第29話
「……で、萌花ママはそんな人だったと……」
と、和彦は硬い声を出した。
「そう〜。なんかね、私って昔からそうなの〜。男の子を自分の子供にして思いっきり甘やかしたい願望があって〜。でも、今までは我慢してたんだ〜」
そのままずっと封印されていれば良かったのに。
「というのと、なんかピンとくる人がいなかったの〜。でも、麗花ちゃんの好きな人ってことで和彦ちゃんを見てて、あれれ? って思ったの〜」
あれれ〜? おかしいな〜? この子って私の息子かな〜?
ってやつですね、分かりません。
「それでお昼ご飯を一緒に食べているうちに、もっと話して確かめてみたいって思ったの〜。そしたら、やっぱり〜」
「お、俺のことをそんな目で……」
なんかそんな妖怪いなかっただろうか。
和彦はやっぱり『助けて!』と麗花を見た。
だが彼女はうんうんと頷くと、
「ようやく運命の人を見つけたのね、良かったわ」
「違う! 良い話じゃない! あとそれから俺はお前の彼氏だ!」
「そ、そんな風に強く自己主張してくれるだなんて、とてもキュンときたわ」
ーーやべぇよ、話が通じる人が誰もいねぇよ!
和彦はまるで異国の地で一人放り出されたような気がした。
これは異世界転移モノだっただろうか?
いいえ、現代ラブコメです。
和彦が絶望に目の前が真っ白になりそうになっていれば、この場にはもう一人いることに気がついた。
だがこの二人の親友、三人衆のうちの最後の一人である。
希望は持たない方が良い。
しかし、縋れる者が彼女しかいないのも確かではあった。
和彦は『助けてくれ!』という強い気持ちを持って黒部立花を見た。
それは絶望に打ちひしがれた男の目であって、救いを求めている哀れな男の目であった。
それがとてもーーとても残念なことに、彼女の琴線に触れたらしかった。
「……やべー、確かに良いわ、和彦……」
「え……?」
ここで連日麗花によって鍛えられ続けてきた和彦の危機感知センサーに俄かに反応があった。だが、手遅れになってから反応するところがやはり和彦だ。
立花はチロリと唇を舐め、快活そうな顔を恍惚に染めていた。
「え、え……?」
やっぱり救いはないんですか?
この世には神も仏もいないのか、ーーきっと立川あたりでバカンスでもしているに違いない。
「麗花も萌花も見る目あるんだな〜。アタシもビビッときたぜ」
「あら、立花もかしら?」
「あら〜」
「えっ、えっ……?」
立花の言葉に、麗花がようやく分かったかとばかりに和彦の後方保護者面で頷き、狂気のママも私の息子の良さがようやく分かったのね、と言わんばかりに嬉しそうにする。
この場から逃げ出したいのに逃げ出せないのは和彦だ。
「で?」
と、立花が手のひらを上に向け、和彦に人差し指と中指をスタイリッシュに差し伸ばしてきた。
「和彦はいくらもらったら助けられるの?」
「え、え?」
いくら?
助けられる?
いったい彼女は何を言っているのだろう。
言葉の使い方が間違っている。ーーいいや、和彦はまだ理解していなかったが、意味は合っていた。ただ、常識に合っていなかっただけなのだ。
「あ〜、和彦ちゃん、立花ちゃんはね〜」
と萌香が助け舟を出してくれた。
「気に入った男の子にはお金を渡して甘やかしたい女の子なの〜」
そんな女の子がいるかッ!
と、和彦は劇画調で言いそうになった。
助け舟は、まさしく狂気のナイスボートであったらしい。
和彦は再び『助けて』と麗花を見た。ーー学ばぬ男である。
だが、麗花はちゃんと説明をしてくれた。
「言葉通りの意味よ。立花はこう見えて良いところのお嬢様でね。それだけじゃなくって、会社内で自分でも企画を立ち上げて稼いでいる才媛なの。ちなみにあの催眠アプリを作ったのも立花よ。まさしく私たちのキューピットね」
「そんな褒めるなってぇ〜」
と立花は照れるが、こう見えて、というところに突っ込まなくても良いのだろうか?
そして、ピンクと黒のぐるぐる渦巻きがキューピットで本当に良いのだろうか?
「それで、彼女は気に入った男が出来れば、どこまででもお金を出してあげて甘やかしたいって性癖を持っているの。今まではピンとくる男がいなかったようだけれど……やったわね、かず君、パトロンをゲットしたわよ」
あれ? 麗花は立花の親友ではなかっただろうか? そんな扱いで良いのだろうか?
だが、立花は麗花からの扱いに思うところはないらしい。
彼女はむしろ嬉々として言うのである。
「いやぁ〜、さっきの和彦の目、良かったなぁ〜。なんていうの? すっげぇ哀れでぞくってしたっていうの?」
「ふふっ、お目が高いわね、立花。そうよ、かず君は追い込むととっても可愛いの」
「うんうん、私も守ってあげて、甘やかしたくなっちゃうな〜」
「「「うふっ、うふふふふふっ」」」
「ひぃいいいっ⁉︎」
やっぱりこの三人は関わっては駄目な女たちだった。
完璧超人痴女の麗花に、
性と母性と金で男を狂わせる。
言うなれば駄目男製造機三人衆。
どうしてこんな奴らが女子高生として平然と紛れ込んでいたのだろうか。
高校生から日本を駄目にする計画を立てた、悪の組織の工作員と言われても、しっくりときてしまう。
しかし、彼女たちが平然と高校に溶け込めていたのは、カースト番外位だったからに違いない。だが、カースト番外位とはいつからアウトローの別名になっていたのだろうか? そして、それって溶け込めていないんじゃあ……、と勘の良い者はどんな目に合うのかわからないだろう。
「あっ、あのっ、俺は麗花の彼氏だから。麗花に恥じるようなことはしたくないと言うか……」
と和彦は抵抗を試みた。だが、この場に連れてきたのが麗花なのである。
「大丈夫よ、あなたは私の立派な彼氏よ。だから胸を張って萌花にバブバブ甘えたり、立花にお金をせびったりして良いの」
「ーーーー」
和彦はただただ白目を剥いた。
やはり神も仏も寝てしまっておられるらしいのだ。
すると、麗花は真面目なトーンになって言い直す。
「かず君、お願い、二人が道を踏み外さないように、二人の性癖を満たしてあげて。そうじゃないと萌花はいずれママ活を始めるかも知れないし、立花は売れないバンドマンに制限なく貢ぎ始めるかも知れないわ。二人は、私の親友なのよ」
「責任重大だなー」
和彦の黒目はもはや戻っては来られない。
しかし、それで和彦が道を踏み外しても良いと言うのだろうか?
「大丈夫よ、だってかず君だもの」
ーー今、俺の心を読みました?
それに、和彦は麗花の彼氏なのだ。彼女には誠実でいたいーー。
「大丈夫よ、かず君は二人の性癖を満たしてあげるだけで、彼氏になるわけじゃないもの。関係が進んだとしても、私のところに戻ってきてくれるからそれで良いの」
戻ってきてくれるのは確信しているんですね。
そして、いざとなったら首輪をつけて連れ戻すに違いない。
しかし、またナチュラルに心を読んでいた。
これは理解のある女性というよりは、やはり駄目男製造機の一種に違いない。
「……か、考えさせてください」
三人の圧に耐えきれず、和彦は断り切ることが出来なかった。だが、むしろ押し切られなかっただけ和彦は
「仕方ないな〜。でも、萌花ママとはちゃんと呼んでね〜」
「小遣い欲しかったらすぐに言えよな!」
「良かったわね、かず君」
「……は、ははは……」
理解のある彼女で嬉しいなー(棒)。
しかし、まさかとは思うが、三人とも学校でもこの調子でくるつもりなのだろうか。
中身は完璧超人痴女と
その三人から学校でも迫られることになってしまえば……。
ちゃんと完璧超人美少女彼女がいるのに、その親友美少女たちまで侍らせるモブ男。
和彦のあだ名が『鬼畜モブ』になってしまう!
まるで悪の組織の四天王のようではなかろうか。
四人揃ってまず高校から侵略を始めるのだろうか。
ただし、侵略されるのは和彦一人なのだけど。
和彦は付き合った彼女の手によって、新たな業火の中へと放り込まれたらしかった。
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