第十二話 ゴブリンロードの影

「ギャ…ギッ」「ギッ…ギャァ…」「ギギャ…ギャア…」「ギッギッ…ギャッ」「ギャギギ…」「ギャ…ギギ…」「ギッ…ギャギギャァ…」「ァ…ギ」「ギィギギャァ…」「ギッギャィ…」


 合う度に、合う度に、撃つ度に、撃つ度に…殺す度に、殺す度に、ゴブリンの汚い声が頭に響く…正直言って頭がおかしくなりそうだ。


 あの時のことを思い出す。


「ねぇ…多すぎない?あまりにも」


「あぁ、それに他の攻略者も見てない…もしかしたら…」


 周囲の警戒レベルをMAXにしながら先へ進む。ゴブリンに会っては撃ち、ゴブリンに会っては撃つ。もう何匹殺したか覚えていない。


〈本当にゴブリンロードが出たんじゃないか?〉

〈まさか攻略者がゴブリンにやられてる…?〉

〈取り敢えず攻略者協会に通報した〉

〈異常だろこれ、引き上げたほうが良くないか?〉

〈最高の展開ニキもといガン・ザ・キッド君もとい絵の具セットの青いドラゴン君を信じろ〉


「もとい過ぎな?」


「でも、やっぱり異常だね、この量…正直、結構キツイ」


 息を切らしたエルが、言葉を漏らす。


 エルも、この異常な事態に警戒を解いていない。そりゃここまで疲弊もするだろう。


「引き返しはしない、この分なら俺1人でゴブリンロードだって殺せるはずだ。エルさんは休むか、帰るか選んでくれ、帰るなら護衛はする」


「ははっ、冗談、まだまだやれるし、私的にはそっちの方が心配かな、また意識失ったら助けてあげれないよ?休む必要もない、さっさと先に進もう」


〈エルちゃん大丈夫か?〉

〈無理だけはしないように〉

〈やっぱ引き返したほうがよくない?〉

〈ガン・ザ・キッドさんを信じろよお前ら〉


 エルの様子を見ながら、慎重に先へと進む、いつゴブリンに遭遇しても、迷わず撃てるように二丁拳銃を構えながら。


 俺1人なら突っ走るが、今はエルさんがいる。出来るだけ慎重にいかなければ、命に関わる可能性もある。


 そもそも俺らは初めてのパーティだし、連携も何もあったものじゃない、正直な話、ソロより危険性が高いだろう。


「エルさん!出たぞ!」


 曲がり角で遭遇した鎧を着たゴブリンは、まるで俺達の位置を把握していたように潜伏していた。


 そのゴブリンは通常より一回りほど大きく武器の剣も丁寧に手入れがされていた。…ゴブリンソルジャーか!


 すぐさま魔力弾を放つが…鎧が魔力弾を弾いた。


「うっそだろ…!?」


 間違いない!コイツら対策してきやがった・・・・・・・・・!俺らがゴブリンを狩ってる事を知り、俺対策に魔力反射の鎧を着たゴブリンソルジャーを派遣したのか…!


 その上で俺の位置を把握し、曲がり角で潜伏した…厄介な知能を持っている司令官がいる、これは間違いない、ゴブリンロードだ!


「エルさん!ゴブリンソルジャーだ!魔力反射の鎧を着てい…らぁっ!」


〈ゴブリンソルジャー!?〉

〈まじかよなんで魔力反射の鎧なんか〉

〈かなりレアだぞそんなゴブリンソルジャー〉

〈ゴブリンソルジャーってC級だよな?魔力反射の鎧着て実質B級?〉

〈相手は完全に対策してきてるな、ゴブリンロード確定じゃね?〉

〈俺5年前の那覇ダンジョンゴブリンロード討伐戦に参加してたけど、確かにゴブリンロードはこういうことしてくる〉


 端的に情報を伝える俺に、ゴブリンソルジャーは剣を振りかざした。二丁拳銃で剣を弾き返しながら、回転蹴りをしてゴブリンソルジャーを吹っ飛ばす。


 …が、その隙にさらに潜伏をしていた雑兵ゴブリンの短剣が首を狙って襲いかかる。


 やはりゴブリンソルジャー一匹な訳が無い。潜伏していた別のゴブリンがいることは想定内だ。ギリギリの所で回避し、ゴブリンの頭に魔力弾を放って殺す。


「あぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 その後すぐに3体ほどのゴブリンが襲いかかるが、大声を出して怯ませた後、魔力弾を撃って殺す。


「こういう雑魚には、この手の威嚇がよく効く、覚えておいたら命が助かるかもよ」


〈合間に解説挟んでくれるの助かる〉

〈俺も今度から叫ぶわ〉

〈今度はゴブリンに耳栓装備させるぞww〉

〈エルちゃんは大丈夫?〉


 エルさんを見ると、後ろから挟撃を狙ってきたゴブリンを相手取っている、数は3匹程、なら大丈夫だろう、彼女は中層でソロ活動をしていたらしいし、この程度なら対処できる筈だ。


 こっちが集中するべきはゴブリンソルジャー、さて、どう戦う?


「ギグァ…キギ…ギギャァァ!!!」


 ゴブリンソルジャーは立ち上がり威嚇するが、コチラに威嚇は効かない。


 魔力反射の鎧。たしかに凄い鎧だな、コチラの魔力弾が効かないのは脅威だ、だけど…。


 さっき鎧に魔力弾を撃った箇所が、少し凹んでいる…つまり、衝撃までは吸収できないってことだ、ならやりようは幾らでもある!


「『跳弾』!!」


 魔力弾を乱射する。すべて計算し、俺とエルには当たらないように、逆にゴブリンソルジャーに全弾当たるように。ゴブリンソルジャーの魔力反射の鎧に当たり反射しても、それがまたゴブリンソルジャーに当たるように。


 脳をフルに回転させ、感覚を研ぎ澄まし、ゴブリンソルジャーを圧倒していく。


 この空間全てを立体的に捉え、勘と経験とそれを確かにする計算を駆使し、魔力弾を放っていく。ゴブリンソルジャーの鎧は凹んでいき、衝撃によってぼろぼろになっていく。ゴブリンソルジャーは魔力弾に圧倒され、動くことが出来ない。


〈すげぇぇぇ!!!!〉

〈でもいくら魔力弾撃ったって反射されてら意味なくね?〉

〈でもめっちゃ鎧ボロボロになってる!!〉

〈神業〉


 魔力弾を放ち続けると、やがてボロボロだった魔力反射の鎧は壊れ、むき出しになったゴブリンソルジャーの体を、跳弾した魔力弾が貫き、塵になって消えた。


「ぷはっ!…はぁ、はぁ、やべ、集中しすぎて息忘れてた・・・・・…エルさんの方は大丈夫?」


〈息忘れてた!?〉

〈コイツよく今まで生きてこれたな〉

〈息忘れてたはヤバい〉

〈ええ…神業と集中加減に二重で引くわ〉


「うん、大丈夫、こんくらいなら全然」


 このダンジョンではないが、ゴブリンなんてどのダンジョンにもいるし、実質的なソロで戦える場だったら経験なんていくらでもあるか。何にせよ無事でよかった。


「さっきのゴブリンソルジャーの潜伏、その上伏兵もいたし、挟撃もする気まんまんだったわけだが…明らかに俺たちの位置がバレてたよな?」


「んー、たまたまかもよ?来た攻略者を無差別にこうして襲ってるのかも」


「だとしたらあの魔力反射の鎧が気になる。魔力弾を使ってゴブリンを殺してる俺をメタっているようにしか見えなかったが」


〈確かに〉

〈魔法使う人とか珍しくないし、偶然じゃね〉

〈いやいるだろゴブリンロード、今もキッド君達を見てんだよ〉

〈怖…〉

〈ええ?引き返したほうがよくない?メタ張られてたらさすがに厳しい気がする〉


 ゴブリンロードは小賢しくて卑怯なモンスターだ。ゴブリンを使って情報を集め、対策し、強くなっていく。そしてどこまでも貪欲だ。


 ゴブリンロードは支配下のゴブリンと視界を共有する能力を持っている。だから、手の内を見せすぎるとそれに対応したゴブリンを当て、脅威を排除しようとするのだ。


「あいつらは時間をかければかけるほどゴブリンの数を増やし、学習し、時には他のモンスターと協力して、ゴブリンロードの配下全体で強くなっていく。早いこと片付けたほうがいい」


「だからって、いくらキッド君でも数的不利で負けちゃうでしょ!」


「だから!さっさと数が増える前に倒そうって話じゃないか!まだどの程度増えているか分からないんだからやれる時にやらなきゃ、手遅れにな「ぐぁぁぁぁぁ!!!!!」


 口論になっていた所で、つんざくような叫び声が聞こえた。他の攻略者がゴブリンに襲われたか。すぐに声が聞こえた方へ駆け出す。


〈うわ、別の攻略者か〉

〈ゴブリンに襲われたんじゃね?〉

〈ってか、さっき口論になってたけど大丈夫?〉

〈そんなことより早く助けないと〉

〈ゴブリンロードってホントに脅威だな〉

 ・

 ・

 ・

〈これが…ゴブリンロードの影か〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る