グランツェリア戦記

吉田豆太郎

第一章

1.1「ある日の戦場」

 戦場に金属がぶつかり合う音が響き渡る。ルートヴィヒ・アイゼンベルクは押し寄せる敵の群れを見てため息をつく。横にいるヨハン・シュナイダーが一瞬だけ視線を送る。しかし、何も言わず大剣を振り上げ、迫る敵を打ち倒す。

 ルートヴィヒは、目の前の敵を見つめた。他の敵と同じように、鉄製の全身鎧。武器は細剣の様だが、持つ手はぎこちない。ぎこちないというよりかは所作が決まりすぎているような気がした。ルートヴィヒは斬りかかってきた細剣を軽くかわし、胴と首の間を断つように剣を振る。敵の頭と胴体は分離したが、中身は空だった。首のない鎧は先ほどと変わらない動きで再びルートヴィヒに斬りかかる。ルートヴィヒは全く動じること無く、両腕、両足に対応する鎧の継ぎ目を狙い、剣を振る。そして手足を失った胴の部分の鎧を両断する。それにより初めて、鉄鎧と呼ばれているこの全身鎧の敵は動きを止める。

 ルートヴィヒは倒した鉄鎧に目もくれず、次の鉄鎧に向かう。その数は圧倒的であり、一日では到底倒せない数だった。しかし、ルートヴィヒを含め、全員が、この鉄鎧たちは日没と同時に退却することを知っていた。そのため、ルートヴィヒらは勝てないし負けない戦いをこなす毎日だった。ちなみに、分解し行動不能にした鉄鎧は退却時に他の鉄鎧が持ち帰るため、こちら側の戦果にはならない。この日も夕日が差し込みだすと鉄鎧は一斉に退却を始め、森の中に消えていった。

 ルートヴィヒは一日の仕事が終わり、防衛対象の町・シュヴァイフの近郊にある拠点に戻った。拠点で誰も話さない。この国の軍隊は、上官への返事以外に声を出すことは厳しく禁止されている。理由が特にあるわけではなく、規律として軍にあった。ルートヴィヒは黙って夕食を終え、簡易ベッドに寝転びながら就寝時刻になるのを待った。就寝時刻を過ぎ皆が寝静まった頃、ルートヴィヒは静かにベッドを抜けだし、拠点の外れに向かった。ルートヴィヒが目的地に着いた時、ヨハンは既にいた。二人は並んで資材の箱に腰掛け、声を潜めて話し出した。ヨハンが話しかける。


「今日もため息ついてただろ」


 ルートヴィヒは不満そうに話す。


「毎日同じような物と戦っていたらため息ぐらいつくよ。何も変わらない、戦果も上げられないのにどうしてがんばらないといけないんだよ」


「でも、これが任務だ。仕方ないだろ。戦わないとこの町も潰されるんだから」


「いつもの事だけど俺たちは何と戦っているのかな」

 今度はヨハンはため息をつく。


 二人は何と戦っているかについて考えることを諦めていた。それよりも守るべき市民の命がある。二人はしばらく話した後、各自の寝床に戻った。明日も変わらない日々が続くと憂鬱になりながら。

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