Lesson1 超基本となる小説と脚本の違い

パート1:小説的描写と脚本的描写を見分けよう!

 今日までの構成評価で、やっぱり多かったのが「脚本的描写」で物語を進めている作品です。たぶん、これからもずっとそうなんじゃないかと思います。


 脚本的描写というのは、「映像に映せる内容」のこと。つまり、カメラでそのまま撮れるような描写ですね。


 でも、それって小説に求められている書き方とはちょっと違います。

 言ってみれば、「映像制作のための設計図」です。


 これは「その作品が小説と呼べるかどうか」という、かなり根本的な部分に関わる話です。もし少しでも不安のある方は、ぜひこの記事を読んで、違いをしっかり見分けられるようになってください!


 例文で比較してみましょう。昨今、流行りの「トラックに轢かれて異世界転生した主人公」の小説バージョンをお読みください。


 ━━━ 小説バージョン ━━━

 何の前触れもなく、世界が反転した。

 音もなく、色もなく、ただ感覚だけがすべてを置いてけぼりにした。

 最後に見たのは、赤信号か、それとも赤い車体か――もう思い出せない。


 視界が開いたとき、湿った土の匂いが鼻を刺した。

 頭上には木々の緑がぼんやりと見え、柔らかな風が額をなでる。

 鳥のさえずりが遠くから聞こえてきた。

 呼吸がやけに軽い。重力すら変わってしまったような、不自然な身体感覚。


 空を仰いだ。そこにいたのは、説明のつかない“何か”――

 ドラゴン、という言葉が浮かんだのは、その姿があまりにも現実味に欠けていたからだ。

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 一行ずつ指をさしてみてください。「これは映像にそのまま映せるか?」と考えながら。

 全部、映像には映せない、「感じ」や「感覚」の描写で物語が進んでいるのがわかるはずです。

 

 何の前触れもなく、世界が反転した様子って、どうやって映すの?

 音もなく、色もなく、ただ感覚だけがすべてを置いてけぼりにしたっていう、主人公の心境も映せないですよね。

 最後に見たのは、赤信号か、それとも赤い車体か――もう思い出せない。これもそう。「思い出せない」は映せないです。

 鼻を刺した。額をなでる。聞こえてきた。不自然な身体感覚。言葉が浮かんだ……どうやって映すの?


 ……というわけなのです。

 

 このように、小説は映像にはできない「心の動き」や「感覚」を自由に描写できる表現形式であり、それが小説に求められる魅力であり強みなんです。

 対して、映像は目に見えるものしか映せないため、小説の持つこうした「見えないものを表現する力」を映像化するには、工夫と制約が避けられません。


 というわけで、次は脚本バージョンを見てみましょう、。


 ━━━ 脚本バージョン ━━━

 ◯ 道路 昼

   トラックが猛スピードで走ってくる。

   ライトに照らされた主人公の背中。振り向いて、

 主人公「危ない!」

   視界が白くなり、遅れて衝撃音。(F.O)


 ◯ 森の中 昼

   主人公が目を開ける。

   鳥のさえずりが聞こえる。

   空を見上げると、巨大なドラゴンが木々の上を擦過した。

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 下手っぴですが、今みてほしいのは、全ての行が映像に映せる内容であるってことです。これが脚本なんです。映像の制作で使う設計図です。

 逆に言うと、映像に映せないものは脚本には書けません。

 脚本はあくまで「見える・聞こえるもの」を中心に構成されるのです。

 

 例えば、「主人公は忘れた」と書いた場合、小説では通用しますが、「忘れた」という心の動きは映像では直接映せません。だから脚本に書くと「忘れたってどうやって映すんだ?」となってしまうわけです。


 では本題!

 今度は「小説を書いているつもりで、頭の中の映像の文字起こしをしているだけであり、小説とも映像とも言えない中途半端な内容になった文章」を見てみましょう。


 ━━━ 小説と脚本の中間バージョン ━━━

 トラックが猛スピードで突っ込んできた!

「危ない!」と叫ぶ俺。

 視界が真っ白に変わり、衝撃音——


 目を開けると、森の中に俺は倒れていた。

 立ち上がってあたりを見渡す。

 木漏れ日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 一瞬、黒い影が俺の視界を通過する。

 空を見上げると、巨大なドラゴンが飛んでいた——

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 どうでしょう? WEBラノベ小説でよく見る文体になっていませんか?

 主人公の心情を言葉の勢いでなんとか表していますが、全部映像に映せますよね。

 

 ここに台詞の連打が加わるため、アニメ化した時に、スピーカーから聞こえてくる声優の文字起こしをしているような内容に見えるわけです。


 これはこれで面白い文章は書けると思います。

 しかし、実際の映像がないと細かいディテールがわからず、小説に求められる読者の感覚や感情を動かす要素が不足しています。

 小説をアップするプラットフォームに、面白く書いたつもりの長文をアップしているだけです。


 例えば、

「トラック」はどんなトラック? ぶつかりかたは?

「森」はどんな森? よくある森でいいの?

「鳥の鳴き声」も、普通の鳥でいいの?

「ドラゴン」はどんな姿? 色は? 性格は?

 主人公の今の気持ちは?


 こうした細部が読者の想像力をかき立てるのです。

 しかしこれでは、読者にその部分を投げてしまっているのです。

 レストランに入ったら、料理がセルフだったようなものですね。


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