第30話 新しいミッションと新しい挑戦者

 わたくしは震えが止まりませんでした。


 なぜ召喚されるのでしょう。何を告げられるのでしょう。


 もしかして、隣国のスパイだろうとあらぬ誤解で、追放されたり、刑罰を受けたりするのでしょうか。





 心を安んじるように、衣装室を見回します。


 王宮の衣装室には、ズラリと豪華な服が並んでおりました。高階の窓からは、美しい王国の街並みが眼下に見えます。


 わたくしは召喚状を受け取り、エドワード様と一緒に、ルーバリアの王宮にいました。


 そのとき──


「いだいっ!」


 メイドさんがコルセットの紐をきつく締めました。


 わたくしは涙目。


 王宮染料師でなくなってしばらく経ちます。森でカエルのお肉ばかりを食べていたせいかもしれません。お腹の肉がフルフルと震えてしまっているのです。


 それをなんとか押し込めて、ドレスを着させていただきます。


 久々の宮廷服でございます。


 丈の長いドレスは後ろに美しく伸び、まるで孔雀くじゃくの羽のように床に広がっております。せい刺繍ししゅうで彩られた袖口は大きく作られていて、なんとゴージャス!


 キラキラした宝石たち。

 髪はクルクルと丁寧に巻かれます。

 金細工の髪飾りがシャランと踊りました。


 目と頬と唇にお化粧をいただいて、

 ええ、バッチリでございます!


 衣装部屋から出てまいりますと、


 表の部屋でエドワード様がわたくしをお待ちくださっていました。彼のお召し物も、まことに紳士的でございます。


 深い色合いの燕尾服。胸元にキラリと輝く飾りボタン。白い手袋をはめた手は、まるで彫刻のように整ってございました。


 エドワード様がわたくしを見て、「なんとお美しい」と褒めてくださいます。


(きゃー! きゃー!)





 さて、ここからが本番でございます。


 少しも粗相そそうのないようにふるまわなければなりません!


 久々の緊張に、わたくしは足が震え出しました。


 扉が開かれると、


 王の謁見えっけんの部屋は、とてつもなくきらびやかです!


(わあ!)


 部屋の奥に、薄色の髪を湛えた、温良なお顔立ちの王がお座りになっていました。


 わたくしとエドワード様は即座に膝を曲げて、頭を垂れます。


「頭を上げよ。そなたらが、敵のアジトを潰してくれた配信者たちか」


 王がお告げになりました。



 ♢ ♢ ♢



 わたくしたちは三十分ほどお話を拝聴することになりました。


 ルーバリア王国は長きにわたり、隣国からのスパイ活動に悩まされてきた。


 ダンジョン配信に闇組織が暗躍し、この国の若者たちを煽り立て、再生数中毒にならせた。


 その目的は、国民同士が争い合い、国力を削ぎ落とすこと。


「そのアジトを破壊してくれたことに、心から感謝している」


 王陛下の深い声が謁見の間に響きました。


「わしはそなたらを信頼したい」


 わたくしの胸が高鳴りました。


「永住権と引き換えに、二つのミッションをこなしてもらいたいのだが、いかがかな?」


「二つ、でございますか?」


 エドワード様が、わずかに疑問の色を呈します。


「一つ。もうこれ以上若者たちが病的に命を散らすことがないよう、ダンジョン全体を破壊してほしい。


 二つ。ダンジョン配信に代わる、新しい配信型の娯楽を提案してほしい」


 なるほど。


 王陛下の深いゆうりょも、身に染みて理解できる想いでございます。


「どうだね? 引き受けてくれるかな?」


 その時でした。


「お待ちください!」


 その凛とした声は、わたくしでもエドワード様でもございませんでした。


 王陛下の御前にかしずいているのは——


「そなたは宮廷画家のロゼリアではないか!」


「王よ」


 ロゼリアと呼ばれた女性は、鋭い眼差しを向けて、ゆっくりと言葉を紡がれました。


「わたしはこの者たちを信用できません。同じ色を扱う者同士、王の肖像画をどちらがより美しく描けるか勝負をさせてください。


 わたしが勝てば、この者は口先だけのハッタリ娘であり、さほど技術もなく、染料師などとうそぶいているだけ、ということになります。


 王の前で嘘をつく者を、どうして信用できましょうか!」


「ふむ。なるほど」


 王陛下は顎に手を当てて、深く考え込まれました。


(また勝負ですか!)


 この国は、みなさま勝負がお好きのようです。


 ロゼリア様は冷たい視線をこちらに向け、高らかに宣言されました。


「明日のこの時間、王宮で配信をしましょう。公衆の面前でわたしが完膚かんぷなきまでに叩きのめしてみせます!」

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