第四話

「”イセカイ”も、”ジゲン”も、よくわからないわ!!」



 イッセイの目をしっかりと見返してリリは言い放った。

 やっぱりなとイッセイは思い、今いるリビングの壁に沿って置かれていたホワイトボードをリリの前に持ってきた。


「今から説明をします」

「何?勉強なら私必要ないわよ?」

「勉強ではなく、説明にこれを使った方がよりわかりやすいと思ったので」


 言いながらイッセイはキュッキュッと黒いペンで白いボードに書いていく。

 一通り書き終わって、イッセイはリリの方を改めて向いて話しを再開した。



「まず、この丸は貴方が住んでいた星、惑星としましょう。貴方の住んでいた国がココ、隣の国がココだとします」

「私の国はもっと大きいわ。隣の国より少しばかりだけど大きいの。あと形全然違うわ」

「すみません、例えで申し訳ないんですけど、とりあえずコレで話しを進めさせてください」


 いちいち、自分の住んでいた世界の現実と違う事に訂正を入れてくるリリにげんなりしながらも、イッセイは根気強く話しを進める。


「で、いろんな国があって、貴方の住んでいた惑星がありました。他にも惑星があるかどうかはわかりません。まぁ貴方が知らなかったとして、いくつかの惑星があるとしましょう。いくつかの惑星や、人の住めない小さな燃えている星や惑星の周りを回っている衛星。それ全体を包むように広い大きな”空間”。その空間と存在しているもの全てを含めてを”宇宙”と言います。その”宇宙”が一つの”世界”です」

「・・・私の住んでる惑星の他に、人が住んでる惑星があと二つあるわ。その他の惑星の事を”異世界”言うんじゃなくて?」

 リリからまた質問だ。しかし、イッセイは自分の世界で、自分の住まう惑星以外の星で人類が暮らしているという事はないので、少々その話しにそそられてしまう。

「それって乗り物などで惑星間を移動するんですか?」

「えぇ、なんか、2日くらいかかるらしいんだけど、どっちの惑星にも私の住んでいる惑星からは2日で行けるって教わったわ。私は王族だから自分の惑星を出ることはないんだけど。そもそも王宮から出ることもほとんどないし。私だけ厳重に丁寧に扱われてるわ」

「2日で・・・!どんな形の乗り物ですか?!瞬間移動的な・・・?あ、でもそれなら何かの弾みで間違って時空に歪みに巻き込まれてここに飛ばされたとか・・・」

「貴方何一人でブツブツ言ってるの?」

「イッセイ、わかる、わかるぞ。じいちゃんもそれ凄く気になる。なぁ嬢ちゃん」

「その”嬢ちゃん”って言うの辞めてくださる?リリ様で良いから名前で呼んで」

「ワシだけ”様”呼びの強制!!」

 機嫌の悪そうな表情のリリに言われたおじいちゃんは、手のひらで顔を隠すように覆った後に天を仰いだ。

「リリ様や、その乗り物の名前と形はどんな・・・あぁ!このボードに描いて描いて!」


 リリにペンを渡して乗り物を描いてもらう。イッセイとおじいちゃんはワクワクして目を輝かせてる。


「私、絵は得意じゃないのに・・・」

 言いながらも、楽しそうにしている二人を見て仕方なしに絵を描き始めた。





「じいちゃん・・・」

「イッセイ・・・」

「「スペースシャトルだ」」

 二人は同時に見覚えのある機体の名前を言った。


「描いたんだから、これで良いでしょう?話しの続きをして頂戴」


 話を脱線させるなとばかりにキッとした目でリリは二人を見た。


「あぁ、そうですね。では続けます。では、この乗り物をなんと呼んでますか?」

「ジェットよ」

「ジェットですね。ジェット以外の乗り物で惑星間を移動する事はありますか?」

「ないと思うわ。私が教わったのは、このジェットで惑星間を移動するとしか聞いた事がないわ。これが一番早いの。これはあくまで遠い星にいく時の為で、近くに行くには動力が大きすぎて使えない。起動して動き出したら数時間で惑星を周回してしまう程だから。隣の国に行くには地続きなら馬車、水を渡るなら潜水艦を使うわ」

「では、その行き来する惑星の他にも、人の住んでない惑星があるように言ってましたよね」

「えぇ、あるわ」

「その惑星を全部含めたのが、”貴方の住んでいた世界”です。その、”貴方の住んでいた世界”のどこでも無いんです。”ココ”は」

「はぁ?」


「なので・・・」

 イッセイはホワイトボードに、丸を沢山描く。

「この丸は、貴方が住んでいた惑星、そしてその周辺の惑星や星や衛星全てです。人が住んでたり住んでいなかったり。その全部を一つの世界を呼びます」


 言って、沢山描いた丸を最後、とてつもなく大きな丸で囲う。


「この、大きな丸が、貴方の世界。全てこの丸の中にある。そして、この丸の外にあるのが”ココ”の”世界”」

「外にあるんでしょ?」

「外ではないです。表現として外と言いました。でも、外にはありません。だから、ジェットでも行けません。貴方の住んでいた”世界”を一つの”次元”と言います。」

「・・・もう良いわ」

「すみません、説明が下手で」

 威勢が良かったリリがしゅんとしたのを見て、イッセイはやってしまったと思った。11歳で、口が達者だったのでそれなりな教育を受けてきているかと思って話してしまったが、教育を受けている事と、異世界の話しをされても大丈夫。と言うのはやはりイコールではなかったらしい。


 リリが少し拗ねた表情だがイッセイに話し掛けた。

「とりあえず、簡単に帰れるわけじゃないって事はわかったわ」

「あ、うん。それだけでもわかってくれれば話しは続けられるかな」

「えぇぇえ!!まだ話し終わらないの?!」

 リリは驚いて身を乗り出してイッセイを見た。

「いや、本題の”次元”の話しは今からだから・・・」

「これ以上に何が大事な事あるのよ!!」

「リリさんの命に関わるから・・・」

「何よ、怖いこと言うつもり」

「怖いかどうかはわからないけど、事実は伝えないと」

「知らなくて良いことなら知らないままでいいわ。貴方が守って頂戴。あと、ちゃんと私を元の世界に戻して頂戴」

 不機嫌ながらも、少し恐怖心が顔に出ている。加減がわからないとはいえ、言い過ぎてしまったのだろうか。

「守ってくれるなら、続きも聞くから」

 そう、先ほどまでの威勢の良さと生意気な態度は半減し、少々しおらしく見える。不思議なものだ。言っている事は傲慢であるのに。

「じゃぁ、まずなんで外が危ないかから話しをするね」

 イッセイは出来るだけ柔らかく話すように心掛けた。






「【網膜スキャン?】」

「そうです。人には、目の中に、人それぞれ違う【網膜】というものがあります」

「それで個人を判別するの?」

「そうです。生まれた時にすぐに網膜のデータを取ります。このシステムができた時に、全ての人の網膜を記録してます。システムが完成以降に生まれた子供は生まれたと同時に登録されます。まぁ、そのお陰でそれ以降”赤子の渡し間違い事件”は無くなったのですが・・・。あ、なので、外に出て、そこらじゅうに設置されている【網膜スキャン】システムに撮られた場合、データの無い者は通報されます。然るべき機関によって、貴方は捕獲されるんです」

「で、捕まったらそりゃ怖い目に会うぞ〜」

「何よ!怖がらせようとして!!」


 イッセイの説明におじいちゃんが割り込んでくる。そしてリリが怒る。さっきからこの繰り返しである。



「家の玄関にもそのスキャンが設置されてるから、どの家に行ってもどのみちリリさんは通報されて捕まってしまいます。ウチは、そのシステムを無断を破壊してるんだけど」

「それって怒られないわけ?」

「ワシたちは偉大な発明家で、色々すごいから、色々見逃してもらってるわけ!」


 また最後におじいちゃんが割り込む


「何その”色々”で済まそうとしてる感じ!怒りが沸いてくるわ!」



 そしてリリがまた怒る。

 憤慨しているリリを他所におじいちゃんは改まってイッセイに言う。




「イッセイ、おじいちゃんはな、常に進化しているのだ」

「そうだね、どうしたの急に」

「じいちゃんはな、異世界の人の命をも大切に思い、元いた世界に帰って、幸せに暮らしてもらいたいんじゃ。たとえ、帰った先が貧乏だったり、争いごとがあったりしても、きっと大事な人もいるだろうし。何よりこの世界で捕まったらもうおしまいじゃからな」

「そうだね」

「でもな」

「うん?」



 じいちゃんの信念をイッセイは前から知っている。だからこそ長い時間を費やして、時空移動装置を作ったのであるから。



「進化すると言うことは、意見が変わると言うこともあると言うこと」

「うん?」

「この嬢ちゃんは、機関に渡してもいんじゃないか?子供だし、女の子だし、手荒な真似はせんだろう」

 キリッとした顔でとんでも無いことを言い放った。

「何言ってるの!さっき機関に行ったらもうおしまいだみたいな事言ってたのに渡す訳?!守るって言ったじゃない!!」

「ふーんだ!それはイッセイとの話しであって、ワシじゃないもーん!」


 再度口喧嘩が始まった。




「まぁまぁ、いいじゃないか、この間カナンもおそらく無事に帰れただろうし。このまま見つからないように工場に行って、元の世界に帰ってもらおうよ」

「イッセイ、簡単に言うけんど、ココから工場までのスキャンにまたイタズラしながら行くのだってヒヤヒヤもんだぞ!こんな生意気ガールにそんなに気を使いたくないね〜じいちゃんは!」

 じいちゃんは今までされた分、リリにツーンとした態度を仕返す。


「何よそれ・・・っと言うか、貴方名前はなんなのよ」

 リリは、おじいちゃんとではもう話にならないと考え、イッセイと話をしようと決めた。決めて話をしようにも、ここまで来てやっと名前を聞いていない事に気づいた。

「あ、すみません。申し遅れました。俺が『イッセイ』と言います」

「イッセイ?ファーストネーム?ファミリーネームは?」

「あぁ、ファミリーネーム・・苗字か、苗字は」

「イッセイ〜〜!」




 突然、聞き慣れた聞きたくない声が玄関から聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る