第13話

「伏せろ!」


閃光。

鼓膜を突き破るかのような轟音。

俺が叫んだのと、火薬庫がその全てを解放したのは、ほぼ同時だった。


ドゴォォォォォォンッ!!!


凄まじい衝撃波が、俺たちの身体を襲う。

俺は咄嗟にリリアの身体を抱きしめ、地面に押さえつけた。

熱風と瓦礫の嵐が、背中に叩きつけられる。


「ぐっ……アアアッ!」


このままでは、俺もろとも吹き飛ばされる。

無意識に、俺は脳内で叫んでいた。

あの岩のような硬さを、くれ!


《対象:ロックベア(記憶)。スキル:硬質化(中級)を模倣します》


皮膚が、鋼鉄に変わる感覚。

背中に降り注ぐ瓦礫が、ガギン、ガギンと甲高い音を立てて弾かれていく。

凄まじい衝撃と熱が全身を襲うが、なんとか耐えきった。


やがて、地響きが収まる。

もうもうと立ち込める煙と粉塵で、何も見えない。


「……全員、無事か!?」


俺が叫ぶと、あちこちから咳き込む声と、返事が聞こえてきた。


「げほっ…げほっ…! た、隊長のおかげで、なんとか!」

瓦礫の中から、クロウが這い出してくる。

「すごい……今の爆発で、ほとんど無傷なんて……」

双子のサラとミアも、目を丸くして俺の背中を見ていた。

奇跡的に、潜入部隊は全員生きていた。


「よっしゃあ! 派手にやったな、隊長!」

部下の一人が、興奮したように叫んだ。

俺たちは爆心地から急いで離れ、周囲の状況を確認する。

その光景は、凄惨の一言だった。

火薬庫があった場所は巨大なクレーターと化し、補給基地の半分近くが炎に包まれている。

あちこちから白銀騎士団の兵士たちの悲鳴や怒号が聞こえ、組織的な抵抗は完全に失われていた。


「合図だ! 総員、突撃ィィィ!」


遠く、正面ゲートの方角から、バルガス副団長の鬨の声が聞こえる。

陽動部隊が、この爆発を合図に総攻撃を開始したのだ。


「ぼさっとするな! 作戦はまだ終わってないぞ!」


俺は混乱する部下たちに、檄を飛ばす。

「クロウ! 周囲の索敵と残敵の位置を報告! サラ、ミアは動ける兵士から無力化しろ! 俺とリリアは負傷者の手当てと全体の指揮を執る!」


「「「はっ!」」」


先程までの半信半半疑な態度が嘘のように、部下たちは力強く返事をすると、迅速に行動を開始した。


「貴様らか、ゲオルグ隊長を! このテロリストどもめ!」


その時、炎の中から、統率を失っていない一団が姿を現した。

指揮しているのは、中隊長クラスの腕利きと見える騎士だ。


俺はその騎士の、流れるような剣の構えを見て、ニヤリと笑った。


「運がいいな」


また一つ、コレクションが増える。


《対象:白銀騎士団 中隊長。スキル:流水剣(初級)を模倣します》


「お前の剣、見せてもらおうか」


俺は中隊長に向かって駆け出す。

相手が繰り出す剣技を、俺は全く同じ『流水剣』で受け流し、いなしていく。


「なっ!? なぜお前が流水剣を……!」

「お前の剣は、まだ甘いな」


俺は相手の剣筋の、さらに先を読む。

より洗練された『流水剣』でカウンターを叩き込み、中隊長の剣を弾き飛ばした。

その光景を見た残りの兵士たちは、完全に戦意を喪失し、武器を捨てて逃げ出していく。


「レオン、こっちの治療は終わったわ!」

リリアが、腕に軽い傷を負ったミアの手当てを終え、駆け寄ってくる。

彼女もまた、立派に自分の役目を果たしていた。


やがて、バルガス率いる陽動部隊が、抵抗する者もいなくなった基地の中心部で俺たちと合流した。

バルガスは燃え盛る基地の惨状と、ほとんど無傷の俺たちを見て、呆れたように、そして感心したように言った。


「……おいおい、すげえじゃねえか、隊長。本当にやりやがった」


第四補給基地は、完全に陥落した。

作戦は、俺たちの完璧な勝利で終わったのだ。


「隊長! ありがとうございました!」

「あんた、最高の指揮官だよ!」


部下たちが、心からの敬意を込めて俺の周りに集まってくる。

誇らしい気持ちと、安堵感。

俺が、ふっと息を吐いた、その時だった。


キィィィィィィィン――!


空気を切り裂くような、甲高い音が、遥か王都の方角から響き渡った。

全員が、何事かと空を見上げる。


「……なんだ、あれは?」


黒い点が、こちらに向かって猛烈な速さで飛んでくる。

その点が、徐々にはっきりとした形を成していく。

翼を持つ、巨大な爬虫類。


「……ワイバーン!?」

誰かが叫んだ。

その背中には、月光を浴びて輝く、白銀の鎧を纏った一人の騎士が跨っている。


リリアが、息を呑んだ。

「あれは……白銀騎士団最強の航空戦力、『竜騎士』……!」


バルガスの顔から、さっと血の気が引くのがわかった。

「まずいぞ! 王都の最精鋭、“白銀の三騎士”の一角……『疾風のアルベール』だ! 報告を受けてから、なぜ奴がこんなに早く到着する!?」


ワイバーンは、あっという間に俺たちの頭上まで到達すると、急降下してきた。

その背に乗る騎士、アルベールが、まるで虫けらでも見るかのような冷酷な目で、俺たちを見下ろす。


「黒曜の犬どもめ。我が騎士団の補給基地を荒らした罪、その命で償ってもらう」


基地を制圧した達成感は、一瞬で吹き飛んだ。


ここまで伝わる殺気。


((強い!!))

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