第46話

 嵐の過ぎ去った自室で、和彦は呆然としていた。

 部屋にはまだ三人の残り香がしているし、何よりも唇に、舌に、手や股間にも感触が残っていた。


 ーーお、俺、あんなことをしてしまって……。


 和彦はとうとう萌花の胸を吸ってしまった。それだけではなく、ヤケクソになって甘えまでしてしまったのだ。そして、その様子を見ていた立花からも、とうとうお金を受け取ってしまっていた。


『アタシ、気が付いたんだ! 今までのアタシは理由なく金を渡そうとしていた。だけどそれじゃあ健全じゃなかったんだ。だから和彦も受け取ってくれなかったんだろ? でも今日は良いもの見せてもらった! だからそれに対する対価であり、投げ銭だ。これはむしろ渡さないとバチが当たるってもんだ! これがアタシの誠意なんだよ!』


『お、おう……』


 と、萌花ママに甘え、その様子に麗花ママも乱入し、二匹ーー二人のママに弄ばれーー甘やかされた和彦は、正常な判断が下せないままに受け取ってしまった。

 だからそれは誠意じゃなくって性意だ、同級生の情事の見物料を払うだなんて、ますます健全からは遠ざかっている、などというツッコみも出来なかった。


 今更返すことも出来ないだろう。

 和彦は手をつけてはならないお金として、厳重に保管しておくことにした。


 しかし、どうしてこうなってしまったのだろう。

 どうしてもこうしても、起点は麗花であるのだが。

 そして、和彦も流されやすくなっていた。


 ーー俺、こんな奴だったっけ? ……ってか、れーちゃんの催眠アプリ、本当に効果はないんだよな……?


 自分は催眠にかかったフリをしていただけの筈だったが、実は本当にかかっていて、もはやあのアプリの画面を見なくとも麗花の言葉には逆らえなくなっているのではないか。


 そんな考えすら浮かんでくる。

 

 ーーまずいなぁ……。


 と本気で思う。

 何がまずいかと言えば、それでも良いか、と思い始めていることである。

 もはや和彦からは、抗う気持ちが抜け始めていた。


 再三思うように、あの三人は外から見れば誰もが羨むような美少女たちなのだ。その内面は随分とエキセントリックなものだったが、人間とは慣れる生き物だ。

 そして、何だかんだと言って、四人で過ごす日々は心地良くなっていた。

 

 麗花の言ったように和彦は彼女たちを拒絶してこなかったし、今更拒絶することなど出来る筈もない。

 和彦は彼女たちとの関係性を失えなくなっていた。


 失えないのならばどうするか。

 ーー進めるしかない。


 時計の針は戻らないが、進めることは出来る。

 とある有名な司令官もそう言っている。


 和彦、駄目、それ言うこと聞いちゃいけない系の人。

 と止めてくれる者がいないどころか、むしろ率先して背中を押してくれる者しか和彦の周りにはいなかった。そして見事和彦が彼女たちに依存してしまえば、「おめでとう」と彼女たちは祝福してくれることだろう。


 だが、もうこの時点から和彦は退くことは出来なくなっている。

 もしも退けば、あの三人は何をしでかすか分からない。

 何せ自分たちの都合の良いように進める頭脳も、和彦を飼い殺しにできる財力すらもっているのだったから。


 ーーああ、もうれーちゃんは俺をどうしたいんだよ……。


 そんなのは決まっていた。

 皆で仲良くお手手を繋いでハッスルハッスル。


 そう思うと、和彦は恐れよりも期待を抱くようになっていた。


 ーー俺は、もう、覚悟を決めなくちゃいけないのか……。


 和彦は麗花の催眠アプリを受けてから、もう何度改めて覚悟をしているのか。

 人生とは覚悟の連続だ!

 と格好よく言えれば良かったが、それは全て強いられてのことだった。

 しかし、強いられていようが、流されるがままではなく、自発的に覚悟を決めているからこそ、彼はかろうじて主人公でいられたに違いない。


 しかし、何を覚悟するのか。

 あの三人を娶ること?


 だが、麗花は萌花と立花との関係を進めようとはしていても、彼女は自分だと公言している。と言うことは、あの二人を娶らせようとしているわけではないだろう。

 そもそも一夫多妻制ではないのだし。


 それこそ、法律を変えたりしなくちゃ……。


 ーーあいつら、やらかさないよな?


 絶対にないとは言い切れないのがあの三人の怖さである。


 ーーま、まあ、どうなるにせよ、あの三人とはまず真摯に付き合うことにしよう。


 それが今の和彦に出来る精一杯の覚悟である。


 真摯に麗花の誘いに乗り、真摯に萌花のママプレイに乗り、真摯に立花からは投げ銭を受け取る。

 ーー真摯とは?


 性癖が違えばまた真摯も違うのだろう。

 そういうことにしておこう。


 ーーああ、もう俺に安らぎの時は訪れないのだろうか……。いや、それこそれーちゃんや萌花ママに甘えれば……。


 そう思う時点ですでに和彦は末期だった。

 彼が素敵なボートに乗らないことを願うばかりである。


 四人の関係性は、今一歩、進んだのだった。

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