第5話 金髪美少女と男子の嫉妬

 いきなり愛夏から発せられた言葉に脳の理解が追い付かなった。今なんて言った?

 私と付き合ってみないって言ってなかったか? 一体何の冗談だ?


「愛夏、冗談なら笑えないぞ?」


「私はそんな最低な冗談を言うような女じゃないよ? 私は本気。少し前までは瑠衣君が穂乃果ちゃんのことが好きって言ってたから遠慮してたんだけど振られたのなら遠慮しなくてもいいのかなって思ってね!」


 確かに愛夏はそういった質の悪い冗談を言うような人間じゃない。それは今まで多少なりとも付き合いがあるので知っている。じゃあ、本当に愛夏は俺のことが好きだったのか?


「えっと気持ちはすごく嬉しい。けど……」


「ああ、別に今ここで答えを言わなくていいよ。私は瑠衣君のことが好きだけど、今は振られたばかりだもんね。気持ちの整理に時間がかかることくらいは理解してるから。整理がついたらまた答えを教えて欲しいな! それまで待ってるからさ。まあ、アピールはするけどね?」


 そう言うと愛夏は俺の腕に抱き着いてきた。柔らかい感触が腕を襲うが意識しないようにやり過ごす。


「……なるほど。わかった。でも、もう少しだけアピールを控えていただけると……」


「ええ~今までさんざん我慢してたんだから、これくらい良いじゃん! それに私は恋には積極的な女なの! せっかくのチャンスを逃す手はないよね!」


 さらに強く腕に抱き着いてくる愛夏。こうなってしまってはテコでも言うことを聞かないのを理解してるのであきらめることにする。


 別にそんなに嫌ってわけじゃないし。

 こんなに可愛い女の子から純粋な好意を向けられて嫌な男なんていないと思う。

 つまり、もちろん俺も嫌じゃない。ただ少しだけ戸惑っているだけだ。

 前までそんな素振りが全くなかったから。


「お手柔らかに頼む」


「保証はしないよ! 恋する乙女なんだから多少暴走しないとね!」


「なるほど。それは大変だな」


「そうだよ大変だよ! 早く私のことを好きになってね? 瑠衣君」


 上目づかいでそんなことを言われて、かなりときめいた。すでに、ちょっと好きになっている自分に呆れながらもそれでも良いのかもしれないと思った。


 ◇


『星宮の野郎、昨日一ノ瀬さんとデートしてたらしいぞ?』


『マジかよ。なんであんな冴えない奴が』


 次の日クラスに行くと、何故だか陰口を言われまくっていた。まあ、なんで言われているのかは聞こえてくる内容でわかるのだが。

 男の嫉妬ってのは醜いね~

 ここまで陰口を言われるほどに愛夏は人気ってことか。まあ、あれだけ可愛かったら当然か。


「おっはよ~瑠衣君! 昨日は楽しかったね!」


「ああ。昨日はありがとな。あのクレープ本当においしかった」


「ならよかったよ! また行こうね!」


「もちろん。愛夏がいいならまた行こう」


 またも見ている者の目が蒸発しそうなくらいの満面の笑みを向けてくる。ここまで明るくて可愛い女の子になんで俺が好かれるのか。疑問に思うほどだった。


「うん! 約束だからね!」


「ああ。約束だ。せっかくなら指切りでもするか?」


「そうだね! 久しぶりに指切りしよっか!」


 朝から愛夏とイチャイチャ? していたら教室からの視線がより一層冷たいものになった。俺が何をしたって言うんだよ。


『クソっなんであんな奴なんだよ。絶対俺のほうが……』


『だよな。あいつよりは上の自信あるぜ。俺』


 聞こえてるんだよな~その陰口? いや、本人に聞こえてるから陰口じゃないか。悪口だな。この場合。


「瑠衣君あんな言葉気にしなくていいからね? 周りの人がどれだけ瑠衣君を悪く言っても私が見てるのは瑠衣君だけだから」


「そうだぜ瑠衣。お前の良さは俺が知ってるからな」


「……いたのか陽太」


「酷いな!?」


 肩をポンと叩きながらそういってきたのは陽太だった。

 いつからいたのか本当に気配がなかった。


「でも、空風くんの言う通りだよ! 瑠衣君の良さは私たちが知ってるから!」


「一ノ瀬さん、こいつの良さがわかるのか!?」


「うん! 瑠衣君は本当にいい人だよね!」


「だな! 目つきは悪いし口もまあまあ悪いけどいい奴なんだよな~」


 二人でなぜか俺談議が始まっている。

 隣に本人が居るからそういう話をするのはぜひともやめていただきたいところではある。


「そんで、2人って付き合ってんの?」


「う~ん、保留中みたいな?」


「「「えっ!?」」」


 愛夏の発言でクラス中が騒然とした。

 いらんことを言った陽太を恨めしそうに睨みながら、俺はこの後の行動を考える。

 まだ、俺が告白した感じにすれば丸く収まるかもしれない。


「ちなみにどっちが告白したんだい?」


 ニヤニヤしながら愛夏に聞く陽太の脇腹を割と強めに小突く。

 こいつ、なんでいらんことしか言わないんだ。

 俺が何とかこの場を切り抜けようとしているのに、逃げ道を潰すような真似しやがって。


「私だよ! 私。でも、瑠衣君も最近いろいろあって気持ちに整理がついてないから、気持ちに整理がついたら答えを聞かせてもらうことになってるんだ~」


 陽太を小突いているうちに愛夏は大きめの声で昨日の告白のことを話してしまった。

 これで、俺に残された唯一の逃げ道は閉ざされたのだ。


 陽太……恨むぞ。

 続けざまに余計なことを言う陽太の脇腹を再び小突く。

 だが、愛夏の発言が消えることはないためすごい目でクラスからみられる。


『星宮のくせに一ノ瀬さんの告白を保留だと?」


『舐めたことしてやがる』


『星宮を許すな!』


 クラス中が敵に回ってしまったのを肌で感じる。

 いったい俺が何をしたというのだろうか。

 まあ、クラスの連中に嫌われようが愛夏がいるからいいんだけどさ。


「……これ言ったらまずかったことかな?」


「少なくとも、大きな声で言うべきことではなかったかもな」


「ごめん! 本当に悪気とかなくて!」


 愛夏は両手を合わせて俺に頭を下げてくる。

 正直全く怒っていない。

 愛夏は何も悪くないし、悪いというなら陽太のほうだろう。

 なんなら、告白関連でとやかく言うクラスの連中が一番悪いとさえいえるのだろう。


「知ってるよ。別に怒ってもいないし、気にしてないから。そんなに申し訳なさそうにしないでくれ」


 愛夏にそこまで申し訳なさそうにされるとなんだか落ち着かない。

 それに、俺はそこまで気にしちゃいない。


「うん。でも、ごめんね」


「本当に気にすんなよ。悪いのは教室でいきなり変なことを聞いた陽太だし。なっ?」


 陽太の肩をがっしり掴んで圧をかける。

 俺の圧を感じ取ったのかコクコクとうなずいていた。


「そ、そうです。俺が悪かったんです。ごめんなさい一ノ瀬さん」


「い、いや、私も大きな声で答えちゃったわけだしさ。今回は私たちが悪かったってことでおあいこってことにしよ!」


「一ノ瀬さん……やっぱり女神だ!」


 こんな変なやり取りをしているとチャイムが鳴って朝のホームルームが始まるのだった。







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