はじめに

はじめに ウィリアム・モンキーをやっつけろ!

 あなたは「無限の猿定理」という言葉を知っているだろうか。無限に等しい時間をかけて、ランダムに文字列を作り続ければ、どんな文字列もほとんど確実にできあがるという定理である。


 猿だって鍵盤を叩き続けていれば、いつかはウィリアム・シェイクスピアの戯曲を打ち出す、などと表現されるため、この名がある。


 起源を調べてみると、100年以上前から数学や哲学の文脈で語られてきた概念だそうだ。


 私は二十歳の頃から日記を書き始めた。発達障害の境遇があり、コミュニケーションの訓練や、自分の特性を分析する為だった。


 その活動を継承する流れで、二十五歳の頃からずっと小説も書いてきた。


 長くやっていればそれなりに、形のあるものが書けるようになる。ネットにアップすれば、自分が満足できる程度の感想をもらえるようになった。


 脚本を知ったのは十五年後のことだった。適応障害で離職した後、求職中に利用したアート系の就労継続B型で、職員さんの提案により脚本を書くことになったのだ。


 そうして私は脚本の書き方を調べ……、驚愕した!

 その構造と考え方に、雷に打たれたような衝撃を受けた。


 自分がずっと書いてきた作品は、実は小説ではなく、脚本に近いものだったのだ!


 その時にはっと、頭の中にあの猿が現れた。私はあの「ウィリアム・モンキー」だったのだ。なにも知らないままキーを叩いて、小説だと思い込んだまま、小説とも脚本ともいえない中途半端な長文を書き続けていたのだ。


 それから私は、自分の内なる猿をやっつけるため、小説と脚本の勉強に打ち込んだ。

 本作で伝えるのは、そうして身につけた確かな技術である。

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