結章・ハーレム展開編

ハーレム展開① 退廃的な交際開始


 白み始める空。未明あたりに早起きした僕としぐれは、台所で闇の菓子作りに挑戦していた。

 しぐれの服は汚れてしまったので洗濯中。代わりに僕のシャツを貸した。おかげで目に毒だ。全裸にシャツと下着だけ。これっていわゆる彼シャツでは? ボタンの結び目から巨乳やくびれの肌が露出してる。それなのに彼女は羞恥を忘れて、僕の作ったホットケーキのような何かを真剣に味見していた。


「んー。まずい!」

「そうか。仕方ない。でも食べないともったいないから、僕が全部食べるよ」

「お腹壊すよー?」

「これでも体は頑丈だから大丈夫だよ」


 さすがに焦げたものは食べないけど、味がまずい程度なら素早く噛みまくって飲み込めばいい。舌が味を感じる前に三十回は噛むんだ。慣れない自炊を始めて料理に失敗することが多くなったから、失敗作を食べきる工程はもはや慣れたもの。適当に調味料を振りかけて食べれば、それなりに味が良くなるのも良い発見となった。七味とうがらしや塩コショウさまさまである。


「ねぇ~え~」

「なに……」

「ハグしてっ?」

「はい」


 唐突に服の裾を引っ張られて求められる。視界端で上目遣いするしぐれを直視できない。尻目に片手を伸ばして抱き寄せる。

 突然ほっぺに柔らかい感触。つま先立ちしてキスをぶつけられた……。


「しぐれも堕ちたね。退廃に」

「なっ! お、落ちてないよー!」

「でも例年にないほど積極的だ」

「そ、それは……両想いに、なれたからで……っ!」

「踏ん切りが欲しかったんでしょ? それがコレっていうのも、なかなか下品な話だけど」

「康太のえっち!」

「しぐれもえっち」


 完食。フライパンを洗う。

 やがて風梨が起きてきた。


「ふわっ……ふたりとも、おはよう……」

「おっはよー風梨~!」

「今から四人分の朝食を作ろうと思ってたんだ。座卓に四人分のカップ麺あったよね?」

「ふわ……うん。最後の四つ、あったよ」


 なら目玉焼きと野菜炒めでいいか。すると冷蔵庫もちょうど空っぽだ。ネットスーパーの通販で夕方に届けてもらいつつ、カタログに無かったものは学校帰りの商店街で買い出しするか。そうなると荷物が多くなるから自転車ママチャリが必要だ。忘れず持っていこう。


「あのさ。昼から夜までバイトなんだけど、夕方に食材が来るんだ。誰か受け取ってくれない?」

「ふわっ……それなら私が……」

「あ、ならあたしもお留守番するー!」

「じゃあ予備の鍵、風梨に渡しておくね。ついでに新都で合鍵を作ってくるから。後日三人に配るよ」

「ふ、ふわ……!」

「っ……」

「なに? まるで恋人みたいって? 実際、僕らどういう関係なのかな?」


 幼馴染だけど、もうそれだけじゃない。

 告白もせずに、ただならぬ関係に……。


「ぶっちゃけどうする? それ含めて世間体とか考えたほうがいいと思う。悪評が立つといけないから、あくまで幼馴染として通したいけど……さすがに高校生にもなって男女四人屋根の下で朝帰りは……ねぇ?」

「私にいい考えがある」


 ロフトの上から碧央の声だけが届いてくる。いつの間に起きていたのか。台所に立ってると彼女の顔は見えない。しぐれは真上を見上げながら数歩後退して、碧央と目を合わせたようだ。


「その前に愚痴を少々。──本人達は愛し合って納得してるのに、周囲からは冷ややかな目で見られる。これは重婚が可能な国でも同じこと。法的には可能というだけで、重婚可能国の国民も倫理的には忌避してる」


 あ、そうなんだ。

 てっきりそういう国の人達はみんな、ハーレムOK! の意識が常識だと思ってたんだけど……。


「世界のほとんどはグローバルで繋がり、一夫一妻制が世界の常識として、現代人の意識に刷り込まれた。これは数世紀を経ても変えられないほどの根底観念になると思う。つまり私達の愛を、世界の法律と中身の薄い倫理が禁じてくる。これは非常にあくどい認知。多様性の最大欠如である。つまり私達は、これから醜悪な白い目を向けられる事を覚悟すべし。世界のどこにも逃げ場はないと覚悟するべし」


 ……なるほど。


「それで?」

「終わり」


 ……え?


「終わりって……どういうこと?」

「どんな策を打っても、バレたら白い目で見られる。だから覚悟さえしとけばいい。それができない奴から去っていく。私はしぐれから去っていくと思う。次に風梨。そしたら私と康太で一夫一妻制の結婚だね♡」


 次の瞬間、風梨が眉をしかめた。あんな表情は見たことがない。怖い。

 しぐれもメンチを切り始めた。怖い……!


「碧央……まさか、あんたそういう展開を求めて……」

「ふわっ……超好敵手……」

「大丈夫。風梨としぐれに覚悟があれば、四人で一緒に乗り越えられる。私も支える。仮にこの田舎に居づらくなったら、みんなで愛の逃避行……全国を回って、なんなら諸国漫遊でもする? ふふ……スゴくロマンチック……!」


 外国に行くと言語を学ばないといけないから面倒で嫌だなぁ……まだ日本の方が受け入れてくれる土壌はあると思う。気質は同じだし、言語は通じるし、話せば分かってくれる人もいるだろうし。こういう時、どっかの田舎に逃げれば……と思うけど。田舎はコミュニティの塊だ。でも都会はおとなりさんに挨拶しないという。なら他人に興味がない都会の方が住みやすいのでは?


「上京……考えておくかぁ……」

「ふわっ……」

「ふふっ。そうだね」

「えっ。新都に引っ越すの……!?」

「どのみち大学行くなら新都に住む可能性も高いでしょ。あと避妊に失敗して妊娠した時とか、あらかじめ考えて決めておこうね。ほかにも、君らの結婚願望とか、子供は欲しいかとか──子供を産むにしても婚姻制度が使えない時点でシングルマザー確定だから子供に苦労させてしまうのは確実。だから子供の安定した幸せのために何ができるのかとか──君らが将来どうしたいとか、そういうの丸々ひっくるめて少しずつ煮詰めていこう。全部なるべく叶えていくから」

「ふぇあ……」

「さすが私達のリーダー。小学生時代の頼もしさが戻ってきたね?」

「…………」


 この程度で頼もしいと言われましても……別にこれくらい考えて行動するのは、人として当然のことでしょう。


「とにかく、当面は学校でどう振る舞うかだけど、いつも通りでいいと思う。なんか指摘されたら適当にごまかす感じで。困ったら僕と碧央に振ればいい。──次に僕らの親になんて言うか。腹決めろと言われない限りは、のらりくらりでいいと思う。もし詰められたら『康太が責任を取るって言ってた』って言えばいい。つまり困ったことがあったら変に細工しないで、全部すぐ僕に回して。いいね?」

「私に回してもいいよ? 理論武装完璧だし、完全論破可能だし、人情で攻められたらこっちも人情で戦うしかないけど、もし薄っぺらな常識に従えと攻められたら心折るのは簡っ単っ♡」

「そこの悪魔には絶対に頼るな。たぶん僕らの親が泣いちゃうから……」


 さて、話が流れに流れた。

 そろそろ男として言うべきことを言おう。


「三人とも、よく聞いて。ひとりひとり質問していくよ。まず僕の願望を話すね」


 碧央がロフトを下りてくる。


「お前ら俺の女になれ」

『────、──……』


 全員のほっぺに鮮やかな赤みがさす。そんなに瞳孔をひらかせて。鼻息も荒いよ。結構びっくりさせちゃったか。


「で、まず風梨。君は僕とどうなりたい? 恋人? 愛人?」

「ふ、ふぇ……っ!? え、えと……っ……こ、恋人が、いいな……」

「分かった」


 目は泳いで体は右往左往。そのたび髪の毛先がまとまってひらひらと揺れに揺れる。かわいい。


「次は碧央」

「今はセフレでいい」

「即答ですか」

「だって風梨もしぐれも隠し事ヘタだから、明らかに康太と何かあったって学校のみんなにバレるよ。私は周りが修羅場だって騒いでくるの嫌だから、私と康太の関係について聞かれたら『セフレ。ふふっ。ウソ、冗談』って笑って答えるつもり」


 ……なるほど。さすが碧央。人心操作術はお手の物か。たしかにその対応、そのあしらい方なら、彼女の小悪魔さを知る学校のみんなは『ああ、碧央さんだけは関係ないんだな』と思うかもしれない。


「最後にしぐれ」

「っ……こ、恋人!」

「分かった」


 では次に体裁ていさいを決めよう。


「風梨。学校ではどう通す?」

「……ひ、秘密で……だって、そんな、言いふらすようなものじゃ、ないし……」

「碧央」

「右に同じく」

「しぐれ」

「…………っ~~~~~~」


 ああ。明らかに『言いふらしたい』という顔をしている……それは風梨たちも気づいてるっぽかった。


「風梨。いいかな?」

「……だめ……」

「風梨風梨。なら風梨も言いふらせばいい。そして康太を公然二股ふたまた猥褻わいせつ野郎で通せばいいっ♡」

「悪魔は黙ってろ」


 公然二股野郎について学校のみんなにドン引きされる。それに僕は耐えられるかもしれないけど、風梨やしぐれは耐えられなくて去っていく。そしたら碧央が生き残る。そういう作戦だってのは分かってるぞ。それは風梨もしぐれも分かってるっぽかった。


「っ~~~~わかった! あたし我慢する!!」

「……いいの? しぐれ」

「我慢できなくなったら、康太を生贄に公然二股猥褻陳列野郎として召喚!」

「マジかぁ……」


 まぁ君らがそれでいいなら僕はいいけれども。


「じゃあまぁそんな感じで。でも大丈夫。バレないよ」

「そうそう。風梨もしぐれも意外とバレないから大丈夫大丈夫。ちなみにあと三十分で登校の時間」

「やばっ」


 話し込みすぎた。さっさと飯を作って急いで食べてトイレ済ませて自転車忘れず、今日もみんなで登校だ!


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