第11話 金髪美少女と好意の自覚

「うちのお母さんが本当にごめんね?」


「いや、そこまで気にしなくていいって」


 部屋に戻るなり愛夏は頭を下げてきた。

 確かに、背中に変な汗をかきはしたけど、不快だったわけじゃないからそこまで謝ってもらう必要はない。


「む~お母さんってば悪乗りが過ぎるんだから」


 頬を膨らませて愛夏は扉の向こうを睨みつける。

 にしても、ほとんど素性の知らない男と娘をいきなり結婚させようとするのだろうか?


「まあまあ。どうする? 少し休憩するか? 食べてすぐだしさ」



「そうだね。昼休憩はそこまで休めなかったしね」


 二人で話し合って一時間ほど昼休憩の時間を取ることにした。

 勉強をするのは大切だけど、根を詰めすぎていいことはない。

 適度な休息は必要だ。


「ねぇ~瑠衣君甘えてもいい?」


「別に構わないけど、過度なスキンシップとかはやめてくれよ?」


「わかってるよ~ちょっと膝枕してくれないかなって」


 愛夏は期待に満ちた目でそんなことを言ってくる。

 別に愛夏を甘やかすのが嫌なわけがないので膝枕をすることにする。

 胡坐をかいて愛夏が片方の太ももに頭をのせる。


「普通、こういうのって逆じゃないのか?」


「そうかもしれないけど。じゃあ、瑠衣君が80点以上取ったら私が瑠衣君に膝枕をするっていうのはどう?」


「いいなそれ。そういうご褒美があると俺もやる気でてくるよ」


 何も目的無く勉強をひたすらこなすというのはしんどいものがある。

 愛夏が提示してくれたご褒美は我武者羅に勉強をするのには充分な内容だった。


「ふ~ん、私の膝枕は瑠衣君にとってご褒美に当たるんだ。なんか嬉しいな。えへへ」


 空色の瞳が俺を見つめている。

 本当に綺麗で宝石みたいな綺麗な目だ。


「そりゃな。俺も誰かに膝枕してもらいたくなることだってあるさ」


 苦笑しながら愛夏の頭を撫でる。

 やっぱり、手入れが行き届いていて、とても触り心地が良かった。

 いつまでも触っていたくなる。


「瑠衣君って無意識かわからないけど、たまに恥ずかしいこと言うよね」


 顔を赤くしながらそう言われるけど、俺は今何か恥ずかしいことを言っただろうか? 

 あまり自覚が無いな。


「そんなことないと思うけどな。それより、膝枕はどうだ? 誰かにしたことないからどんな感じなのか聞いときたい」


「めちゃくちゃ落ち着くよ。なんか、瑠衣君の体温を直に感じてさ。ずっとこうしていたいくらい」


 気持ちよさそうに目を細めながらそういう愛夏はなんだか猫みたいで可愛かった。

 最近、心の中で愛夏に可愛いって思う機会が爆増しているような気がするけど、思うだけだから別にいいか。


「ずっと、ってわけにはいかないけど。休憩時間中はこうしとくよ」


「やった! 瑠衣君大好き!」


 本当にうれしそうに、笑う愛夏は本当に可愛くて否応なしに自覚させられてしまう。

 俺はこの子に好意を抱いているんだって。

 でも、それを今すぐ言葉に出すのは憚られた。

 まだ、怖いんだ。

 告白して関係性が壊れることが。

 異性として全く見られてなかったらどうしよう。

 そんな不安が俺を支配して告白なんてできそうになかった。


「相変わらず、俺は心が弱いな」


 自嘲気味に口から零れ落ちた自嘲は誰にも聞かれることは無かった。


 ◇


「またいらっしゃいね瑠衣君! あなたはもう私の息子みたいなものなんだし!」


「ちょ、何言ってるのお母さん!?」


 愛夏の家で夕食までご馳走になって流石に帰る時間となり、玄関で見送られていたんだけど。


「ええ~だって愛夏が異性のお友達を連れてくるなんて初めてじゃない? そもそも、あなたがプライベートで男の子と遊ぶことなんて今まで全くなかったじゃない」


 少し呆れたように愛美さんは愛夏を見やる。

 昔から学校でガードが堅いと有名だったけど、まさかそこまでとは思っていなかった。


「も、もう! そんな話瑠衣君がいる前でしないでよ! じゃ、じゃあまた明日ね!」


「あ、ああ。お邪魔しました」


 愛夏にせかされる様にして俺は家を出た。


「本当、賑やか家族でいいな」


 愛夏と愛美さんの関係性は見ていてとても微笑ましいものだった。

 俺の家族も冷たいわけじゃないけど、仕事が少し忙し目だからあそこまで深くは関わっていない。


「それにしても、案外俺ってチョロいのかな」


 今日、自覚してしまった自分の気持ち。

 振られてからこんなにも早く心変わりしてしまうのは俺がチョロすぎるのか、愛夏が魅力的過ぎるのか……


「どっちもだな」


 そう結論を出して俺は家に向かって歩き始める。

 冬の冷たい風が全身を撫でる。

 いつもは寒いだけだったけど、今は火照った体と頭を冷やすのに最適だった。


 ◇


「ただいま~」


「おかえり瑠衣」


 家に帰ると母さんがリビングに座っていた。

 普段は部屋にいることが多かったのに、何かあったのだろうか?


「そういえば、今日穂乃果ちゃんが家に来てたわよ?」


「へえ~何か言ってた?」


「なんか、2人が喧嘩したとか。穂乃果ちゃんが瑠衣を怒らせたかもしれないとか言ってたわね。あなた達が喧嘩するなんて珍しいわね」


 微笑みながら母さんは話す。

 別に喧嘩ってわけじゃないんだけどな。

 そんなに思い詰めてるなら月曜日辺りにフォローしとくとするか。


「怒ってなんかないけどな。ま、今度話をしてみるよ」


「そうしなさい。青春って良いわぇ~」


 頬を押さえてほほほっと笑う母さんはどことなくおばさん臭かった。

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