第14話 金髪美少女VS幼馴染
「おっはよ~一ノ瀬愛夏苦しい闘病生活を終えて今日から学校に復帰します!」
学校に着くなり愛夏は俺の方に近寄ってきて敬礼してくる。
その仕草があまりにも可愛くてついつい頭を撫でてしまう。
「ムフフ~もう、教室で撫でるなんて瑠衣君は大胆だなぁ~」
頬を緩ませながら愛夏は幸せそうに眼を閉じている。
自分でも大胆なことをしている自覚はあったけど、これで愛夏に声をかけてくる男達へのけん制ができるだろう。
「風邪が治ってよかったよ。もう、しんどかったりはしないか?」
「うん! もうばっちり治ったから心配しなくて全然OKだよ!」
見る物の眼球を焼き尽くすかのような美しい笑みを向けられて心臓の鼓動が速くなる。
最初はこの笑顔を見てもここまで鼓動がうるさくならなかったのに、今では笑顔一つでこうなってしまうのだから相当に惚れてしまっているんだろう。
「ならよかった。でも、今日はあんまり無理したらだめだぞ? 風邪がぶり返したら不味いからな」
「うん! 無理はしないようにするね。ありがと、瑠衣君」
「いや、当たり前のことを言ってるだけなんだけどな」
「んふふ。優しい瑠衣君の事大好き!」
そう言って愛夏は抱き着いてくる。
教室中の視線を集めることになってしまったけど、そんなことはどうだっていいだろう。
「……お前らそれで本当に付き合ってないのか?」
「まあな」
ジト目で見てくる陽太を軽く流して、俺は席に座る。
休み時間の時も愛夏とちょくちょく話してあっという間に昼休みになった。
「瑠衣君! お昼ご飯食べに行こう!」
「ああ。行くか」
昨日は愛夏の手料理を食べていないので実はかなり飢えていたりする。
この昼休みの時間を心待ちにしてたくらいだ。
「ちょっと待って!!」
そんな浮いた心に冷水をかけてくる奴がいた。
その人の名前は藍原穂乃果。
俺の幼馴染にして好きだった人だ。
「どうしたのかな。穂乃果ちゃん?」
「ちょっと話があるの。ついてきてもらってもいい?」
穂乃果はすごい剣幕で愛夏を睨んでいた。
一体何がしたいのか。
「これから瑠衣君と一緒にお昼ご飯を食べる予定なんだけどなぁ」
「いいから来て」
「あっちょ、ちょっと」
穂乃果は愛夏の言うことなど全く聞かずに、愛夏の手を引っ張って連れて行ってしまった。
「……ええぇ~」
「これが修羅場ってやつか?」
俺が困惑しているときに陽太が後ろからニヤニヤしながらそんなことを言ってくる。
「……そうかもしれないな」
「ついて行かなくていいのか?」
「やっぱり行った方がいいよなぁ~」
「そう思うぜ? 女同士の喧嘩は怖いってよく聞くしな。それに、昨日の藍原の感じだとちょっと心配だよな」
確かに、昨日陽太から聞いた話だと何をしでかすかわからない。
ついていくか。
盗む聞きなんて好きじゃないんだけどな。
「ちょっと行ってくるよ。やばそうなら陽太にメッセージ送るから先生を呼んでくれ」
「任せとけよ! 予想問題の借りは返すぜ」
陽太は歯を見せてニカッと笑う。
爽やかなイケメンに感謝しつつ、俺は二人が向かった方向に向かう。
◇
「それで、こんなところに呼び出して私に何の用かな?」
「ふざけないで! なんであなたと瑠衣がずっと一緒に居るの!? なんで私から唯一の幼馴染を盗るの!? 愛夏ちゃんはみんなに人気なんだから私の幼馴染を盗らないでよ! 私には瑠衣しかいないの!」
連れてこられた空き教室で穂乃果ちゃんは私の胸倉を掴んで叫んでくる。
なんて自分勝手な人なんだろう。
私は素直にそう思った。
「盗ってなんかないよ。私はただ、瑠衣君にアプローチしただけ。それに私はあの時忠告したよね?」
「忠告って何?」
「言ったじゃん。うかうかしてると瑠衣君が遠いところに行っちゃうって。私は瑠衣君が穂乃果ちゃんのことが好きだって知ってたからアプローチしなかっただけ。でも、穂乃果ちゃんは瑠衣君の好意を踏みにじった。そんな穂乃果ちゃんに盗ったとかは言われたくないかな」
瑠衣君の告白を断ったのは穂乃果ちゃんだ。
目の前にある幸福に気が付かずに、それが当たり前みたいな顔をしているから。
その当たり前が無くなってしまう。
自業自得だ。
私が責められることなんて何一つない。
「そ、それは……愛夏ちゃんはなんで瑠衣のことが好きなの?」
「それを穂乃果ちゃんに言うつもりはないよ。それを言うべき相手は瑠衣君だから。他の人に気持ちを言うつもりなんてないの」
私の気持ちは瑠衣君にしか伝えない。
瑠衣君にしか伝える意味が無いから。
「なんで、なんで愛夏ちゃんが瑠衣を盗るのよ!」
「だから、盗ってないって。そもそも、瑠衣君は穂乃果ちゃんの物じゃないでしょ?」
「瑠衣は私の物よ! 私だけの物なの!」
「話にならないね。穂乃果ちゃんと付き合うと瑠衣君は不幸にしかなれない。例え私が選ばれなくても、穂乃果ちゃんだけは選ばないで欲しいって心から思うよ。瑠衣君のために」
瑠衣君から好意を向けられながら、それに気が付かないどころか踏みにじったうえで自分の物なんていう人と一緒になったら不幸にしかなれない。
せめて、瑠衣君には幸せになってほしい。
「勝手なこと言うなぁ!」
「ひゃっ!?」
いきなり叫んだ穂乃果ちゃんに掴みかかられる。
かなり強い力で押し倒されて背中を衝撃が襲う。
「お前がいなければ、瑠衣はずっと私と一緒に居てくれたはずなのに!」
そう言って穂乃果ちゃんは手を振り上げてきた。
叩かれる。
次の瞬間に自分を襲うであろう衝撃に備えて目を瞑る。
でも、いつまで経っても私の頬を衝撃が襲うことは無かった。
◇
「やりすぎだ。まずは愛夏から離れろ」
「る、瑠衣!? どうしてここに」
「いいから離れろ」
穂乃果が振り下ろそうとしていた右手を掴んで止める。
そのまま愛夏から引きはがす。
「大丈夫か? 愛夏」
「ど、どうして瑠衣君がここに?」
「心配になって後をつけてきたんだよ。どうやら、正解だったみたいだな」
もう少し来るのが遅れたら、愛夏は穂乃果に叩かれるところだっただろう。
これは陽太に感謝しないといけないかもしれない。
「穂乃果、お前何やってんだよ」
「……」
俯いて何も話さない穂乃果に少し苛立ちを感じてしまう。
俺は別にこいつのことは嫌いじゃなかった。
でも、こんなことをしてるのを見てしまったら嫌いになりそうだ。
「だんまりじゃ何もわからない。なんで愛夏を叩こうとしてたんだ?」
こんな、誰も寄り付かない空き教室で叩こうとしていたのか。
謎で仕方がない。
「だって、その女が瑠衣を盗るから」
拗ねた子供みたいにそっぽを向きながらボソボソとしゃべっている。
愛夏が俺を盗った?
一体何の話をしてるのか理解ができなかった。
「ふざけるな。そもそも、俺は誰のものでもないしそんな意味不明な理由で暴力を振るっていいわけがないだろう」
「で、でも……」
「この際、ハッキリ言わせてもらうけど俺は愛夏と一緒に居るのが好きだ。誰かと比較するのは良くないことだけど、穂乃果といるよりも愛夏といるほうが楽しい」
「そ、そんな。な、なんで!?」
なんで……か。
理由なんか好きだからというだけだけど、それを穂乃果にわざわざいう必要性を感じない。
「別に、幼馴染だからってそこまで話す必要なんかないだろ?」
穂乃果にそれだけ言って視線を外す。
地面に座っている愛夏に手を差し伸べる。
「あ、ありがとう。瑠衣君」
「別にこれくらいお礼を言われるほどの事でもないさ。それより、飯にしよう。腹減った」
「わかった。今日も瑠衣君の分作ってきてるからね」
笑顔でそう言ってくれる愛夏と一緒に空き教室を後にした。
残ったのは、泣き崩れてる幼馴染だけだった。
◇
「本当にここでいいのか?」
「うん! たまにはこういう所で食べてみたいなって」
俺たちがやってきたのは屋上だった。
俺としては病み上がりの愛夏を結構寒い屋上に居させることは良くないかと思ったけど本人たっての希望なので仕方あるまい。
「そうか。一応これ着とけ」
愛夏に自分の着てた上着を差し出す。
少しでも暖かくした方がいいだろう。
「良いの? 瑠衣君寒くない?」
「大丈夫だ。それより、病み上がりなんだから暖かくしとけ」
「えへへ。ありがと」
ニコッとはにかんで愛夏は素直に俺の手渡した上着を羽織った。
「瑠衣君の匂いがする」
「ごめん。臭かったか?」
「そんなわけない。なんだか安心する」
「ならいいんだけど」
臭くなかったなら安心だ。
いや、安心していいのか?
「それより、穂乃果があんなことして悪かったな」
「なんで瑠衣君が謝るの? 何も悪いことしてないのに」
「なんか、俺も関わってるっぽいし。本当に悪かったな」
「謝らないで。それより、助けてくれた瑠衣君本当にカッコよかったよ!」
そう言って愛夏は微笑みかけてくれる。
それだけで、なんだか救われたような気がする。
「そっか」
「そうだよ! それよりも、はいお弁当」
「ありがと」
弁当を受け取って二人で食べ始める。
最近は日常となりつつある行為だけど、これがまた落ち着く。
隣に愛夏が居てくれるだけで元気になる。
なんで穂乃果があんなことをしたのかよくわからないけど、今度からあんなことが起きないように気をつけないといけないなと思った。
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