第5話

第5話


深夜。

すべての家の灯りが消えたトリタ村で、たった一か所だけ、蝋燭の火が夜の村を照らしていた。


「これからどうすればいいのですか?」

「それは当然、逃げるべきでしょう!」

「逃げるだと!ここからどこへ逃げるというのだ!?」

「だからといって、このまま皆で死ぬわけにはいかないでしょう」

「死ぬだと?絶対者様は、そのようなことは一言もおっしゃっていないぞ!」


村長のゼボロを含む、村の代表者5人が集まり、会議をしていた。

今、この中の代表者は真っ二つに分かれていた。


絶対者、イカロスのもとへ行った代表者二人、ミホルとデベルは賛成。

テスを含むもう一人の代表者である老婆、ヒューバは反対していた。


「私が死んでも絶対にだめだ。どこの馬の骨とも知れぬ者の下に入るなど!我々を守ってくださった神がお怒りになるぞ!」

「我々を守ってくださった神様がお仕えする方です!その方に従うことこそ、神に従うこと!それがお分かりになりませんか!?」

「聞きたくない。とにかく、その者に従うというなら、私は絶対に反対だ」


ミホルは深いため息をついた。


「では、今の状況は賛成と反対が半々ということですから…」


彼はゼボロを見つめて言った。


「村長がお決めください。もし村長が従わないとおっしゃるなら、我々も命を懸けてあの方に反旗を翻します。ですが、村長が賛成されるなら、ヒューバ様も反対せずについてきてください」

「聞くまでもなく、村長も反対なさるだろう。聞くこと自体がおかしいわ」


ゼボロは椅子に座り、杖に寄りかかったまま深いため息をついた。


「ミホル」

「はい、村長」

「お前が行ってみて、そのイカロス様という方はどうだった?」


ミホルは目を閉じ、しばし考えに沈んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「私があの方を判断するには、話した時間が非常に短かったですが…それほど悪い方ではないように思えました。そもそも、我々と同じヒューマンの姿でしたし」

「魔族や悪魔のようではなかったか?」

「はい。あの方からは、そのような気配は感じられませんでした。何より、魔族や悪魔であったなら、我々を救ってくださった懲罰の女神様が、あの方に従うはずがないと思っております」

「それは分からぬことではないか?村を救ってくださった方がご自身を懲罰の女神レモトリアだとおっしゃったが、あくまで自称だ。誰かが証明できるわけではない」

「それはそうですが…」

「何より、あの方は我々が知る懲罰の女神、レモトリア様とは姿が違う。伝え聞くところでは、純白の女神と言えるほど翼も髪も、目まで白かったはずだ。だが、我々の前に来られた方は、半分が黒色だった。そのような方が懲罰の女神様であるはずがないではないか?」

「ですが、それもあくまで伝説として伝わっているだけで、実際に見た者はおりません。それに、時が経って少しお変わりになったのかもしれません」

「そう言われてしまえば言葉もないが…ひとつだけ確かなことは、あのお二方は我々が判断できるようなお方ではないということだ」


ゼボロは呻き声を漏らし、じっと座って考えに沈んだ。


そうして数分が経っただろうか。

ゼボロは天井を見上げた。


「期限は、明日が最後だったか…」

「はい。期限が切れる前に決めなければなりません。あの方に反旗を翻すか、それともあの方の民となり、庇護を受けながら生きていくか…」

「はあ…もう少し時間があれば、他の国で情報をもう少し探せたものを…」

「村長。探す必要がどこにありますか?ただ拒否すればいいのです」

「いえ。あの方にお仕えすべきです。そうしてこそ、村はより安定して発展できます」

「村長!」


悩んでいたゼボロは、やがてゆっくりと口を開いた。


「よし。決めよう。我々は…」


***


「今日が最後だろ?トリタ村に考える猶予を与えた期限が」

「はい」


今、太陽は真上にある。

少なくとも夕方までには、結果を受け取らなければならない。

そうすれば、もう少し早く建物を建てられるからな。


「どうなさいますか?」

「そりゃ、答えを聞きに行くさ」

「いえ、イカロス様が自らお出ましになる必要はございません。私が直接トリタ村へ行き、代表団を連れてまいります」

「レモトリア」


俺がぎこちなく笑って呼ぶと、レモトリアは頭を垂れる。


「はい、イカロス様」

「俺をどこにも行かせないつもりか?」

「そ…そんなはずは…!私はイカロス様が少しでも楽に政務をご覧になれればという願いから…!」

「今、この世界に来てから、俺は一度も他の場所に行ったことがなくて、少し息が詰まるんだ。俺も少しは風に当たりたいんだが。だめか?」


その言葉に、レモトリアは慌てて謝罪する。


「申し訳ありません。私がそれも知らず、出過ぎた真似を…この不敬は、私の命をもって…!」

「待て、レモトリア!」


レモトリアがどこからともなく取り出した光の槍で、自分の体を突こうとするのを、俺は腕を掴んで止めた。


「イカロス様、お放しください!この懲罰の女神レモトリア、イカロス様に対してそのような不敬を犯しておきながら、生きていく自信はございません!」


おいおい、これは重症だぞ。


「レモトリア。お前、今勘違いしてるようだが、お前の命は俺のものだ」

「は?」

「今、お前は俺のものを無くそうとしているんだぞ」

「イカロス様…」


レモトリアが涙ぐみながら俺を見つめる。


「俺が命じる。お前は俺のものだ。絶対に、お前の体に傷一つ負わせるな。分かったな?」

「承知いたしました…!このレモトリア…イカロス様を除き、誰一人として私の体に指一本触れさせません…!」


今回も顔が赤くなるのを見ると、何か勘違いしているようだ。

どうしてこうも勘違いが多いのか。


「さて、じゃあ行くか」

「はい。トリタ村まで、私が護衛いたします」

「ああ、頼む」


HoWのゲームの中に入って、初めて行く村。

果たして、村はどんな姿をしているのだろうか。

気になるな。


***


トリタ村の内部。

人々が忙しなく動き回っている。

家の中にある物をすべて運び出し、必要なものだけを風呂敷に包んで荷造りし、外に出している。


「村長、一刻も早く行かなければなりません。このままぐずぐずしていて、あの方がお越しにでもなったら…」

「心配するな。絶対者という方が、そう易々と他の場所へお越しになるはずがない」

「はあ…」


ミホルは不安そうな表情で、ずっと森を見つめていた。

この状況で、万が一、絶対者、いや、レモトリアと自称した者が来でもしたら、大変なことになるからだ。


「皆、急いで荷造りをしろ!」


村長の声が響き渡ると、人々はさらに急いで荷造りを始めた。


そうして何分経っただろうか。

荷造りを終えた人々が、村の入り口に集まった。


「人数を数えよ!」


テスが一人一人頭を数え、人数を確認した。

しかし、ほどなくしてテスの顔が真っ青に染まった。


「む…村長、一人が足りません!」

「一人が足りないだと?どういうことだ?」

「ロミ…ロミが見当たりません!」

「ロミだと…!」


ロミは、先日ヘルビーストに殺されたホセップの妹だった。


「急いでホセップの家へ行ってロミを探せ!」

「分かりました!」


一刻を争うこの状況で、村人が一人いないとは。

村長の額に冷や汗が流れ始めた。


「いや、テス!戻ってこい!」

「は!?」

「ひとまず我々だけで出発する!ロミは後で迎えに来ればいい!」

「しかし…!」

「村人全員を死なせる気か!?」


テスは歯を食いしばり、彼らのもとへ戻ってきた。


「分かりました」

「さあ、出発だ」


人々が村の外へと動き出す。

彼らの表情は皆、暗かった。

できてからまだ日は浅いが、愛着のある村を去るのは、非常に悲しいことだった。


「ここから目的地まで、どれくらい…」

「止まれ」


村長が目的地までの期間を尋ねようとした、その時。

空から声が聞こえた。

人々が顔を上げて空を見上げる。

そこにいたのは、白と黒の翼を持つ美しい女性。


「今、どこへ行く?」


そう尋ねる彼女の表情は、かなり険しかった。


「レ…レモトリア様…!」


ゆっくりと空から降りてきたレモトリアは、彼らを見つめて叫んだ。


「今どこへ行くのかと聞いているのだ!」

「そ…その、そうではなく…!」

「イカロス様が直々に命まで助けてくださったというのに…お前たちはイカロス様を裏切り、他の場所へ行こうというのか?」

「そうではありません!我々は…!」

「聞きたくない!」


レモトリアが右手を高く上げた。

すると、巨大な光の槍が彼女の頭上に現れた。


「イカロス様を裏切ったお前たちを殺し、アンデッドにして永遠にイカロス様のためだけに奉仕させてやる…!」

「レモトリア様!」


ミホルが前に出て止めようとするが、レモトリアは聞く耳を持たず、すぐにジャッジメント・スピアを投げつけようとした。


「やめろ!」


その瞬間、聞こえてきた男性の声に、レモトリアは動きを止め、ジャッジメント・スピアを消した。

険しかった彼女の顔は瞬く間に穏やかになり、礼儀正しく頭を下げて脇にどいた。


人々の視線が皆、声が聞こえた方向へ向かい、森から一人の男がずんずんと歩み出てきた。


「い…イカロス様…」


ミホルが小さく呟いた。


「あの方が…イカロス様か…」


ミホルが言った通り、彼の姿は紛れもなく若いヒューマンだった。

しかし、彼の周りから流れる強大な気配。

それは、彼が普通の人間ではないことを、彼らに刻み付けた。


「イカロス様が直々にここまでお越しになった。皆、膝をつけ!」


レモトリアの言葉に、怯えた人々が一斉に膝をついた。

ただ一人。

ヒューバという老婆を除いて。


「そこの人間。不敬を働くつもりか?」


レモトリアが今にも殺さんばかりの勢いでヒューバを睨むと、ヒューバは鼻で笑った。


「はっ!どうせ先も長くない年寄りだ。今死のうが後で死のうが、どれほどの違いがあるものか」

「不敬な…!」

「レモトリア…!」


イカロスがレモトリアに近づき、恐ろしい形相で睨むと、レモトリアは慌てて頭を下げた。


「は…はい…イカロス様…」

「俺がやるなと言ったよな?」

「し…しかし、あのような不敬を目の当たりにして…」

「お前、もう一度俺がやるなと言ったことをやったら、その時はお前が罰を受けるから、そう思っておけ」

「ですが…!」

「…っ!」


レモトリアは、まるで叱られた犬のようにしょげかえり、頷いた。


「それでいい」


イカロスが笑って彼らに近づくと、ヒューバは目を細めて彼を見つめた。


「あんたがイカロスか何とかいう男かい?」

「ああ、そうだ。俺がお前たちに民になれと提案した男だ」

「今日が最後の期限だというのに、なぜ今来たんだい?来るなら明日だろう」

「明日俺が来たら、お前たちを占領するために来るんだが、その方がよかったのか?」

「ふむ…」


ヒューバは深いため息をついた。


「で、ここまで絶対者が何をしに来たんだい?」

「そりゃ、答えを聞くためさ」

「答えなら、まだ時間が残っているだろう?」

「時間は残ってるが…まあ、仕方ないだろ?俺も早く仕事をしないと」

「絶対者が時間も守れないとは。本当に絶対者なのかい?」

「俺は聞きに来たと言っただけで、お前たちに期限が過ぎたとは言ってない。そう誤解されると困るな」

「それなら、帰りなさい。そうすれば、もう少し考えた後に答えを…」

「それは少し難しいな」


イカロスは笑みを消した。


「様子を見るに、すでにお前たちの答えは決まっているようだからな」


その言葉に、ヒューバは驚いた表情を浮かべ、ふっと笑った。


「ああ、決まったさ」

「それなら聞こうか?どうすることにしたのか」


彼の問いに、村長がおずおずと立ち上がる。


「はじめまして、イカロス様。私がこの村の村長、ゼボロでございます」

「なんだ、村長は別にいたのか?」

「はい。先ほどまで話していた老婆は、我々の村の代表の一人です」

「そうか…」


イカロスはぎこちなく笑い、ゼボロに尋ねた。


「よし、村長のお爺さんが言ってみろ。どうすることにしたのか」


村長は杖をつき、ゆっくりとイカロスの前に立った。

そして、イカロスの顔を一度見ると、やがて膝をつき、平伏した。


「絶対者様。我々トリタ村の者は、一人残らず、皆、あなたの民となることを決意いたしました」


頭を下げて告げる彼の姿を、イカロスはじっと見つめ、そして微笑んだ。


「いい選択だ」


そして、続いて人々を見つめて叫んだ。


「皆、立ち上がれ」


人々が一斉に立ち上がると、イカロスは叫んだ。


「お前たちは今から、もはやトリタの住民ではなく、俺が建てた国、中立国デロスの民だ。俺に敵対する者は皆お前たちの敵であり、俺の友は皆お前たちの友だ。また、俺がいる限りお前たちが飢えることはないよう最大限努力するから、お前たちも俺の言うことをよく聞いてほしい」

「承知いたしました!」


人々はイカロスを見つめ、両手を合わせて祈った。


「では、出発しようか。デロスへ」

「イカロス様。私が先導いたします」

「頼む、レモトリア」


レモトリアが森の中へと入っていき、イカロスを含む村人たちも皆、ゆっくりと森の中へと歩みを進めていった。


***


**【現在の状況】**


[国家名]

デロス


[性向]

中立


[政治体制]

絶対君主制


[君主]

イカロス


[国家等級]

新生国家(Lv.0)


[首都]

デロス


[人口]

17 / 0


[英雄数]

1(レモトリア)


[忠誠度]

87%


[兵力]

0(兵舎なし)


[国教]

なし


[象徴]

白と黒の双翼(レモトリアの象徴)


[評価]

デロスは英雄「レモトリア」を擁する絶対者「イカロス」による建国初期の国家であり、強力な象徴性と潜在能力を持つ成長型の国家である。

戦闘力は英雄単独でほとんどの脅威を制圧可能だが、兵力・行政・経済基盤はまだ未熟な状態。

民心は絶対者イカロスへの畏敬の念により安定を維持している。

今後の成長方向によっては超大国に発展するか、外部の圧力に崩壊する可能性もある、不安定な均衡状態にある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る