現代ダンジョンでハーレムを作るはずがTSした上に物語の主人公みたいなやつに狙われているのだが?
肇真 りか
一章 女体化?〜石版の謎〜
第一話:天才Sランク冒険者、女体化の危機
西暦2050年、突如現れた『ダンジョン』は、世界の常識を根本から塗り替えた。かつてファンタジーの中だけの存在だった魔物やお宝、そして冒険。すべてが現実(リアル)となり、人類は職業に『冒険者』という新たな選択肢を加えることになった。
俺――
稼いだ金は億単位。金も名声も思うがまま。恋愛も、好きなだけできると思っていた。
そう――俺は、ダンジョンで稼いだ金で、人生最高のハーレムを築く未来だけを追いかけてきた。相棒のレンタル彼女アプリは常時未読50件オーバー。20台の高級外車に、6つの高層マンション、プール付きの別荘……。だが、本命はやはり冒険者仲間の美少女たちと創りあげる、俺だけの黄金のハーレムだ。
そのはずだった。あの日までは――。
その日は、最後に一つ大きなダンジョンを攻略し、引退して悠々自適に暮らすつもりだった。噂によれば、世界でも最大級、未踏の危険地帯と名高い『アトランティス・ゲート』。世界中の冒険者が挑んでは帰らなかった、伝説のダンジョンだ。
──死ぬかもしれない。
そんな危険とスリル、そしてなにより、そこに眠るお宝。男として、いや、探索者として――挑まずにはいられなかった。
「最後だ。これをクリアしたら、俺の理想のハーレムライフが待っている!」
入口の黒曜石の門を開けた瞬間、背筋に雷が走るような興奮を覚えた。これまでのダンジョンとは格が違う。気圧の変化、重厚な空気、漂う魔力。Sランクの俺すらも一瞬たじろぐ。
だが、迷っているヒマはない。強化防具を身に纏い、愛用の魔鉱石ブレードを腰に差し、深呼吸一つ。
「さあ、いこう――この扉の向こうに、俺の夢がある!」
*
ダンジョンは思った以上に手強かった。殺意剥き出しの魔獣、罠、そして異様なまでに複雑なギミック。
それでも、俺は『天才』の異名を持つSランク冒険者。長年培った勘と技術、そして圧倒的なパワーで、順調に最奥を目指す。何度も死にかけたが、その度に閃きと思い切りで切り抜けた。
そしてついに、最奥の間(ボスルーム)へと辿り着いた。中央には、いかにもそれらしい、巨大な黄金の宝箱。
「……これだ」
心臓がバクバクと鼓動を打つ。その箱に触れれば、俺の冒険は終わる。そして始まるのだ――俺だけの理想のハーレムが。
決意を込めて、宝箱の蓋を開ける。
……その瞬間。
鮮烈な閃光が俺を包み込んだ。目が焼けるような痛み、焼け付くような熱。
気づけば、手には奇妙な石版を握りしめていた。「女神の誓約」という文字が、古代文字で刻まれている。
「……は? これ、石版?」
脳裏に直接響く、荘厳な女神の声。
『そなたの願望は知っている。さあ、今こそ新たな運命を――』
頭が割れるような眩暈がした。
「ぐっ……がぁぁッ!?」
意識はすぐにブラックアウトした――。
気がついた時、俺は見知らぬベッドの上。柔らかく甘い香りが鼻をくすぐる。……いや、こんな香り、嗅いだ記憶はない。
「ん、……あれ? なんだ、この声……って、えっ?!」
目を開けると同時に、激しい違和感に体が包まれる。……まず、違う。何が違うって、胸? なんか違和感あるし、腹回りも妙に細い。髪が……長い!?
慌てて近くの鏡に走る。
「う、うそ、だろ……」
そこに映ったのは――金色のロングヘアをさらりと流し、澄んだ青い瞳の、美少女。モデルやアイドルでも敵わないくらい整った顔立ち。間違いなく――俺……じゃない!?
現実感のない美少女が、鏡の向こうで固まり、ゆっくりと口を動かす。
「あ、天斗輝……だよな? これ……俺、だよな?」
胸元で震える手が――まるで自分のものじゃないみたいに、柔らかい。
……どうやら、俺は女になってしまったらしい。
最初はパニックだった。叫んで、泣きそうになって、意味不明な石版を何度もにらみつけた。助けを求めたいが、誰に話せばいいのかも分からない。
結局、食事を済ませ、女体の動かし方に慣れるため必死に自主トレをし……。夕方になって、いやでも事実を受け容れるしかなくなった。
(……どうしよう。これじゃ、ハーレムどころか、普通の恋愛すら無理じゃねぇかよ)
絶望のどん底に突き落とされた俺だったが――
その時、ふと気づいた。今ここにいるのはSランク冒険者、いや、冒険者の中でも伝説級な俺様だ。肉体は女でも、心まで負けるわけにはいかない!
「そうだ……こうなったら、女になってもハーレム作ってやる!」
どうせなら、逆ハーレムでも作ってやろうか。わからんけど、美女になった俺なら可能性はある……のか?
そう考えて、俺は再びダンジョンに潜る決意をした。もしかしたら、石版の謎を解けば元に戻れるかもしれない。少なくとも、何か手がかりがあるはずだ。
*
新しい体に慣れないながらも、俺は手慣れた調査装備を準備し、人気の少ないAランク以下のダンジョンへと向かう。さすがにいきなりSランクは無謀だし、誰かにこの姿を見られるのも怖かった。
だが、現実は俺の心配などお構いなしに、物語を進めていく。
*
ダンジョンの入口で息を整えていると、誰かの足音が聞こえてきた。複数人。思わず身を隠す。
「ふー、ここが今日の攻略ダンジョンか。みんな、準備はいい?」
爽やかな青年の声。見るからに好青年で、背も高く、明るい笑顔。そして、なぜか美少女たちが何人も――合計五人――きゃっきゃと彼の隣を取り合っている。
(……なんだあいつ……まるでラノベの主人公じゃねぇか!)
まるで、リアルハーレムだ。俺が夢見た、それ以上の姿。嫉妬が湧く一方、どこか悔しくて笑いがこみ上げる。
それだけじゃなかった。その主人公らしき青年が、ふとこちらを見て、ニッコリ微笑んだ。
「……あれ、君。ひとりで冒険者やってるの?」
(やべっ、見つかった!)
思わず変な汗が流れる。だけど、今さら隠れきれる状況でもない。
「え、あ、うん、まぁ……」
俺は、違和感だらけの自分の声で、絞り出すように返事をした。
その瞬間――青年の瞳が、ぐい、と好奇心いっぱいに輝く。
「すごい。女の子ひとりでAランクダンジョンに来るなんて、相当な実力だよね? 君の名前、聞いてもいい?」
美女ぞろいのパーティが一斉に興味津々で俺を囲む。
(え、なにこれ……俺まさか、ヒロイン枠にされてる?)
現実離れした事態に、動揺しまくる俺。彼らの中心には、まぶしいくらいに主人公らしい彼がいて、その笑顔で――
「良かったら、僕たちと一緒に攻略しない?」
なんて、どこかで聞いたような台詞まで飛んできて。
(おいおいおいおい、どうすんだこれ!?)
俺の転落人生、いや、女体化人生の第二幕が、こうして静かに始まったのだった。
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