異世界生活に奴隷ハーレムを添えて ~元世界一位の最強奴隷パーティ育成術~
杏仁みかん
プロローグ
「ただいま優勝者が決まりました!!本大会の栄冠を掴んだのは”霜降りぎゅぅ”さんです!それでは、早速今のお気持ちをお聞かせください」
「ええっと、そうですねぇ、やっぱり―――」
暗く狭い部屋には月明かりさえ届かず、モニターの青白い光だけが孤独な彼を照らしていた。
床にはいくつものビールの空き缶と、半額シールが張られた空の弁当容器が無造作に散らばり、開け放たれた窓からは湿った夜風が流れ込んでくる。
モニターには何かの生配信が映し出され、次々と流れるコメントが怒涛のように画面を埋め尽くしていた。
「何が仲間との連携だよ、肉壁にしてただけだろ。都合の良いことばっかり言いやがって……」
「カタカタ…カタ」
彼は小声で独り言を繰り返しながら、画面に映るコメント欄に怒りをぶつけるように愚痴を書き込み続けていた。
「ガタッ―――」
そして溢れた苛立ちをぶつけるようにエンターキーを叩くと、勢いよく背もたれに体を倒し、しばらく天井を見つめた。
「あいつじゃない…本当は……俺が………」
薄暗い天井をぼんやりと見つめながら、彼はあの夏のことを思い出した。
―――――――――
8年前の2017年7月。
高校最後の夏、俺は初めて”オラトリアム・オンライン”に触れた。
『オラトリアム・オンライン』
総プレイヤー数62,240,000人、アクティブプレイヤー3,720,000人。
ジャンルはハードコア✕MMORPG。
当時画期的だった”死にゲー”と”MMORPG”を融合させた新たなジャンル、そして、その狂気じみた作り込みと想像を超える自由度で、世界中のプレイヤーを熱狂させた。
そして俺も、そんな『オラトリアム・オンライン』に心を奪われた一人だった。
どこまでも広がる仮想の大地。
息を呑むような風景。
激闘を乗り越えた先に待つ勝利の喜び。
すべての要素が、俺の心に今まで味わったことのない興奮と衝撃を与え、『オラトリアム・オンライン』の世界へと引き込んだ。
そうして、高校卒業まで半年というところでオラトリアム・オンラインに深くのめり込んでしまった俺は、それから人生の全てをこのゲームに捧げることになった。
気付けば俺は不登校になり、ほとんどの時間を自宅のモニターの前で過ごしていた。
最初の頃は、親も必死に学校に行くよう説得してきた。
けれど、俺が無言でその言葉を跳ね返し続けると、次第に諦めたのか声をかけることはすっかりなくなった。
結果的に高校は何とか卒業できたものの、大学受験も就職活動もしなかった俺は完全なニートとなり、部屋から出ることもなくなってしまった。
もちろん、自分でもこの状況がまずいことくらい分かっていた。
けれど、不安や罪悪感を振り払うように、さらに俺はゲームの世界へ逃げ込んでいった。
『オラトリアム・オンライン』―――その広大な虚構の世界は、現実の孤独や無力感をかき消してくれる唯一の居場所だった。
薄暗い四畳の部屋、眩く光る画面の中で俺はただ自分の存在を紛らわせ続けた。
しかし、そんな俺に転機が訪れた。
高校を卒業して二年が過ぎた2020年の夏。
俺は、年に一度開催される『オラトリアム・オンライン』の公式大会で八位を獲得した。
”八位”と聞くと微妙に思うかもしれない。
だが大会の規模を知れば、その意味は大きく変わるだろう。
この大会は、世界中のプレイヤー6,000万人以上の中からランクポイント上位の2500人で予選が行われ、そんな過酷な予選を勝ち抜いた50人が最終的に順位を争う。
俺の名前は、そんな世界最高峰の大会に刻まれた。
世界八位として―――
そこから、俺の人生は劇的に変わり始めた。
ネットニュースにも取り上げられ、オラトリアム・オンラインの様々なイベントに呼ばれるようになった。
そして、大会後に始めた攻略動画の投稿も、順調に再生回数を伸ばし、視聴者の反響も増え続けていた。
もちろん一位になれなかったことへの悔しさはあった。
しかし、それ以上に自分の人生の全てを全力でぶつけられたことが、そして自分が世界に認められたことが嬉しくてたまらなかった。
一人で暮らしていくには十分な収入を得れるようになったころ、俺は実家を出て一人暮らしを始めた。
数年の沈黙がそうさせたのか。
迷惑をかけてきた後ろめたさか。
それとも、その両方か。
両親とは目を合わせることもなく、俺は家を出た。
両親が何を思っていたのか……それは、今でも分からない。
心配してくれていたかもしれないし、やっと居なくなってくれた思っていたかもしれない。
一人暮らしを始めてから、俺はますますオラトリアム・オンラインにのめり込んでいった。
だが、それはこれまでの「逃避」とは違う。
純粋に、ただこのゲームが好きだったから。
そして、そんな世界の頂を見たかったから。
今思えば、この時の俺が一番輝いていたのかもしれない。
半年後の冬、待ちにまったオラトリアム・オンラインの大型アップデートが公開された。
追加ストーリーやクエスト、アイテムなど様々な新要素。
その中でも最も注目を集めていたのは”オリジナルスキル”の追加だった。
オリジナルスキルとは、各プレイヤーに種族、
既存のスキルから全く新しいスキル、バフとデバフの両方を持ち合わせるスキル、実用性のないネタスキルから環境を変えてしまうほどの強力なスキルなど、与えられるスキルは多種多様だった。
さらに、オリジナルスキルはゲーム内で手に入る特定アイテムによってランダムで変更でき、スキルガチャのようなことが可能になった。
実装前からプレイヤーたちは盛り上がり、ネットはその話題で持ちきりだった。
そして待ちに待った大型アップデート実装日。
ゲームにログインすると、当然俺にもオリジナルスキルが与えられた。
しかし、俺に与えられたオリジナルスキルは今まで見たことのないスキルで、アップデート実装後も全く情報が出回ることが無かった。
俺は検証に次ぐ検証を繰り返し、数日後に確信した。
このスキルがあれば、確実に世界の頂に立てる―――
それも、他者を圧倒的に凌駕する力で。
そして、次の夏。
俺は二度目の大会で”世界一位”を勝ち取った―――
―――――――――
あの優勝から四年。
俺の人生はすっかり変わり果ててしまった。
イベントに呼ばれることも無くなり、投稿する動画には大量のアンチコメが溢れている。
皮肉なことに、そのアンチたちが再生してくれるおかげで、かろうじて収入を得て細々と生活を続けている有様だ。
こんな生活がいつまでも続かないことくらい、自分でも分かってる。
けれど27年間、就職活動はおろかアルバイトすら経験してこなかった俺には、何をどう始めればいいのかすら分からない。
そうして尻込みする毎日が、ただ淡々と続いていく。
「……」
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
どこで何を間違えたのか。
いや、そんなの分かりきってる。
あんなスキルさえなければ―――
「ピコンッ」
何かの通知音が聞こえ、天井をぼんやりと見つめていた俺は、重い体を少し起こしてモニターに目をやる。
そこには一件のメールが届いていた。
差出人はオラトリアム・オンライン運営。
「なんだ?」
運営からのメール自体は珍しいものではない。
月に二度ほど、ゲーム内イベントの告知メールが届いている。
しかし、今回のメールはいつもと違った。
―――――――――
件名:お詫び
いつも「オラトリアム・オンライン」を遊んでいただき、誠にありがとうございます。
この度は、2020年12月28日に実装した「オリジナルスキル」により、ゲームプレイに支障をきたし、大変ご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
当該スキルの『いかなる場合においても削除、変更不可』は仕様であり、不具合ではございません。
そのため、現在、修正の予定はありません。
誠に申し訳ありません。
ですが、その代わりにキャラクタースロットを1つ追加させていただきました。
もしよろしければ、
”一から全てをやり直してみませんか”。
―――――――――
「……」
メールを読み終えた俺の胸は、音を立てるほど大きく鼓動していた。
本当に…やり直せるのか?
期待と不安が交錯する中、震える手でマウスを掴み、俺は『オラトリアム・オンライン』を起動した。
このゲームでは、キャラクターの削除や新規作成は一切許されない。
一人一キャラクターが原則。
複数アカウントは厳しく禁じられ、登録には電話番号が必須。
違反すれば、アカウントは永久BAN、大会からの出禁。
そのリスクは、俺にとってあまりに大きすぎた。
過去にサブアカウントで始めようかと思った時があったが、それが怖くて行動には起こしてなかった。
仮に作ったとしても、既に声も顔も公開してる俺がサブアカウントで大会に出場することは出来ない。
だから、一生あのオリジナルスキルから逃げられない。
そう思っていた。
だけど……、
「空きのキャラクタースロットがある…」
ゲームを起動すると、そこには見慣れた既存のキャラクターの隣に、新規スロットが確かに一つ追加されていた。
そこをクリックすると、画面にはキャラクター作成画面が表示された。
その瞬間、あの日の情景が鮮明に蘇る。
初めて『オラトリアム・オンライン』をプレイしたときのあの期待と興奮が。
「……」
気づけば、目頭が熱くなり涙が滲んでいるのが分かる。
本当に…”一からやり直せるのか”…?
高鳴る興奮を必死で抑えながら、俺はキャラクター作成を始めた。
まずは『
「あとは種族と外見を―――」
『種族は現在のものを引き継ぎます』
「ん……?」
突然、画面が切り替わり、見たことのないメッセージが表示される。
現在のものを引き継ぐ……?
それって、既存のキャラクターの設定をそのまま引き継ぐってことか?
でも、どうし――
『外見は現在のものを引き継ぎます』
俺が状況を理解する間もなく、画面は自動的に進んでいく。
な、なんだ、これ?
バグってるのか?
それとも仕様?
……まぁ、別に種族も外見もメインキャラと同じでいいけど―――
『オリジナルスキルは現在のものを引き継ぎます』
「はッ―――?」
椅子から飛び上がると、俺は目を見開き固まった。
「……」
そんな俺をよそに、既にロードが始まっている。
どういう…ことだ……?
理解が追い付かない。
一番肝心な部分が変わらないんじゃ、意味がないだろ……。
希望という名の糸が、突然手のひらからほどけていった。
俺の思考は止まり、全身の力が抜けたように椅子に腰を下ろそうとした。
その瞬間―――
「へぇっ―――」
なぜかそこにあったはずの椅子が無く、俺は情けない声を出しながら床に尻もちをついてしまった。
「痛ったぁ……何なんだ…よ……」
不満を呟く俺の目に飛び込んできたのは……見慣れぬ景色。
目の前に広がるのは、どこまでも続く草原。
春の日差しのような柔らかい光が全身を包み込み、小川のせせらぎと草が揺れる音が風に乗って耳をくすぐる。
透き通った涼しい風が頬を撫で、それは今まで嗅いだことのない甘さを纏っていた。
軽く周囲を見渡すと、すぐ傍には小川が流れている。
その奥には針葉樹の森が。
そして遥か遠くには雪を被った大きな山々が、静かに佇んでいる。
その景色は、暖かい日差しは、透き通った空気は、まるでここが天国かと思ってしまうほどだった。
「えっ……俺、死んだ?」
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