第6話


手を置いた人を見ると、警察官のような格好をしている。

「君たち、学校はどうしたんだ?」

カナンは焦った。ぎゅっと、イッセイのお腹に回している腕に力を入れる。

緊張したカナンとは対照的に、イッセイはためため息をつき、脱力したように言った。


「今日は午前授業の曜日だろ。信号待ちにわざわざ絡んでくるなよ」


おじいちゃんの激しいコミュニケーションにも動じずに自分のペースを保っていたイッセイが相手をするのがかったるそうに話している。しかも警察官らしき人を相手にだ。


「カナン、気にしなくて良いよ。こいつ、俺の従兄弟で警察官のセイタ。合うといつもなんか巻き込まれたり碌な事がないんだ。話さなくて良いよ」

「イッセイ!!なんて事言うんだ!あと、彼女が居るとか聞いてないからな!二人乗りなんかしてどこに行くんだよ!!」

「じいちゃんのところに行くんだよ」

「じいちゃんとこか、俺も会いたいなー仕事が忙しくて全然あってないからなー」

「そう、じゃあね」

「あ!ちょっとイッセイ!!コラ!!」

「信号変わったから。このままここ止まってたら迷惑でしょ。俺たちも急いでるし」


信号が変わって、先頭の車が動き始めた。

イッセイが右手首を返してアクセルを回したそのときだった。


「こんな可愛い子ちゃん隠してるなんて!警察官の権限を使ってやる!どこの可愛い子ちゃんだ〜?」


セイタが手に持っていた機械をカナンの顔の前に持ってきてボタンを押した。







《網膜データ、該当なし。網膜データ、該当なし。緊急通信及び、警報モードに切り替えます》






冷たい機械音がイッセイとカナンの耳に入ってきた。






その瞬間、携帯電話の緊急アラームの様な音がセイタの持っている機械から発せられた。

そのアラーム音はセイタと一緒に見回りをして近くにいた警察官の機械からも発せられてる。きっと警察官が持っている同じ機械全部に警報が流れている。機関にも通報が行ってしまったとイッセイは悟った。



「ッチ!!このバカ!!!」

「え?イッセイ?え?!」

イッセイは悪態をつくと、隣で機械を見て狼狽えている従兄弟を無視して、自身の左手でお腹のカナンの両手首を掴んで右手首を勢いよく捻った。バイクは急発進して進んでいく。一瞬後ろに振り落とされるかと思ったカナンだが、イッセイが手首を掴んでいてくれていた為なんとか止まった。


「カナン、しっかり捕まって!!」

「う・・・うん!!」


信号が変わったことにあり、イッセイは猛スピードで次々と今まで前を走っていた車を抜かしていく。猛スピードで走りながらイッセイは話す。

「ごめん、本当にごめん!セイタ、冗談で網膜スキャンをカナンに使ったんだ!機関にもバレた!あと10分でじいちゃんの工場に着くから!絶対に連れていくから!」

イッセイがそう言ってる最中にも通り過ぎた交番らしき建物からも警報が聞こえる。

自分が思っているよりも多くの人を巻き込んでこんな不快な音が流れる事をしているんだと考え、カナンは恐怖心に襲われた。


「カナンのせいじゃないからね。セイタのせいだから」


イッセイはカナンを落ち着かせる為にゆっくりと話しかけ続けていたら、また通信が入った。この国では走行中に通話をしていても捕まらないのか、イッセイは片手をグリップから外して画面を操作して通話を開始した。


「イッセイ!!なんか街が警報だらけなんだけんどお前なんか知ってるか?!」

「じいちゃん・・・知ってる」

「どうした?!」

「さっき電話した第七交差点でセイタが見回りやってた。振り切って逃げようとしたんだけど、その瞬間にカナンに興味持って網膜スキャンをしたらこの警報が鳴り止まなくなった」

「だから変な人に話しかけられても答えちゃダメだって言ったばっかじゃろうに!!!」

「変な人って、セイタだよ」

「付き合う友達も選べとあれほど!!バカとはつるんじゃいけません!!」

「じいちゃんの孫でもあるからね」

「本当にあいつバカっっ!!!!!イッセイ、このまま通信を繋いだままにしろ!じいちゃんが今警察と機関の行動を調べる!捕まらないようにサポートするかんな!!」

「助かる。今、第七交差点を南に直進して1キロ進んだところだよ」

「よし!次を左折して埠頭の方にいけ!!」

「え?埠頭はじいちゃんの工場の目の前まで行けるけど、行き止まりだよ?」

「ばあさんが良く言ってるだろ!“急がば回れ”ってヤツじゃ」

「いや、行き止まりだから回り込めないよ」

「そこはワシがなんとかする!じいちゃんを信用しなさい!」

「うん、じゃあ埠頭に向かうね」

行ってすぐにイッセイはハンドルを左に切った。

「埠頭までなら14分で着くかな」

「14分な!じゃあワシは準備をするぞ!あとお嬢ちゃんや!」

「は!はい!!」


突然おじいちゃんに呼ばれた事で驚いて声が裏返ってしまった。


「そこからは瞼を閉じて下向いたままでいてくれ!街灯とか色んなもんにくっ付いてる防犯カメラは網膜スキャンだかんな!機能としてはむしろ防犯カメラの方がオマケだ!

元々、決められた時間で街の人間の確認をする“自動定時網膜スキャン照合システム”だが、これだと一斉に街全体でシステムを稼働してる可能性が高い!お嬢ちゃんの網膜パターンは愚かなワシの孫がさっき記録してしまったからな!その網膜パターンと照合する手筈になると思われる!瞼を閉じて下じゃ!いいな?!」

「は!はい!わかりました!!」

「カナン、進行方向が見えないとバランス取りづらくて不安かもしれないけど、大丈夫だから、下向いてて良いよ」

「うん、ありがとう」

「じゃぁ、少しでも早く行けるようにスピードあげるよ」


イッセイは、右手のグリップを捻るのではなく、グリップ近くのボタンを押した。

ボタンを押したが、速度は一向に上がらない。むしろ遅くなっている気がしてカナンは速度計を覗き込んだ。

「コラ、目を閉じてないと居場所がバレちゃうよ」

「でも、スピードが落ちてきてるから・・・」

言っている間に、バイクは完全に停止してしまった。


「大丈夫、スピードアップにはちょっとだけ時間がかかるんだ」


そういうと、バイクのどこからか音声が聞こえてきた。

《アップモードに切り替わりました。エンジンチェンジを行います。20秒お待ち下さい。

アップモードに切り替わりました。エンジンチェンジを行なっております。あと10秒お待ち下さい。アップモードに切り替わりました。エンジンチェンジを行いました。再度電源を点けてください》


「これが、じいちゃんの改造の1つ、スピードアップモードだよ」

エンジンをかけると、家を出るときにかけたエンジン音と比べものにならない複数の音が聞こえてきた。


「じゃあ、しっかり掴まって、しっかり目を閉じるんだよ」

イッセイはカナンの首に掛かっているマスクを耳にかけて電源を入れた。鼻の骨の付近に設計されている、極薄の空気清浄のモーターが回り始めたが、バイクの音が大きい為マスクの音は一切聞こえない。そのバイクの音は大型バイクと同じぐらいの音の大きさだ。マスクのモーター音など聞こえるわけなどない。

そして、イッセイはマスクの他にゴーグルも装着をした。


今度こそ加速の為に右手首のグリップを捻った。走り出しこそさっきと左程変わらな勝ったが、いつまでも加速していく。目を開けたくても開けていられないんじゃないかと思う風圧を、イッセイの後ろにいながらも体のところどころにカナンは感じていた。


(これは、マスク付けてなきゃ息もロクにできないかも・・!いったい何キロ出てるの?!)

怖いが、会話ができる速度ではない為、カナンは心の中で叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る