第4話 初ダンジョンですわ!

 ダンジョンの中は薄暗く湿った空気に満ちていました。


 ぴちょんぴちょんと、鍾乳石から滴の垂れる音がしております。


「ごめんくださいましー」


 わたくしは抜き足差し足でダンジョンの奥へ進みました。足元の岩は丸みを帯びており、つるんと滑ってしまいそうです。


 洞窟内は思った以上に広かったです。松明たいまつを向けても奥がどうなっているのかわかりません。


 これだけ広ければ一人暮らしに十分ですわね。


「そうですわ、このダンジョンに住んで、染め物をしてスローライフですのよ!」


 そう思いながら洞窟の奥へ歩を進めていると、気配を感じました。


 振り返ると、イノシシに似たモンスターがじっとこちらを見つめております。


「あっひゃあ!」


 わたくしはだらしない声を出し、一目散に逃げました。


 ころびそうになりながら必死に走りましたが、慌てていたせいで方向感覚を失い、気がつくと壁に突き当たってあとがございません。


「完全に袋小路ですわ!」


 心臓がバクバクと激しく鳴り響きます。


 わたくしはこれまで戦闘らしい戦闘をしたことがございません。まさか最初から恐ろしいモンスターと対峙するなんて——


 と、


 改めて見てみると、そのイノシシは思ったよりも小さく、イノシシというよりウリボウでした。身体は丸っこくて、鼻先は鼻水で湿っております。


「キュウ」


 ウリボウは甘えるような声で鳴いて、おずおずと寄って来るではありませんか。


「あら、あなた、もしかして迷子になったの?」


 わたくしはそっと手を伸ばして、その小さな頭を撫でてみました。毛は思ったよりも柔らかく、温かでした。


「よしよし、大丈夫ですのよ。わたくしも一人ぼっちで寂しいのですから」


 ウリボウは気持ちよさそうに目を細めて、わたくしの手に頭を擦りつけてまいります。


 なんて可愛らしいのでしょう。


「今日からあなたの名前はウリちゃんね」


 ウリボウは目をウルウルとさせて、やかましいほどにキュウキュウと鳴き続けるのでした。





 ──ズウゥゥン!


 そのとき、洞窟の奥から重い足音が響いてまいりました。


 目線の先に現れたのは、ウリちゃんとは比べ物にならないほど巨大なカエル型モンスターでした。


「な、なんですの……!」


 身体は縞々しましま模様で覆われております。ぬめぬめとした皮膚が洞窟の薄明かりに反射して、よけい不気味です。


「なんと毒々しい!」


 カエルは長い舌をべろりと出し、ぺちゃんぺちゃんと不快な音を立てながら、こちらに向かって跳ねてまいります。


 長い舌がわたくしの身体をとらえました。


「きゃー!」


 わたくしはウリちゃんを抱え、三メートルほど吹っ飛び、身体を強打いたしました。傷口に毒が回り、ふらふらします。


「ウリちゃん! 怪我は!」


 わたくしは血が出ていましたが、ウリちゃんは無事のようでした。


 もう一度アレをくらうと、今度は傷だけじゃすまないでしょう。


 ああ。毒に侵されて苦しみながら死ぬなんて、あまりにも悲しい最期ではありませんか。


「何か、何か方法はありませんのー! わたくしのスローライフがレベル一で終わってしまうなんて嫌ですわあー!」





『スキル、染滅せんめつを獲得しました』





 突然、頭の中に抑揚よくようのない声が響きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る