第六話 This is a Japanese SAMURAI!!!

「大丈夫ですかー?」


 二丁拳銃の男を揺さぶりながら、声を掛ける。息はしているが、意識はないようだ。あのダメージのまま動き続けたのだから、当然だ。むしろ生きていて良かった。


「えっと、意識は無いようだけど、一応生きているので安心して!」


〈良かったー〉

〈エルちゃんいて良かったな、1人だったらそこら辺のモンスターに食われてた〉

〈周囲は警戒してねー〉

〈この後どうするの?〉


 コメントの勢いが少し収まってきた、同接数は未だ増え続けているけど、これなら固まってコメントの指示が見えなくなる…ということはないだろう。


「取り敢えず、この方を抱えてワープポイントまで行くよ。深層の手前まで進めば、ボス部屋の前にワープポイントがあるはずだし」


 ワープポイントとというのは、各階層に降りるときに設置されている帰還用の転移装置だ。ダンジョン内でのみ設置されていて、使用者の魔力を使用してダンジョンの入り口まで転移することが出来る。


 そして、行ったことのある階層なら、ダンジョンの入り口からその階層へ転移することも出来る。


 ボス部屋というのは、各階層の出口に設置されている部屋で、その中には強力なモンスターがいる。このモンスターを討伐すれば、次の階層へ進むことが出来る。


〈この魔石はどうするの?〉

〈魔石バカでかくて草、運べる?〉

〈ワープポイント探すより、別の攻略者が助けるのを待ったほうが良いと思う〉

〈クロガネギルドが15人以上討伐部隊で行ってるらしいけど、もう倒しちゃったしなぁ〉


 そうか、確かにこの魔石は運べそうにない、大人しく別の攻略者を待つとしようか。


「うん、分かった!」


 剣を抜き、構えて周囲を警戒する。うん、大丈夫、周りにモンスターはいないっぽい


〈にしても、見事なフラグ回収だったww〉

〈エルちゃん悪運強すぎるね〉

〈伝説が爆誕してしまった〉

〈エルちゃん生きてて本当に良かった〉


「うん、もう死んだかと思ったよー」


 実際、こうやって私が今喋れているのはこの人のおかげだ、この人が起きたらちゃんと感謝を述べないといけないな。


「いやー、何事もなく帰れるといいけど」


〈あっ〉

〈フラグを作るのはもうやめてwww〉

〈もうフラグ建築士としてはS級なんだよなぁ〉

〈エルちゃんはもう喋らないほうがいいのでは?〉


「ちょっ、流石にそれはひど…」


 本日2度目の悪寒だ。この展開何度目だ、と、考える暇もなく、私の身体は宙に浮いた・・・・・・・・・・


「キィー!!!」


 …2メートル程の巨大なコウモリに捕まって。


〈バッドバット!?〉

〈はやっ〉

〈オオコウモリ、B級のモンスターか〉

〈うわっ、モンスターバットかよ!〉


 正式名称はオオコウモリ。


 普通、ダンジョンによって生息するモンスターはガラッと変わるが。このオオコウモリは多くのダンジョンに生息する。


 ゴブリンやオークとかも多くのダンジョンに生息するが、基本的には上層に生息し、名称も統一される。しかしオオコウモリは下層に生息して、存在感もそれほどないから、名称が統一されずに地域によって呼び方が変わってややこしい。


 バッドバットは関西方面で言い始めたらしい。モンスターバットはまだダンジョンの定着していない頃に、九州の辺りで言われてた名残だ。


 クッソ!完全に油断してたー、周囲の警戒を緩めちゃった。なんだよオオコウモリって…たしかフィリピンあたりに似たようなのいたぞ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ちょっ!痛い痛い!」


 オオコウモリの足が私の首根っこを掴む。


 オオコウモリは上から奇襲を仕掛け、獲物をこうやって捕らえて巣に持ち込む。私が離れてしまえば、二丁拳銃の男は危険に晒されてしまう。何とか私がこいつを倒さなきゃ。


〈完全に奇襲食らったな…〉

〈剣届く?〉

〈ちょっと不味いかも〉

〈頑張れ!!〉


 大丈夫、オオコウモリの耐久力はそんなに高くない、腹に剣を突き刺せば殺せるはず。落下はまぁ…なんとかするしか無い。


「大丈夫!オオコウモリは皮膜が硬いけれど、腹は柔らかい、今から腹に剣を突き刺すよ!」


〈オオコウモリって実は相手を掴んでる時が一番弱点なんだよな〉

〈自分から掴んで弱点晒すのウケる〉

〈うおおおおいけ!〉

〈エルちゃん今日初のモンスターか?〉


 大丈夫、大丈夫、剣を構え、捕まれた状態で腹を…!!


 剣を構えた瞬間、私の身体は地面に落とされた。


「すまない、少し遅れた」


〈えっ!?何が起きた?〉

〈エルちゃんがやったのか!?〉

〈オオコウモリが真っ二つに…?〉

〈あっ、この斬り方…〉


 落下しながら、確かにその人を見た。黒い長髪、整った顔、刀に付着した血を振り払い鞘に納める一連の動作。


 彼女の配信を観たことがある。解説や雑談はほとんどしないが、洗練された動きとか、刀の振るい方がカッコよくて憧れたんだよなぁ。


わたくしはA級攻略者のSAMURAIだ、S級モンスター討伐、助太刀に来た」


〈SAMURAIちゃんキター!!〉

〈うおおおおお!〉

〈かっけぇぇぇぇ!!!〉

〈This is a Japanese SAMURAI!!!〉

〈何故今?〉

〈まさか討伐終わったことに気づいてないんじゃ…〉


「いたっ」


 地面に落下するが、まだ塵になっていないオオコウモリの死体がクッションとなる。


 何がなんだかで混乱している私に、SAMURAIは詰め寄ってくる。


「すまない今はパーティを組んでいないのだがS級モンスターが現れたというので居てもたってもいられなくなりソロで来てしまったのだダンジョンに来てから配信を観ずに急いでいた為状況が分からなくてすまない現状を教えてくれ今はどうなっているあの二丁拳銃の男はどうしたお前はオオコウモリに攫われていたようだがあの二丁拳銃の男は1人か」


「えっあのちょっと」


 突然のマシンガントークに頭がショートしそうになる。この人ってこんなふうに喋るのか…


「ま、先ずは助けてくれてありがとう!でも…実はもうS級モンスターはね、その二丁拳銃の男が討伐してくれたんだ!」


〈まさか最高の展開ニキが倒してるとは思わんやろなぁ〉

〈その最高の展開予想できる奴いねーからなぁ〉

〈すれ違って助太刀に来ちゃったSAMURAIちゃんかわいい〉

〈でもここで来てるれるならありがたいね〉


「なっ…!?S級モンスターを2人で討伐したのか!?」


「あー、いや、私は影で見てただけで、実際はソロ討伐なんだよね」


 SAMURAIからしたら理解できないだろう、S級モンスターの単独撃破なんて前例がない。そんな破格の実力を持った攻略者が無名というのも。


「そんなまさか…信じられん。では、その男はどこにいるのだ、まさかもう帰ったのか?」


〈「信じられん」←それはそう〉

〈こんな短時間で単独撃破だもんな〉

〈SAMURAIちゃんもこれには驚き〉

〈全員驚くだろ〉


「いや、今は意識を失っていて、救出しなきゃいけない状況なんだけど、ドラゴンからドロップした魔石がデカすぎて、一緒に運べないんだよね…」


「…成程、大体状況は理解した。なら私が魔石を運ぼう、力には自信がある」


「ほんと!?助かるよ!」


〈良かったぁ…〉

〈道中モンスターに会ってもSAMURAIちゃんなら問題なく倒せるだろうし、来てくれてほんと良かった〉

〈助かったなぁ最高の展開ニキ〉

〈SAMURAIちゃんサイコー!〉


 A級攻略者がいると心強い。これなら無事に帰還出来そうだ。


「では早速向かおう、S級モンスターをソロ討伐した者が、チンタラしている間に殺されては面白くない」

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