23題目.探偵

 日の高く上がる頃。ガサ、と茂みがわずかに揺れた。そこからそっと覗いた頭は、茶色に染めた髪。花代だった。

 花代は緊張でこわばった顔をしつつも、その目にはどこかワクワクと輝きを湛えていた。なんだかちょっと探偵みたい。隠された真実を見抜く! ……なーんてね。

 花代は一度遠ざかり引き返してきたのだ。ここに迷い込んだ日の夜に抜け出して向かったあの崖の所まで。




 下の方からザァーと川の音が聞こえてくる崖の縁に佇む。ここから川沿いに下れば元の場所・・・・に帰れるのだろう。花代には何となくそうだと分かった。この先へ進めばここへは二度と戻って来れないのだということも。

 だが花代ははじめから先に行くつもりはなかった。少なくとも、今はまだ。出ていく振りをして戻ってくる。そのつもりで、リュックを背負って庵を出た。

 ……こんなに動けるようになるなんて、思ってもみなかったなぁ。花代は思う。鉛のように重たい体をどうにか持ち上げるように動かしてここへと来たあの時、命を断つつもりだったあの時から考えると。


 花代は崖の側面に、ひらりと小さな白い紙が引っ掛かっていることに気がついた。そのそばにいくつか散らばった白い粒にも。

 花代は思わずふふっと笑った。予想が確信に変わる。お節介な沙那江さん。私の邪魔をしてくれたのね。じゃあ、今度は私から。邪魔とお節介のお返しをしましょうか。




 改めて、今。茂みの中で花代は微笑む。そして人影が庵の表に無いことを確かめると、足音を立てないようにそっと、一度離れた庵の方へと向かって行った。

 玄関の方ではなく、蔵の方でも離れの風呂の方でもない。花代が向かったのは、建物の裏手、庵の最奥にあたる場所。周囲の温度がすっと下がるのを感じる。陰になっているから以上に不自然な暗さだ。その上、窓には黒い障子紙が貼られている。花代はそっとそっと、その窓から中の様子を窺った。

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