世界を救った俺の最期は、魔法使いの膝枕の上

世界で一番、幸せで残酷な日

//SE: 城が崩れる地鳴り。空気が震える。


「……やっと、終わったのね」


「魔王を……私たちが、倒した……」


「やった……やったわ……!」


//SE: 駆け寄ってくる足音。


「やったぁ!!」


(勢いよくあなたに抱きつく)


「やった! やったよぉ!! 私たち! ついに倒したの! 」


「あなたの剣が、私の魔法が……!魔王を倒したの!」


「 私たちの、勝ちよ!」


(あなたの胸に顔をうずめたまま、感極まった声で)


「見ててくれた……? 戦士くんも、僧侶ちゃんも……。きっと、どこかで喜んでくれてるわよね」


「……うん、絶対にそうよ。……聞こえる? あなたたちの仲間が、やったわよって……!」


(一度、言葉が詰まる。声を震わせながら、空を見上げるように)


「……ごめんね、二人とも……。私たちだけ……生き残って……。でも、あなたたちが繋いでくれたから、ここまで来れたのよ。……ありがとう……。本当に……」


(涙をぐっとこらえ笑顔で)


「でも、それも全部、今日で終わり! あなたが、あなたがやり遂げたのよ!」


(ゆっくりと体を離す)


「これも全部あなたのおかげ。あなたが諦めなかったから。あなたがずっと、私の前を歩いてくれたから……!」


「すごいわ、あなたはやっぱり本物の勇者よ! 私が信じた通りの、いいえ、それ以上の……!」


「これで、やっと帰れるのね。」


「王都へ。……二人の訃報を、届けないといけないけれど……。」


「でも、胸を張って報告できるわ。二人は、世界を救った、本物の英雄だったって」


「……うん、そうだわ。私たちが、ちゃんと伝えないと。二人がどれだけ勇敢で、どれだけ優しくて、どれだけ……私たちの、大切な仲間だったか」


「ねぇ、聞いてる? ……ごめん、また暗い話しちゃった」


「だめね、私。嬉しくて、悲しくて、感情がぐちゃぐちゃだわ」


「でも今は、まずは、私たちの勝利を祝わないとね! あなたが、あなたがやり遂げたんだから! ほら、笑ってよ!」


(あなたの頬を、人差し指で軽くつついてみる)


「もう、しょうがない人ね。照れてるの? それとも、疲れちゃった?」


「 ……まあ、そうよね。あんなのと戦ったんだもの。無理もないわ。私だって、もう魔力もすっからかんだもの。立ってるのがやっとよ」


「大丈夫。すぐに街へ戻って、一番良い宿を取りましょう」


「絶対に、一番良い部屋よ! 天蓋付きの、ふっかふかのベッドがある部屋!」


「 まずは、熱いお風呂に入って、この泥と汚れを全部洗い流して……」


「もう、何日もお風呂に入ってないもの。ちゃんとした石鹸の香りに包まれて眠りたいわ」


「それから、ご馳走よ! 想像してみて? じっくり煮込まれた、あの宿屋のビーフシチュー!」


「 あなた、好きだったでしょ?」


「 それから、お肉がたくさん乗ったパイも!」


「 デザートには、蜂蜜がたっぷりかかった甘いケーキも頼んじゃいましょう! 私が全部、奢ってあげる! 英雄様への、ささやかなプレゼントよ」


「戦士くんがいたら、『俺は酒だ!一番高いやつ持ってこい!』なんて叫んで」


「僧侶ちゃんは『もう、はしたないですよ』なんて言いながら、自分の分のケーキはしっかり確保してるのよね、きっと。ふふっ……」


「……四人で、食べたかったな」


「……ごめん。……本当に、ごめんね。どうしても、考えちゃうの。……でも、私たちが下を向いてたら、二人が悲しむわよね。うん、前を向かないと」


「王様にも報告しないと。きっと、国中がお祭り騒ぎになるわ」


「あなたは、世界を救った英雄として、歴史に名前が刻まれるのよ」


「吟遊詩人たちが、あなたの武勇伝を歌にして、永遠に語り継いでいくの」


「……もちろん、戦士と僧侶のことも、そして、私の活躍も、ちゃんと入れてもらわないとね! 」


「ちょっぴり美化してもらおうかしら。ふふっ」


「……ねぇ、ってば。何か言ってよ」


「凱旋パレードの時、どんな顔して手を振るか、今から練習しておかないと」


「……あなた、そういうの苦手そうだから。私が、ちゃんと指導してあげる」


「そうよ、帰ったら、やりたいことがたくさんあるの」


「まずは、二人のご家族に会いに行かないと。それから、王様に報告して、それから……」


「ああ、そうだわ。私、王立図書館の禁書庫に入ってみたいの! 」


「これだけの実績を上げたんだから、少しは融通を利かせてくれるはずよ。古代魔法の原典、この目で見てみたいわ」


「あなたは? あなたはどうするの?」


「 故郷の村に帰るのかしら。それとも、王様から騎士団長にでも任命されちゃうかも」


「あなたなら、あり得るわよね。でも、あなたが騎士団長なんて、想像つかないわ。部下に指示とか、ちゃんとできるの? 心配だわ」


「でも、どんな道を選んだって、あなたはもう、ただの村の青年じゃないのよ。世界を救った、たった一人の勇者様なんだから。もっと、胸を張っていいのよ」


「……ねぇ」


(少し、声のトーンが変わる。真剣で、どこか恥ずかしそうな響き)


「あのね。……王都に帰って、パレードも、叙勲式も、全部終わって……。何もかもが、落ち着いたら……。その時は、二人で、少しだけ、時間を作ってくれないかしら」


「……あなたに、ずっと、言えなかったことがあるの。……言わなきゃいけないことがあるの」


「旅に出る前から、ずっと……ううん、旅をしてるうちに、どんどん、大きくなっていった気持ち」


「……怖くて、言えなかった。この旅が終わるまでは、自分の気持ちに蓋をしようって、決めてたから」


「でも、もう、終わりなのよね。……だから、聞いてほしいの。……私の、本当の、気持ちを」


「……だから、ね? ……ちゃんと、帰るのよ。私の話を、聞くまでは、どこにも行っちゃだめなんだから。……約束よ?」


(あなたの腕にそっと触れる)

「……え……?」


「なんで、そんなに、力が入ってるの……。剣を、杖みたいにして……」


(あなたの顔を、心配そうに覗き込む)


「……顔色が、悪いわ。どこか、怪我を……?」


「まさか……。だって、魔王の攻撃は全部、私が障壁で……それに、あなたなら、避けて……」


(彼女の視線が、あなたの胸元に落ちる)


「……あ……」


「……その、傷……なに……?」


「ちっ……血だらけじゃない!」


「いつの間に……。なんで、そんな……」


(震える指先を、ゆっくりとあなたの傷に近づける)


「嘘……。呪い……? これは、ただの傷じゃない……。魔王の、命そのものを削る呪詛……」


「……だから、あなたは……最後、相打ちになる覚悟で……」


(あなたはその場に倒れこむ)


「……いや……。いやよ……」


「せっかく、勝ったのに……。やっと、平和になったのに……。これからだって、思ってたのに……!」


「そんなの、あんまりじゃない……!」


「……だめ、諦めちゃだめ……! 私が、私が治す……! 私は、魔法使いなんだから……!」


「待ってて! 今、治すから! 大丈夫、絶対に助けるから…!」

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