元英雄のおっさん、田舎で幼女を助けたら未来の魔王でした

k-ing/きんぐ

第1話 元英雄、魔王を拾う

「今回はしっかりと育ってきているな」


 俺は畑にこの間植えたばかりのトマトの様子を見にきていた。


「ヴォルフ、畑の調子はどうじゃ?」

「今回は失敗しなくて済みそうだ!」

「ははは、それはよかったのう」


 この世界・・・・での俺の名前はヴォルフガング。

 転生してそろそろ40年は経っただろう。

 ブラック企業で過労死して、気がつけば子どもとして異世界に生まれていた。

 思い残すことは特になかった。

 あるとしたらゆっくり生活できなかったことぐらいだ。


「それにしても、農民スキルがないのによう畑仕事を始めたのう」

「まぁ……いろいろあったんで……」


 この世界は、死ぬ前にやっていたゲームにそっくりだった。

 剣や魔法を使えば力がついて、努力すればちゃんと強くなれる。

 気がつけば『英雄』なんて呼ばれていたが――正直、そんな肩書きは重すぎた。


「今日はイノシシを狩ってくるけどいるか?」

「おー、かたじけない」


 俺は荷物をまとめて、近くの森に足を運ぶ。

 畑は中々うまくいかないが、狩りは俺の得意分野でもある。

 英雄と呼ばれた俺がイノシシを逃すなんてことはない。


 そもそも俺が辺境地の田舎に住んでいるのも、その英雄が関係している。

 有名になればなるほど、名声が邪魔をして生きづらかった。

 英雄なんて呼ばれたせいで、色んな連中に頼られ、娘を押しつけられ、挙句には派閥争いにまで巻き込まれた。

 そんな生活に嫌気がさして、辺境に逃げてきたってわけだ。

 今は辺境地で畑を耕したり、狩りをして生活しているほうが楽しい。


「って言っても畑は難しいんだよな……」

 

 強さは努力でどうにかなっていたが、畑はいくらやっても言うことを聞いてくれない。

 さっき心配で声をかけてくれたおじいさんにも、毎回失敗して笑われている。

 前世で畑の作り方を学べばよかったと、今になって後悔しても遅い。

 あの人から土地を借りているのに、畑のやり方は忘れたって言われているからな。

 せめて家庭菜園ぐらいはやるべきだった。


「なんか……森が静かだな」


 森に着くと、やけに静かで違和感を覚えた。

 普段は鳥の鳴き声や動物の声が聞こえてくる。

 だから、狩りにも適しているが、ここまで静かなのも珍しい。

 何か嫌なことが起こる前触れなのかもしれない。

 俺の勘は結構当たるからな。

 早くイノシシを捕まえて、この森から離れたほうがいいだろう。

 俺は森の奥に足を踏み入れる。


「魔物でも現れたのか?」


 この世界には魔物が存在している。

 よくゲームとかに出てくるスライムやゴブリンってやつだな。

 少し違うのはゲームの中よりも凶暴だし、見た目がそんなに可愛くない。

『立ち上がって仲間に成りたがっているようだ』

 そんな動きをされたら、即逃げ出すか倒したほうが良いぐらい。

 そんな魔物を動物たちも避けるようにして生活している。

 俺は木に登り様子を窺う。


「ゴブリンが三体だな」


 どこから来たのかはわからないが、ゴブリンが何かを囲んでいた。

 きっと動物を襲って食料にしようとしているのだろう。


「食物連鎖だから仕方ない――」


 俺はその場から去ろうとしたが、ゴブリンに囲まれているものから、チラッとだけ手足が見えた。

 明らかに襲われているのは人間だ。

 すぐに剣を鞘から抜き取り、ゴブリンとの距離を詰める。


「さすがに人間を見捨てることはできないからな」


 俺はゴブリンの首を剣で切り落とす。

 そのまま襲われていた人間を守るように、ゴブリンとの間に入る。


「顔を伏せていな」


 襲われていたのは森に迷った子どもだった。

 俺は手を頭の上に置いて、見ないように視線を下げさせる。

 さすがに魔物でも首が飛ぶ姿は見たくないだろう。

 叫ぶ間もなく二体目を切り裂いたところで、残りの一体のゴブリンが俺の存在に気づいた。


「逃すわけないだろ」


 後退するゴブリンに地属性魔法で小さな穴を作り、足を引っ掛ける。

 姿勢を崩すゴブリンと距離を詰めて、そのまま首を切り落とした。

 魔物と久しぶりに戦ったが、下級の魔物であるゴブリン程度なら簡単に倒せる。

 どうやら俺の力もまだまだ落ちていないようだ。


 すぐに向きを変えて、襲われていた子どもの様子を確認する。

 体も小さく、まだ日本だと保育園に通っていそうな見た目だ。

 ただ、転んだのか全身が血だらけで汚れている。


「大丈夫だったか?」


 俺はすぐに回復魔法をかけて傷を癒しながら、水属性魔法で体の汚れを落としていく。


「うん……」


 小さな声で頷いている声はか弱く、透き通っていた。

 髪の毛が短かったからわかりづらかったが、たぶん女の子だろう。

 ゆっくりと視線を上げて、赤い瞳がジーッと俺を見つめている。


「お前は……」


 俺は転生して、長いこと大事な記憶を忘れていた。

 今まで誰一人として、登場人物に出会ったことがなかったのが原因だろう。


「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」


 幼女の見た目をしているが、この子には絶対に関わってはいけない存在だ。

 俺はその場から急いで立ち去るように向きを変えた。

 だが、すぐに体が後ろに引っ張られる。


「やだ……」


 俺の服を引っ張り、大人が歩けないほどの力――。

 やはり俺の間違いではないだろう。


 全てを包み込むような闇に近い黒い髪に赤い瞳。

 幼いながらもスラリと伸びる白い肌もその特徴だ。

 何度もゲームをしていた時に姿を見ていたから、俺が間違えることはない。

 レベルをカンストしても倒せず、最強武器とスキルが揃わないと倒せなかったあいつがここにいるとはな……。


「なぜ、裏ボスの魔王がここにいる」

「まお……?」

「お前のことだ!」


 俺は威圧しながら問い詰めるが、魔王は首を傾げていた。


「……マオ?」


 それになぜか俺をキラキラした目で見つめてくる。

 まだ魔王の自覚がないのだろうか。

 それにまるで自分の名前と勘違いしているような気がした。


「俺はヴォルフガング! お前が魔王!」


 俺はすぐに指を差して修正する。


「マオ……ヴォ……ヴォ……」


 俺の名前は言いにくいのか?

 ヴォルフガングってこの世界ではよく聞くけど、発音しにくいし長いからな。


「だからもう一度――」

「……パパッ!」

「はぁん!? いや、パパって俺はお前の父でも何でも――いや、俺も社畜時代に部下に"お父さん"と呼ばれて仕事を頼まれてたっけ……」


 魔王は俺のことを指差して、「パパ」と呼んだ。

 突拍子もない言葉に俺は唖然とする。

 ついつい俺も社畜時代のことを思い出してしまった。

 頼られるのは嫌いじゃなかったからな。


「マオ……パパ! マオとパパ!」


 その後も自分のことをマオ、俺のことをパパと認識したのか、何度も俺のことをパパと呼んでいた。


「はぁー、もういいや。魔王なら家は……」


 魔王が住むところなら魔王城だろうか。

 だが、魔王城の場所って――。


「ここが魔王城のあったところだったりするのか?」

「しらない……」


 魔王が現れてから人々は住むところを失い、地形が変わったとゲームの中で言われていた。

 ひょっとしたら、この地が後に魔王が住む魔王領と言われていてもおかしくない。

 そもそも本編をクリアした後に追加コンテンツで出現したのが魔王領だから、記憶も曖昧だ。


「んー、魔王だけど、ここに置いておくのもな……」


 さすがに森に置いておくのも、俺の良心が痛む。

 力は強いが見た目はただの幼女にしか見えない。

 それに俺がその場を去ろうとしたからか、目をウルウルとさせて見つめてくる。

 まるでダンボールに入った野良猫に遭遇した気持ちだ。


「とりあえず家に連れて帰るか……」


 魔王だと思って、ただの迷子になった村の子どもだったらいけないしな。


「うん!」


 俺の言葉を理解しているのか、魔王……いや、マオは嬉しそうに頷いた。


「パパッ!」

「だから、俺はパパじゃないからな!」


 俺は魔王(幼女)を一時的に保護することにした。


✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦

【あとがき】


ドリアード、ゴブリン、座敷わらしの次は魔王を拾いました| |д・)

相変わらず何かを拾うのが好きな作者です。


今日は作者の誕生日なので、無理やり本日から投稿することにしました!

あー、今日からまたハードモードですねwww

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