第12話 ランキング十位、襲来

 巨大な鳥にまたがるのは、深いアイシャドーが特徴の男性でございました。


 その方の後方には、小ぶりな鳥たちに乗る冒険者風の方々が控えておられます。


 魔法の杖を握りしめた男性。

 弓矢を静かに構える女性。

 分銅武器を回転させる男性。

 祈りの姿勢をとる女性。


 エドワード様がわたくしをかばうように立ちはだかりました。


「何者だ! 名乗れ!」


 リーダーとお見受けする男性は胸を張り、


「俺たちは隣国ルーバリアから来た。配信者『こうのストレイビースト』だ!」



 ♢ ♢ ♢



 :やっちゃえストレイビーストさん!

 :女を成敗しろ!

 :あれ?両翼のカレイドは?

 :カレイドさんを出せ!

 :↑引っ込めカレイド信者!

 :いつだって話題を嗅ぎつけるのはビーストさんが最初だぜ!

 :【エルさんがスパチャをしました】

 :なんだ炎上系かwwww

 :わくわく

 :この女が例の奴か?

 :顔バレキター!

 :【ウェットさんがスパチャをしました】

 :美人やん

 :胸は小さいwww

 :スクショ完了

 :【ルーアさんがスパチャをしました】

 :ストレイビーストがダンジョン配信すると聞いて

 :配信者ランキング見てきたけどコイツ10位じゃんwwwww

 :10位でも十分すごいだろ

 :カレイドさんは1位だからな

 :↑信者は帰れ

 :真相を暴いてくれストレイビースト!



 ♢ ♢ ♢



 リーダーの男性はゆっくりと前に歩み出てまいります。


「ストレイビーストといえば、分るよな? 配信者ランキング十位の男だ!」


 そして、かっこいいような、そうでないような、独特なポーズをお取りになりました。


 わたくしは言葉を失ってしまいました。自然と身が震えます。


「ふっ。女よ、恐怖で声も出ないのだろう?」


 わたくしは、小刻みに歯を打ち合わせながら、


「あのう……、配信者ランキングとは何でございましょう?」


「はあっ?」


 ビースト様が間の抜けた大声をお出しになります。


 崩れ落ちて、地面に手をついてしまわれました。


「お前は、お前は、……もぐり・・・のくせにランキングも知らないのか!」


 彼は立ち上がると、気を取り直したように続けます。


「いいだろう、初心者のお前に、十位の俺がランキングの何たるかを教えてやる」


 凛々りりしいです。


「配信者ランキングとは再生数の順位だ。再生数が多ければ上位になる。強ければ派手なダンジョン配信ができるし、ファンも増える。ランキング=魔法レベルと考えろ。これくらい覚えとけ!」


 なんと丁寧なご解説でしょう。大変わかりやすいお話でございます。


「うおぉぉお!」

 エドワード様が剣を抜き、ビースト様に斬りかかりました。


「リリアナ様は狙われているお方だ! 顔バレは命に関わる! 撮影をやめろ!」


 ビースト様はノコギリ歯を出し、エドワード様の攻撃を片腕で受けました。


 ──ガッキン!


 武器同士が重なり合い、地面の砂が舞い踊ります。


「狙われているだと?」


「そうだ。今すぐ撮影を停止しろ。でないとお前たちの命はないと思え!」


 ビースト様は初めて耳にする話だとばかり、瞳を大きく見開かれます。


 深く頷かれると、何か申し訳ないことをしたとでも言うように頭を下げ、


「すまない、こんな軽装備で……。もっと撮影用の魔道具を増やすべきだった」


 そして、品のない仕草で舌を出し、挑発するような調子で続けられました。


「エセ配信者はおたずね者! ぎゃはっはー! いいじゃねーか! 最っ高のサムネイルが浮かんだぜー! こんなにおいしいネタ、逃すわけねーだろ!」


 火に油を注いでしまったようです。


 撮影用の魔道具はどこに隠されているのでしょう。それさえ見つけて壊すことができれば、配信を止められるのではないでしょうか。


 エドワード様も同じお考えだったのでしょう。鋭いまなしで辺りを見回されますが、魔道具らしき特別な撮影の道具は見当たりません。


 もしかすると、最近の配信魔法は巧妙に進歩し、配信アイテムは小さく、目立たないものになっているのかも。


 わたくしが辺りをキョロキョロしていると、いつの間にかグループの男性がわたくしの背後に忍び寄っていました。髪を強引に掴まれ、首筋には冷たい刃物が!


「きゃっ!」


 女性のお仲間が、勝ち誇ったような表情で進み出てまいります。


「撮影をやめてほしければ疑いを晴らすことね。今、王国中があなたに疑念を持っている。SSS級のモンスターの件はやらせだって。わたしたちを追い払ったところで、次の配信者パーティーがすぐにやって来るわ」


 武力で解決できる問題ではない。


 エドワード様はそう判断されたのでしょう。


 苦悩に満ちた表情を浮かべながらも、剣をさやに静かに収められました。





「キュウ!」

 ウリちゃんが鼻息荒く、彼女に猛進していきます。


「ウリちゃん、ダメよ! 隠れてなさ──」


「きゃぁああ!」


 その悲鳴は、さきほどの女性のものでした。彼女は世界を破滅させる怪物でも見たようにブルブルと震え、リーダーの後ろに隠れます。


「どどどど、どうしてS級モンスターがいるのよ!」


 S級モンスター?


「あなた、こんなわなまで張って戦闘準備をしてたのね! いい度胸じゃない!」


「おかしなことを言わないでくださいませ! ウリちゃんはわたくしのペットですわよ!」


「ペット? S級モンスターが人間になつくわけないでしょ!」


 ビースト様が額に汗をたらし、指関節を鳴らされました。


「へえ。意外と楽しませてくれそうじゃねーか。どうやって手なずけたのかは知らねえが、どうせ卑怯な手を使ったんだろ。思い知らせてやるぜ。格の違いってヤツをよ!」



 ♢ ♢ ♢



 わたくしは、ダンジョンの入り口に立たされました。


「対決だ! 手っ取り早く、ダンジョンの一層の奥まで行って戻って来る。モンスターを倒しながら、先に往復できた方の勝ちだ!」


「動画映えばっちりっすね!」

 仲間の一人が親指を立てました。


「待て。このダンジョンはSSS級が出没する洞穴だ」

 エドワード様の重々しい警告。


 ビースト様は「はあ?」と、聞こえないとでも言うような仕草で、


「災害級モンスターが一層にいるわけねえだろ。そういうのは、百層とかにいるもんだ。女を守る騎士様! ご立派なことだぜ!」


 お腹を抱えて大笑いされます。


「警告はしたぞ」


「俺たちは配信歴三年なんだ。てめーらみたいな素人は、指をくわえて震えてな。どんなモンスターでも、この俺様が華麗に倒してやる。視聴者は俺と女のパワーの違いに感動して、スパチャ祭りだぜ! ガッハッハ!」


 わたくしは再び身震いいたします。


「あのう、スパチャというのは……なんでございましょう?」


「よーい……スタート!」


 疑問の答えを得るまもなく、競争のぶたが切って落とされてしまいました。

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