第12話 天津飯と迷惑なアイツ

 「聞いてくださいまし」

 ドンと机を両手の拳で叩いたアルストロメリアが息巻く姿にのんびりと顔パック中だった琴音は仰反りながら頷いた。

 「意味がわからないのですわ!」

 興奮するアルストロメリアから話を聞き出す。

 無事に新しい婚約の発表と披露目を終えたアルストロメリアは、披露目のガーデンパーティで着た此方からインスパイアされてデザインをしたドレスが好評だったらしく、衣装部門を新たに立ち上げようと忙しくしていた。

 新しい婚約者となったレオンは、それまで生徒会の手伝いとして現生徒会長から任されていた仕事を、サッサと別の者に引き継ぎ、学園内でもアルストロメリアと共に過ごすようになっていた。

 自然と商会の活動もありハルジオンやマーガレットも合流することが増えた。

 中立派が新たに固まったという機運は生徒たちにも広がり、動向を気にする親世代からの指示もあったのだろう注目を浴びていた。

 それでもアルストロメリアが煩わしさを感じないのは、レオンが上手く立ち回ってくれているからだとアルストロメリアも感謝をレオンに伝えており、概ね良好で穏やかな日々が続いていた。

 然し、これに水を注したのがまさかのサディアスだった。

 既に婚約は解消されており、関わりもなくなったはずのサディアスが先日大きな花束を抱えてアルストロメリアを訪ねて邸に訪れた。

 「気を引く為に新しい婚約者を据えただの、嫉妬でもして欲しかったのかい?だの……」

 ハアハアと肩で息をしながらアルストロメリアが拳を握る。

 「いい加減我儘は終わりにして謝るなら戻って来ていいんだよとか……」

 言われた台詞を思い出したのかアルストロメリアがぶるりと身震いをして顔を青褪めさせる。

 琴音も開いた口が塞がらない思いでアルストロメリアの背を撫でながら落ち着かせる。

 「一体何を言っているのかわからなくて、父も唖然としていましたわ」

 その後、家を通して抗議をしたというアルストロメリアはガクリと肩を落として長い長い溜息を吐いた。

 当然、学園でもアルストロメリアに絡んできたサディアスにレオンが怒気を飛ばすも、サディアスにはイマイチ通じなかったとアルストロメリアはこめかみを押さえる。

 「レオン君といえば生徒会はそんなに簡単に抜けても良いものなの?」

 琴音はふと思っていた疑問を口にする。

 「レオンは生徒会に入っているわけじゃないのよ」

 生徒会役員とは別にボランティアのような活動をする人員が居るらしく、レオンやハルジオンはそういう形であくまでお手伝いとして生徒会に加わっていたのだとアルストロメリアは丁寧に説明する。

 元々アルストロメリアの商会に関わるようになった時点で、生徒会の手伝いからは手を引き始めたレオンたちはアルストロメリアとの婚約を機に、その座を他の手伝いに引き継いだのだという。

 「それにしても、何を考えているのかしら」

 うんざりとしながらアルストロメリアと琴音は遠くを見た。


 「お腹空いたね、ちょっとしっかりした丼ものにしようか」

 琴音は冷蔵庫からカニカマと水煮の筍を取り出した。

 カニカマは割いてほぐす、筍は細千切りにし水で戻した椎茸も細く切っておく。

 卵をボウルに割り入れ顆粒の鶏ガラスープ、椎茸の戻し汁を加えて菜箸を使いしっかり混ぜ合わせてカニカマと筍と椎茸を入れ軽くかき混ぜる。

 先にあんを作っておく。

 鍋に水・砂糖・醤油・酒・酢・顆粒の鶏がらスープを入れて火にかける。

 沸騰して来たらグリンピースを加えて水溶き片栗粉でとろみをつける。

 フライパンにゴマ油をひき火にかける。

 フライパンが温まったら卵液を入れて焼いていく。

 半熟より少し固めに火を入れるのは琴音の祖母から教わった加減だ。

 皿にご飯を盛り上へ焼き上がったカニ玉を乗せ、あんを流しかければ天津飯の出来上がり。


 蓮華を鮮やかな黄色のカニ玉に差し入れ、ご飯と共に一口分持ち上げる。

 とろりと艶のあるあんがしっかり絡んで口に運べばふわっと軽い口当たりから、噛むたびに筍の歯触りや椎茸がじゅわりと出汁を溢れさせる。

 「美味しいですわ、玉子が優しいから重くならないのがいいわね」

 アルストロメリアが蓮華で掬った天津飯を口に運ぶ。

 「火加減も丁度良いね、うんこの味」

 懐かしさにほっこりと琴音は笑みを浮かべる。

 サッパリとした甘酢のあんであっという間に食べ切ってお茶を飲む。

 「この鶏がらスープや粉末のダシ?って便利ねえ」

 ふむふむと顎に手を当て考え事に耽るアルストロメリアを琴音は穏やかに眺めていた。

 

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