3話「地獄の特訓」(2)
俺がドログ師匠に連れて来られた場所はなんと断崖絶壁だった。
師匠の家から歩いて30分くらいの近くの山だ。
奥には広大に広がる地上の草原と遠くにある他の緑の山が視界に入った。そんな場所に恐ろしいほど巨大な岩がある。自分が初めて遭遇したドラゴンと同じ大きさの岩が目の前に。
「お前には今から目標を与える。この巨大な岩を一人で持ち上げられるようになる事だ。それが出来たら次の修行に移る」
「え?え?」
俺は頭が困惑し、目と口を大きく見開いた。
「この岩さえ持ち上げられたら、あの大剣を軽く扱えるようになる。まずは目の前の目標にだけ集中しろ。わかったか?」
そう言って、師匠はドラゴンと同じくらいの大きさの岩に右手を当てる。
俺は背筋をピンと張り、冷や汗をかきながら、迷いなく師匠に本音をぶつけた。
「む、無理です!!」
俺がそう言った途端、師匠は厳しい眼差しで、俺の背後に指をさす。
「よし、それじゃあさっさと帰れ。お前がここにいる理由はない」
「だ、だってそんな巨大な岩を持ち上げられるなら人間をやめてるのと一緒ですよ」
「そうだ、お前は今日から人間をやめるんだ。怪物になれ」
「怪物って......」
「剣士になるなら、自分よりデカい岩の一つくらい持ち上げて当然。お前はドラゴンより強くなるのが目標だ。無理だと思うならさっさと帰れ」
「そんな無茶な...」
その時、俺は家族の事を思い出した。母と妹の笑顔が頭をよぎる。
(なんで俺は下向きになっているんだ?俺は剣士になって、家族の仇を取りに来たんだろ。それならどんな無茶な事でもやるしかない!)
そして拳を硬く握りしめて決心する。
「わ、わかりました。必ずその岩を持ち上げてみせます」
「そうだ。それで良い。剣士になりたいなら素直に私の指示に従って入れば良い」
そう言って師匠は冷酷な表情のまま岩から右手を離した。
「当然だが、すぐにこの岩を持ち上げるのは不可能だ。これからお前に様々な鍛錬を与える」
「はい!」
そうして、師匠と俺は一旦山を降り始めた。
そして、下山してすぐの場所に自分の下半身くらいの大きさの岩が沢山並べられていた。まるであらかじめ準備していたかのように地面に置いてある。
「まずはこの小さな岩から持ち上げてもらう」
「わ、わかりました」
「見た目は小さいが、この岩一つで大人の人間5人の力が必要なくらいの重さがある。油断したら大怪我をするぞ」
(これで5人分!?あの銀色の大剣より重いじゃないか!)
ドログは小さな岩に手を置く。
「お前にはこれを持ったまま、さっきの山頂にある巨大な岩の場所まで走ってもらう」
「走る!?歩いて持っていくだけでもキツいのに?」
「つべこべ言うな。さぁ始めるぞ」
山の麓から頂上までは歩いて1時間はかかる。山は道も全て岩で、道が悪く普通に走るだけでもかなり大変だ。
(とりあえずやってみるしかないか)
俺は小さな岩を持ち上げる為に、近づいて岩の下に両手を入れた。
「うおおおお!!!」
俺は全身の筋肉に力を入れて、自分の頭の上に小さな岩を掲げる。
「よし、そのまま山頂まで全力で走れ」
「はい!うおおお!!」
そして、俺は一歩を踏み出そうとした瞬間、膝が岩の重さに耐えられず、そのまま地面に倒れた。そして持ち上げた小さな岩は地面にぶつかり粉々に砕け散った。
「痛ったぁぁぁ!!」
ドログ師匠はすぐに倒れた自分を呆れた目で見つめる。というか絶対見下してる。
「お前、全然体力がないな。剣士じゃなくてドラゴンの餌にでもなりたいのか?」
「体力がなくて当たり前ですよ!休憩もなしにここまで来てるんですから!」
俺は頭に少し血が上り師匠に言い訳するように怒鳴ってしまった。しかしすぐに我に返り、息を切らしながら尋ねる。
「いきなり怒鳴ってすいません。あと今日は流石に休ませてもらえませんか?このままやっても体力が保たないです」
師匠は息切れしてる自分を見て、深いため息を吐いた。
「考えが甘いな。甘すぎる。人をただの餌としか見ていない残忍なドラゴン共が休みをくれると思うか?お前は倒れた時点ですでに1回死んでる」
俺は両手を膝につきながら、師匠の言葉を聞く。そして再び歩き出し、他の小さな岩の近くに行く。
「わかりました。やってやりますよ」
俺は再び頭に血が昇る。そしてまた小さな岩の下に指を入れて、体全体に力を入れて頭上に持ち上げる。
(次こそは絶対にやり切ってみせる!)
そうしてまた走り出そうとした瞬間。俺の意識はいきなり飛んだ。
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