パート6:読者のフォーカスを見極めろ!

 Lesson2最後のお話は、読者のフォーカスについてです。


 小説を書いているとつい自分の書きたい内容に気が逸れて、読者が知りたがることや、読者が注目している部分を忘れてしまうことがあります。


 そういったついて深掘りしてみましょう。


 ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 夕暮れの町を、ユキは走っていた。

 角を曲がるたびに、空がオレンジに染まり、影が伸びる。

「どうして、こんなに急ぐんだろう……」

 自分でも答えの出ない声が溶けていった。

 ふと、壁が光った。

 小さな銀色の鍵をユキは拾い上げた。

 その瞬間、「ユキ!」という声が。

 振り返ると、人物の影が揺れていた。

 ユキは思わず鍵を握りしめた。

 ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━


 今回はChatGPTに本記事の主旨を伝え、学習用のサンプル文章を出してもらいました。


 一行ずつ通読時の読者のフォーカスを再現してみましょう。


 >夕暮れの町を、ユキは走っていた。

 夕暮れの町はいいとして、ユキがどう走っているのかにフォーカスがあたりますよね。あと走っている時の雰囲気もあると良いです。


 >角を曲がるたびに、空がオレンジに染まり、影が伸びる。

 角を曲がるたびに空がオレンジ色に染まる、っていうのはよくわからないですよね。既に染まっているはずです。それに、影が伸びるとは、どの影が?


 >「どうして、こんなに急ぐんだろう……」

 >自分でも答えの出ない声が溶けていった。

 読者は作者の言葉で溶け方が知りたいんですよ。


 >ふと、壁が光った。

 どんな風に?


 >小さな銀色の鍵をユキは拾い上げた。

 拾う時の仕草とか知りたいよね。


 >その瞬間、「ユキ!」という声が。

 どんな声?


 >振り返ると、人物の影が揺れていた。

 どんな影?


 >ユキは思わず鍵を握りしめた。

 なんで握りしめた?


 このサンプル文章は読者のフォーカスを完全に無視しており、小説の設計思想からは大きく外れています。無料小説投稿サイトにもよくみられる、描写の欠けたスカスカな文章です。


 ではこれを、読者のフォーカスに対応したバージョンで読み返してみましょう。


 ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 夕暮れの町を、ユキは小走りで抜けていった。

 角を曲がるたびに、遠くの空がオレンジに染まり、影が長く伸びる。

「どうして、こんなに急ぐんだろう……」

 自分でも答えの出ない声が、誰にも聞かれない路地に溶けていった。

 ふと、壁の隅に何かが光った。

 小さな銀色の鍵――見覚えのある形。ユキは立ち止まり、指先でそっと拾い上げた。

 その瞬間、背後で「ユキ!」という声が響く。

 振り返ると、夕日を背にした人物の影が揺れていた。

 ユキは思わず息を飲み、鍵をぎゅっと握りしめた。

 ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━


 >夕暮れの町を、ユキは走っていた。

 >夕暮れの町を、ユキは小走りで抜けていった。


 小走りで、が増えていいますね。ができました。

 ユキという人物像のディティールや移動速度が想像できるようになりました。


 >角を曲がるたびに、空がオレンジに染まり、影が伸びる。

 >角を曲がるたびに、遠くの空がオレンジに染まり、影が長く伸びる。


 遠くの、が加わることで一気にましたね。

 影も長く伸びていることがわかりました。


 >自分でも答えの出ない声が溶けていった。

 >自分でも答えの出ない声が、誰にも聞かれない路地に溶けていった。


 誰にも聞かれない路地、が加わることで、この場面のムードが想像できるようになりましたね。


 >ふと、壁が光った。

 >ふと、壁の隅に何かが光った。


 光り方がわかるようになりました。


 >小さな銀色の鍵をユキは拾い上げた。

 >小さな銀色の鍵――見覚えのある形。ユキは立ち止まり、指先でそっと拾い上げた。


 鍵が見覚えのある形で、立ち止まりから指先でそっと拾ったことがわかりました。

 物語には書かれていないユキの人生(ストーリー)や、立ち止まってから指先で拾う仕草がイメージできますね。


 >その瞬間、「ユキ!」という声が。

 >その瞬間、背後で「ユキ!」という声が響く。


 声は背後から、でした。


 >振り返ると、人物の影が揺れていた。

 >振り返ると、夕日を背にした人物の影が揺れていた。


 これで振り返ると、と繋がりましたね。

 影も夕日が背景についてシルエットの質感が浮かびやすくなりました。


 >ユキは思わず鍵を握りしめた。

 >ユキは思わず息を飲み、鍵をぎゅっと握りしめた。


 これも大事ですね。特に息遣いは全く書かない書き手さんが多いので効果的に書けるようになりたいところです。

 握りしめただけではなく、「ぎゅっ」をつけることでこの仕草の純粋さが強調されました。



 このように、文章を書いたらまず読者のつもりで読み返し、フォーカスが当たる記述に対応した描写があるかどうかをチェックしましょう。


 それがまぁ難しいわけなんですが、単純なコツとして「どんな風に?」と問いただしながら読むと、描写の欠けているところに気づきやすくなります!


 その上で、「パート5:記号化されていない情報を見抜け!」でお話ししたことに気をつけると、描写を加えるべきところがすぐにわかるようになります。


 今回の話が参考になりましたら、ぜひ応援コメントやレビューをつけてくださいね!

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