風梨とデート④ 正道を志す騎士の闇


 ──でもママ。どのタイミングで自分がクマさんだってバラそうと思ったの? だって怖くなかった……? 本性出したら嫌われちゃうかも、しれないわけだし……。

 ──嫌われない状況に持ってけばいいのよ。男なんて理性吹っ飛ぶのが仕事なんだから。具体的には据え膳食わぬは男の恥の状況に持ってってあとは誘い受けよ。

 ──ふわっ……既成事実……!


          §


「いらっしゃい」

「ふわ……お、おじゃまします……っ!」


 とうとう風梨が、僕の家に上がってきてしまった……スゴく、ドギマギする。

 台所でうがい。風梨が「トイレ使っていい?」と許可を求めてきたのでうなずく。彼女はトイレに入った。もしかしたら音が聞こえるかもしれないから足早に離れておく。すると施錠の音。やっぱりだ。洗面所でうがいをするためだけに入ったんじゃない。退散退散。


 エアコンの冷房をつける。扇風機もタイマーでつけて涼しさの浸透を早める。上着を脱いでつい下着も脱ごうとして取りやめる。今は風梨がいるんだ。裸を見られるのも見せるのもアレだから、しばらく我慢。汗ばったくて気持ち悪い背中は、自分がトイレに入ってから着替えよう。こういう時、トイレと洗濯機と風呂場が同じだと困る。そりゃそうだ。一人暮らし想定の家なんだもん。

 や、いちおう大家さんは、二人までなら住んでいい、と言ってたけど……僕は幼馴染達が入り浸る場合を考えて……ま、バレないだろうと楽観的に考えることにした。


 トイレが流れる音。洗面所の水がバシャバシャと立つ音。解錠音。風梨が出てきた。入れ替わりで入る。脱いだ服を洗濯機に入れて、タオルで汗を拭いて、洗面所で軽く髪を水洗い。さっぱりとした。ドライヤーで髪を乾かす。着心地の良い部屋着に着替えて、トイレを済ませて廊下に出る。


 リビングに戻ると、ヨガマットの上で伸びをするが女の子座りしていた。目と目が合う。上目遣い。


「カハッ……!?」

「ふわっ……尊死吐血……!」


 なんでネコ耳付けてんだよっ!

 あと自分でエモ死とか言うな……自分の可愛さ分かってんじゃん。


 ドッキリが成功して嬉しいのか、風梨は口元を抑えて「ふふ!」と咲う。

 それは花のような、あるいは猫のような。桜のような、あるいは雪か大福のような。


「ね、ロフト、上がっていーい?」

「え、うん……」


 猫の風梨はエコバッグを肘にかけてハシゴを登っていく。スカートの中が見えそうになって目をそらす。

 相変わらず僕に対して無防備すぎる。ほかの男子の前だと色々気にするくせに。


「康太、康太。ロフト、広いね!」


 ……呼ばれてる。彼女は二人きりだと、たまに呼び捨てとなる。特に意味はないんだろうけど、胸に去来するものがあって困る。

 それはそうと広いのは当然だ。ロフトの広さは、四畳リビングの倍はあるのだから。


 ハシゴを登ると、白猫風梨が女の子座りで待っていた。首をかしげてほほ笑みかけてくる。


「エコバッグ、広げよ?」

「……うん」


 僕の部屋に薄着の少女。白耳風梨の背後に僕の寝具マット。なるべく考えないようにする。空腹に集中する。

 二人して移動。座卓の前に着く。すぐ背後に布団マットがある。もし風梨が後ろに寝転んだら────ヤバい。


 エコバッグから一つ一つ取り出して積み上げる。ロフトはリビング方面に柵があり、その手前に座卓を置いたから、柵の間からリビングに落とし物をする時がある。おやつの袋はよく滑るから要注意だ。そうなると、やっぱり座卓は壁際に設置するべきだろうか。家具の配置はまだまだ悩み中。


 やがて壮観な座卓が完成した。なんだろう。スゴくいけないことをしている気分になる。こんなにインスタント食品を積み上げて、座卓からこぼれ落ちるほどおやつの袋がたんまりとあって……子供にとっては宝の山だ。いや、大人であっても、これはちょっとした宝の山だろう。お腹がキュルキュルと鳴いてくる。


「壮観だね。なに食べようか?」

「大きめのカップ焼きそば。僕は激辛で」

「じゃあ私は……プチ辛!」

「食べられる? 味的にも量的にも」

「むりだったら食べてもらおうかな。だめ?」


 いちいち首かしげて上目遣いやめてほしい。直視できない。目を逸らす行為が非常に申し訳なく感じる。

 それはともかく、別に構わないけど……僕はこれだけだと満腹にならないし、風梨は少食を装ってるし。


「じゃあお湯沸かしてくる」


 二つのカップ麺をエコバッグに収納して首に紐を結び、マントみたいに羽織る。ジャンプ。ヨガマットに両足から着地して両手も着いて衝撃吸収。台所に向かい、フライパンをさっと洗い、浄水器から出したきれいな水をフライパンに浸して、タイマー付きIHで沸かす。エコバッグマントをほどいてカップ麺を取り出し、沸騰するまで待つ。電気ポットを買うべきだろうか。スマホで検索。良いのを見つける。大容量かつ持ち運びやすい。

 タイマーが鳴る。カップ麺にお湯を注ぐ。そういえば、どうやってロフトまで運ぼう。いつも台所で立って食べてるからなぁ……でも座って食べたい時もあるし。ロフトの床は畳とカーペットが半々だから、こぼしたら掃除が面倒だ。ちょうど敷物を買おうかと考えてたし、いい機会だ。検索する。


「康太くん」


 猫の風梨が降りてきた。


「どうしたの?」

「上……食べる所ないよね? だから下りてきました」


 察しが良いようで。

 でも立たせて食べさせるのは申し訳ない。かといって一階の床は木材のフローリング。座ると少し痛いだろう。ああ、百均で座布団くらい買えば良かったな。あと脚を折りたたむタイプの小型座卓はネットで買おう。普段は壁に立てかけておけば邪魔にならないだろうし……あっ! それならいいのがある。カバン型のレジャーテーブルでいいじゃん! ピクニックやキャンプで使うやつ。折りたたむことができて、中に収納もできて……百均で売ってるのを見たことがある。

 ……ああ、そう考えると、買うべき物、色々とあるなぁ……財布が一気にカラになっていく。


「もし座りたいならヨガマットの上で食べる?」

「ううん。立ったままでいいよ。なんか新鮮だから。ふふ」


 今日の風梨は、なんかずっと楽しそうだ。よく笑う。新都に着いてからそれが顕著だし、僕の家に来てからもハイテンションが続いてる。理由は分からないけど、楽しそうなら何よりだ。

 三分経過。彼女は台所の上で、僕は余熱のあるIHの上で、カップ麺を開封する。


『いただきます!』


 ずずずっとすする。下唇にジワジワと、上唇に一気に全力、熱さと痛さが同時に来る。


『────ひゃぃ!』


 猫舌風梨と声がかぶる。今、熱いと辛いを同時に言おうとした?


『……ふはっ!』


 僕らの笑い声が混ざる。

 こっちは一笑だけど、彼女はくつくつとツボに入っていた。


「ふふ────ね、一口……いい?」

「え……いい、けど……その代わり、僕にもちょうだい」

「うん!」


 毎度のことなので許してしまった。

 さっき風梨が口をつけた箸の先端が、僕の焼きそばをつつく。そこは気にしない。間接キス? そうだろうけどそうじゃない。そんなんじゃない。ただ食べ物を分け合ってるだけだ。幼稚園の頃からの恒例行事だ。僕もそっちの味が気になるので、仕返しも兼ねて箸をつつく。

 すると視界端の風梨のほっぺが、どことなく赤らんだ気がした。


 ────だったらやめろってんだ。そろそろ。こんなこと。


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