少し驚いた顔でこちらを見上げ――


 そして、即座に顔を真っ赤にした。


「……っ、ちょ、ちょっと!? なに勝手に触ろうとしてるのよっ!」


「いやいやいや! 助けようとしただけで……!」


「べ、別に! わたしは助けなんて、必要としてないからっ! 勘違いしないでよね!」


「なにと戦ってんの君!?」


 目の前で地雷を踏み抜いたみたいに怒鳴られ、俺は硬直した。

 だが、彼女の方も何かを誤魔化すように目をそらし、モジモジしている。


「と、というか……いきなり手とか出すなんて、セクハラよ! もう最低っ!」


「えぇ……。てか今の、俺が悪いの?」


 この子、やべぇ。


 ツン要素しかないじゃん。


「……あの、それより紙、拾った方がよくない?」


「っ……そ、そうね。ありがとう……って、言うと思った!?」


「言わんのかい!」


 なんか、すげぇ変な子に絡まれたな。

 第一印象、最悪。これが“翠嶺の洗礼”ってやつ?


 と思ってたら――


「ちょっと待ちなさい! あんた、何組?」


「えっ……あ、2年B組だけど」


「はぁ……まさか、同じクラス!?」


 目を見開いて呆然とする彼女。

 その後、何かに思い至ったように、グッと拳を握りしめ、意味不明な言葉を放った。


「い、言っとくけど、わたしは絶対に! あんたのことなんか好きにならないからねっ!」


「いやいや、誰が好きになるとかの話してた!? てか名前も知らんけど!?」


「……雪城澪。生徒会副会長よ。覚えておきなさい」


「副会長だったのかよ!」


 初日からすごいキャラに目をつけられた。

 しかもクラスメイト。オワタ。


 その日の昼休み、俺はさらに驚愕することになる。


 なぜかそのツンデレ副会長が俺の席に来ていた。


「……何してんの?」


「ふっ、来たわね。桐谷蒼真。あなたの名前、しっかり把握したわ」


「うわあ……ストーカーっぽい台詞出た」


「違うわよ! これは、正式な“監視”なの」


「監視!?」


「あなたがこの学園にふさわしい人間かどうか、わたしが見極める必要があるの」


「いやいや、誰の許可でそんな役割を……」


「生徒会副会長の裁量よ!」


 こいつ、権力振りかざすタイプだ……!


「ていうか、わたし、ほんっとうに言っておくけど――」


 澪は立ち上がり、腕を組んで、どや顔で、けどちょっと頬を赤らめて。


「ぜったい、あんたのことなんか、好きにならないからねっ!!」


 教室中が一瞬、静まり返った。


 そして次の瞬間――


「……え、なにこれ、新手の告白?」


「ツンデレ系かぁ、いいね!」


「おい桐谷、お前モテ期来たんじゃね?」


「ちがうちがうちがう!!!」


 俺の、静かで目立たない学園生活という希望は、

 この瞬間、音を立てて崩れ落ちたのだった。


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