第6話「恋愛感情を聞いたなら」

 二人は椅子に座ったままお互いの手を握っていた。

 すると、音楽室の扉が開き生徒が次々と入ってくる。


「こんにちはー。今日もがんばろーね!」


山吹色の長い髪で、茶色のカチューシャを付けた女の子が入ってきた。その後、


「こんにちは。今日もよろしくお願いします」


黒色の長い髪を二つ結びにして、白いリボンを付けた眼付きの怖い女の子が鋭い眼差しをしながら入ってきた。


「こんにちは。今日も頑張ろうね」


灰色のショートヘアに黒色のヘアピンを付けた、大人っぽい女の子が入ってきた。


 花帆は部員たちが入ってきたので思わずその場から立ち上がった。


「こ、こんにちは……」

「あれ? もしかして……新入部員かな?」

「そうです。この子は花帆ちゃん。私の友達なんです」


 視線が一点に集まって来る。目線を逃がす先も見つからない。


「え〜、ほんと? やった〜! 可愛い!」

「ふん、また騙されたんじゃないの、美香」

「そんなことないよ。だってこの子、声が綺麗なんだもん」


 明るく手を握る女の子、冷たい視線の凛とした女の子、落ち着いた雰囲気の長身の女の子。

 それぞれが違う空気をまとっている。


「こんにちは。新木 花帆です」

「うん。ようこそ、アカペラ部へ」


 先輩の笑顔は、歌声みたいに真っ直ぐで温かかった。


 ***


 部員たちが椅子に座って部長が司会を務めていた。


「そろそろ顧問が来るから、待っててね」

「は、はい!」


『顧問、どんな先生なんだろう。優しくて明るくて接しやすい先生が良いな……怖い先生だったり、厳しい先生は嫌だな……』


 花帆がそう思っていると隣の席からおしゃべりが聞こえてきた。


「ねぇねぇ! 今日は新入部員が来たから、歓迎会やらない?」

「私はパス」

「えぇ~、そんなこと言わないでよ~」

「いや、歓迎会をするなら、先生の許可が出ないとダメだから」

「はーい」


 花帆は先輩たちとのやりとりに『クスッ』と笑った。


「あ! 笑った!」

「おやおや。新入部員ちゃんに笑われちゃったね」

「も~。笑わないでよ!」


 きゃっきゃと賑やかな空気が音楽室に流れる。


 すると、扉が開いて顧問が入ってきた。


「あ! こんにちは。先生」

「はーい。こんにちは」


 先生は明るく挨拶を交わすが、花帆は担任の先生の存在を疑問に思った。


「あれ? 成田先生?」

「新木さん。どうしたの? こんなところで」

「えっと、私、この部活に入りたくて来ました。えっと……何部でしたっけ?」

「ふふっ、アカペラ部よ」


 先生は笑いながら答えた。


「……アカペラ部。ですか。私、歌が歌いたいんです」

「それなら大歓迎よ。今、新しい部員をちょうど探していたのよ」

「まあ、良いんじゃない? 部員が多い方が、歌が奇麗に奏でられるし。何より複数のパートを一人で持つのは大変だし」

「うん! そうだね」

「じゃあみんな、席についてくださいね」


 成田先生が指示を出すと部員たちはそれぞれ席に着いた。


「それでは、ミーティングを始めます。まずは顧問紹介から。私は成田茜、アカペラ部の顧問です。そして、一年一組の担任です。私は学生時代から歌うことが好きで、それからずっと歌を歌っていました。好きなことはカラオケで、よく一人カラオケをしています。精一杯の力を発揮できるようにみんなを支えていきたいと思います。よろしくお願いしますね」


 音楽室に拍手が沸き起こる。


「先生。恋バナを聞かせて下さい」

「えぇ、恋バナね、どうしようかな、やっぱり恥ずかしいわよ」


 先生は頬に手を当てて照れた。この時、部員たちは『この先生、意外とチョロいかも』と思っていた。


「ちょっとだけでいいので、お願いします」

「じゃあ、ちょっとだけよ?」


 先生は息を吸って言葉を紡ぎ始めた。


「ある時、友達の歌声に一目ぼれして、自分も歌いたいと思いました。それから、友達と一緒に歌う日が増えていき、気が付いたら歌を好きになっていたり、友達のことが好きになっていました。その子とは最終的に恋人同士になりました。あの日、一緒に過ごして、思いを伝え合って、仲良くなって、キラキラな青春時代を過ごしたことを今でも忘れられません。さらに、現在は、その子とは同居しています」


 部員たちは先生の話を聞いたとき、とてもほんわかした雰囲気に満ち溢れた。


「へぇ〜。先生ったら、とってもロマンチックですね~」

「ええ。そうね」

「素敵すぎる……」

「聞いてくれてありがとうね」


 先生は頬を赤らめていたけど、花帆からは頼れる先生に見えた。


『すごい、先生はすごいな……私もあんな風に喋れていたら良かったのに。あと、キラキラした学園生活を過ごせていたらな……』


 先生の過去話と自己紹介をした後、部員たちはときめいていた。


「あの、先生」

「なにかしら?」

「先生は、さっき恋人同士って言ってましたよね? あれって男の子ですか?」

「男の子じゃないの。女の子よ」

「え?」


 部員たちは意外な答えが返ってきたので戸惑った。


「ざっくり説明すると、最初は友達同士だったの。そこから、『歌声が素敵だな』って思って勇気を振り絞って話しかけたの。話していたら仲良くなって、一緒に歌を紡いでいたの。出会ってから毎日、一緒に歌を紡いでいたら、その子のことをもっと知りたい、ずっと一緒にいたいと思って、気が付いたら好きになっていたのよ」

「へぇ〜、素敵な出来事ですね。先生」

「ありがとう。結局、卒業して離れ離れになるから、たくさん泣いたことは今でも覚えてるの。あなたたちも、ロマンチックな出来事があれば、とても素敵だと思うよ」

『他人のことをもっと知りたい、ずっと一緒にいたいか……』


 花帆は感心して聞いていた。


「さ、次はあなたたちの番よ。自己紹介を一人ずつ、お願いね」


 次回、部員たちの自己紹介が行われる。個性的な部員たちの紹介にワクワクが止まらない。


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