パート2:プロの脚本を構造解析しろ!
前回パート1では小説の構造解析のお話をしました。
今回は脚本です!
しかし、本作をお読みになられている方のほとんどは小説を書いている方で、脚本を持っている方は少ないと思いますので、そのへんのことも踏まえてお話を進めていきます。
そもそも脚本ってどうすれば手に入るのか?ってとこからですね。
実は脚本は普通に売っています。
Amazonなどで「日本シナリオ作家協会 シナリオ」で検索してみてください。「シナリオ」というタイトルの月刊誌がヒットします。これに毎回3作ほど、映画やドラマの脚本が収録されています!
今回は『月刊シナリオ 1998年5月号』に収録された、あの超有名ホラー映画『リング』('98)の脚本の構造解析をしてみますね。(https://www.amazon.co.jp/dp/B07DC3F2S6)
まず一行目と二行目、一気にみましょう。
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1 海
黒々とした水塊が不気味にうねり、低くうなっている。
海原を時折、悲鳴のように風が吹抜け、波がざわめく。
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「1 海」というのは脚本用語で「柱」といいます。「これは海のシーンですよ」、という意味です。シーンごとに毎回書きます。
例えば、
「1 野比家 のび太の部屋」
「1 野原家 リビング」
みたいな使い方です。
その後の地の文みたいなのを「ト書き」といいます。
映像の内容そのものを指します。
まずは表現に注目しましょう。
「黒々とした水塊」、なかなかいいですね! ダークな雰囲気で使えそうです。「
「低くうなってる」「悲鳴のように風が吹き抜け」「波がざわめく」も単純でわかりやすい!
初めて脚本の文章を読んだという方、読んでみてどう思いました?
「たしかに脚本の文章だ」って思えましたか?
多くの方は、ぱっと見は小説と脚本の区別がつかないと思います。
では、書かれている内容をもとに、映像と音を想像しながら読んでみてください。
こんな風に、映像と音が浮かびませんか?
「黒々とした水塊が不気味にうねり」→映像で作れますよね。
「低くうなっている。」→音で作れます。
「海原を時折、悲鳴のように風が吹抜け」→これも映像と音で作れますね。
「波がざわめく。」→映像と音で作れます。
ね? 全部、映像と音でつくれるでしょ?
これが脚本用の文章なんです!
だ か ら、ね!?
私は何度も「映像で映せる描写は脚本的だ」と言ってるんです。
「いやだって小説でも使えそうじゃん!」と思えちゃいますか?
よーし!
じゃあこれを、小説風の文章にしてみましょう!
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(小説風に書き換えたバージョン)
海は黒く膨れあがり、呻きながら身を震わせていた。見ているだけで胸の奥まで圧し潰されそうな重さが、波のうねりと一緒に迫ってくる。
吹き抜ける風は悲鳴にしか聞こえず、耳を裂くたびに背筋を冷たい刃でなぞられたような感覚が走る。その声に煽られて、波はざわめき、何か得体の知れないものが集団で息を潜めているように思えた。
(比較用のため上記はAI生成ですm(_ _)m)
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では、同じように分解してみましょう!
「海は黒く膨れあがり、」→これは映せますね。
「呻きながら身を震わせていた。」→それっぽい映像はつくれそうですが。
「見ているだけで胸の奥まで圧し潰されそうな重さが、」→これは映像無理でしょ!
「波のうねりと一緒に迫ってくる。」→映像にするとしたら画面側に向かってくる感じ?
「吹き抜ける風は悲鳴にしか聞こえず、」→映像と音でいけるかな
「耳を裂くたびに背筋を冷たい刃でなぞられたような感覚が走る」→これは無理ですね。
「その声に煽られて、波はざわめき」→「煽られて」が映像では表現不可能です。
「何か得体の知れないものが集団で息を潜めているように思えた。」→思えた、は映像では無理です。
同じ場面の描写でも、小説に求められる文章は構造が全く異なることがわかったと思います。
「映像や音では無理」なところに、読者の感覚を呼び起こす言葉の力が込められているわけです。
逆に脚本ではそのような描写を用いてはいけません。「ないほうがいい」ではなく、あってはいけないというルールです。現場の人が作れないからです。
構造解析に戻りましょう。
通常はこのまま続きに行くのですが、今回はあくまでも訓練方法の解説なので、セリフのところまで飛ばします。人物の仕草と絡めてわかりやすいところを見てみましょう。
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階下で電話が鳴った。
智子はゾッと一点を見た。雅美が眼で追う。時計を見ていた。
雅美「智子……」
おびえ方が普通ではない。
雅美「……本当なの?」
電話が鳴り続けている。
智子はコクリとうなづいた。
雅美はゾッと後ずさるが、やにわに部屋を飛び出した。
智子「雅美!」
追いかけ、階段を駆け降りる。
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脚本の場合はセリフ前に名前をつけます。無料WEB小説を漁ってると稀に見かけますね。
先に表現の方に注目してみます。ぱっと見は特別に珍しい表現は見当たりませんが、「眼で追う」は注目ポイントです。
なぜ「目」ではないのか?
「眼」は心理面や生物的な意図を強調します。映像的には、眼球のアップになっていたり、眼の動きの演技が重要になるところです。
逆に「目」は一般動作を描写する時などに向いていますね。
「やにわに」も小説でたまにみますね。古風な言い回しで、「突然に」「いきなり」「不意に」などの意味があります。言葉の響きやリズムに独特な余韻があるのでいろんな含みを持たせたり、現代語は軽く聞こえやすいなどの課題を解決してくれます。
では全体から見た構造解析をしてみましょう。
ここは典型的な脚本の文章構造です。
ト書きのところですが、場面や動作の説明しか書かれていないですよね?
ト書き部分を抜き出します。
・階下で電話が鳴った。
・智子はゾッと一点を見た。雅美が眼で追う。時計を見ていた。
・おびえ方が普通ではない。
・電話が鳴り続けている。
・智子はコクリとうなづいた。
・雅美はゾッと後ずさるが、やにわに部屋を飛び出した。
・追いかけ、階段を駆け降りる。
小説でも見かけることはあると思いますが、その場合は何かしらの意図があってそうしていることがほとんどです。
特に「映像的な印象を強めたい場合」ですね。
例えばこう!
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ドアを開けると、部屋の中は血の海と化していた。
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これ、映像的ですけどインパクトあってすごく想像力が刺激されますよね。
他にも、探し物をしたり見回したりであちこちみている場合も、映像的な描写の方が読者フレンドリーです。
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沙織は視線を室内に巡らせる。
テーブルの下、椅子の陰、窓際の床――目を皿のようにして探す。
手が戸棚の縁に触れ、冷たい木の感触が指先に伝わる。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。
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ではこれを踏まえた上で、先ほどの脚本の内容を小説的にしてみましょう!
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(小説風に書き換えたバージョン)
階下で電話のベルが鳴った。
智子は身をすくませ、思わず一点を凝視した。雅美も同じ方向を眼で追い、時計に視線を移す。
「智子……」
雅美の声は震えていた。智子のおびえ方が尋常ではないと悟ったからだ。
「……本当なの?」
鳴り止まぬ電話の音が部屋を圧する。智子は小さく頷いた。
次の瞬間、雅美はぞっとしたように身を引き、しかし堪えきれず部屋を飛び出していた。
「雅美!」
智子は声を上げ、慌ててその背を追う。階段を駆け下りながら、鳴り続ける電話の音がますます近づいてくるのを感じた。
(比較用のため上記はAI生成ですm(_ _)m)
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地の文から読者の感覚を刺激する文章を抜き出してみましょう。
・智子は身をすくませ、思わず一点を凝視した。
・雅美の声は震えていた。智子のおびえ方が尋常ではないと悟ったからだ。
・鳴り止まぬ電話の音が部屋を圧する。智子は小さく頷いた。
・次の瞬間、雅美はぞっとしたように身を引き、しかし堪えきれず部屋を飛び出していた。
・智子は声を上げ、慌ててその背を追う。階段を駆け下りながら、鳴り続ける電話の音がますます近づいてくるのを感じた。
はい、やはり映像に写せない描写が多々用いられていますね。「思わず」「悟った」「堪えきれず」「ますます近づいてくるのを感じた」あたりでしょうか。
スクロールで戻って脚本の文章を読み返してみると、小説との違いがよくわかると思います。物語の出来が良いので、普通に読み物として読んでも十分に面白いんですが、感情や五感を指摘する描写があるか? と言われれば、ないですよね。
小説を書いているなら、好きな映画の1つや2つあると思います。小説の文章レベルアップに積極的な方は、ぜひ一度好きな映画の脚本を読んでみてください。特に好きな映画の脚本は観ながら比較をすると面白いですよ。
構造解析の方針として、
・なんでAじゃなくてBの書き方なんだろ?
・自分ならこう書くのにな。
といったところをたくさん見つけてください。今回の記事でも触れた「目」と「眼」の違いみたいなやつですね。疑問が解けない場合はAIにニュアンスの違いを聞くと模範的な回答を教えてくれます!
AIの力を借りながらでもいいので、これも小説の構造解析のように1000本ノックいってみましょう!(笑)
私はやりました!
今回のまとめとして、
「小説内において映像的な描写をする場合は意図を持たせること」
これを大事にしてください。
何度も言ってきましたが、特に意図もないのに、読者の心情を刺激しない場面や動作の説明ばかりの小説は、どちらかといえば脚本寄りなのです。
今回の話が参考になりましたら、ぜひ応援コメントやレビューをつけてくださいね!
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