第12話 牙の眠る檻

 咎封区画ざいふうくかく

 それは地下鉄路線図にも、都市再開発マップにも存在しない“埋もれた都市”。

 地図から消された区画には、牙の研究と実験の全てが葬られていた。


 そして今、レイはそこへ足を踏み入れようとしていた。


 東京湾地下40メートル、旧防災通路から続くエレベーター。

 アクセスキーはマキがかつて“白鴉”から逆探知した暗号。


「アクセス──咎封管理中枢へ」


 無機質な音声が鳴ると、鉄の扉が開いた。


 広がったのは、白く冷たいコンクリートの世界。

 だが空気は生々しく、誰かの“呼吸”すら感じられるほどだった。


「レイ……何か、いる」


 ミナトの声が震えていた。


 次の瞬間、警報が鳴る。


《侵入者確認。牙保持者・H-0/Ω-7 隔離対象。即時実験域へ》


 床が割れ、装甲兵たちが出現する。

 しかしそれは、ただの警備兵ではなかった。


 全員が“牙”を持っていた。


「……コピーか」


 レイの目が細められる。


 眼前に現れた敵、それは“量産型牙兵”──咎封の遺産。


 異能の暴走、能力の混合、記憶操作。

 その全てを詰め込まれた“牙の実験体”たち。


「でも……彼ら、泣いてる」


 ミナトの言葉どおり、その目は空ろで、涙を流していた。


「生かされている、だけか」


 レイは黒刻牙を抜く。


「なら──終わらせる」


 彼の一閃が、檻の中に眠っていた者たちを斬り裂く。


 だが、戦いの果てに。


 最奥の部屋、冷凍拘束室の奥。


 そこには、ひとりの少女が眠っていた。


 機械に繋がれ、まるで時間が止まったような存在。


 レイは息を呑む。


「……ナユ……?」


 その名を呼んだ瞬間、彼女の目が、ゆっくりと開いた。


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何とレイ、シスコンかァァァァァ⁉

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