第6話 説明会が終わって
駅前に戻ってきた後、東先生に再び案内されて個室のある喫茶店へ。
店内に入って個室で一息つくと、東先生が話しかけてきた。
「お二人とも、お疲れ様。
どうでしたか? ダンジョンを利用した借金返済、理解できなかったみたいですけど……」
「道中でも言いましたが、私は理解ができませんでした……」
「俺も、何だか肝心なところを説明してもらってないような気がして……」
そう俺と紗枝の感想を聞くと、東先生はフッと笑った後、注文したアイスコーヒーを一口飲んだ。
「あれはね? ワザと肝心な説明をしていないのよ」
「え?」
「ワザと? 何故です?」
「ダンジョンを利用する者に、勘違いさせるためなの」
「勘違い?」
紗枝が疑問を聞くと、東先生は再びアイスコーヒーを一口飲んだ。
「ねえ紗枝さん。紗枝さんはダンジョンと聞いて、何を想像した?
漫画やアニメ、他にもラノベに出てくるファンタジーな物語を想像しなかった?」
「……しました。ダンジョンの魔物を倒すとか、魔石を持ち帰るとか……」
「俺も同じです。
剣や魔法で、仲間と一緒に戦うとか……」
「でしょうね。
でもコルバルは、拓海さんたちがどう魔物と戦うのか説明してないでしょ?」
「……そういえば、武器や防具が買えるとは聞きましたが、どんな武器で戦うとは聞いていませんね……」
「それに、魔法が使えるかどうかも聞いてない!」
「ね? あれは説明会というより、ダンジョンに関心を持ってもらうための勧誘会ね」
勧誘会……。
「あの説明会に参加した人達は、時間がないか完済できそうにない人たち。
だから、ダンジョンを利用しましょうと誘っているのよ。
ただ、この話が本当に有益でもあるのよ。悔しいけどね……」
「東先生は、ダンジョンを利用しようと進めてくれたのに、何だか反対しているみたいですけど……」
そう紗枝が指摘すると、東先生は苦笑いをした。
そして、アイスコーヒーのグラスに刺さるストローを手で弄る。
「私もね、昔、ダンジョンを利用して借金を返済した口なのよ。
だからこそ紗枝さんたちに、魔物との戦闘なんて経験してほしくないのよね。
私だけじゃなくて、ダンジョンを利用して借金返済なんて、あの説明会に来ていた案内人のほとんどは、できればしてほしくないと思うわ……」
「……魔物との戦闘って、そんなに危険なんですか?」
「危険は危険なんだけど、物理的な危険じゃないのよ。
もっと精神的な危険なのよね……」
精神的な危険……。
それって、軍に入隊した新兵が戦場に行ってなるというPTSDか?
「だから、本当は経験してほしくないんだけどね~」
「でも東先生、俺たちには時間がありません。
利用できるなら、ダンジョンでも何でも利用しようと思います」
「……拓海さん、覚悟はできているんですね?」
「覚悟も何も、やるしかないんだろ?
やりますよ、ダンジョンを利用するしかないんなら……」
「私も! 私も、利用させてもらいます!」
ダンジョンを利用した借金返済が、どんなに危険でも、やるしかないんだ。
紗枝とやる気を確認していると、東先生が鞄から二枚の紙を俺たちの前に出した。
「……これは?」
「契約書よ。
ダンジョンを利用して借金を返済するための、ね」
俺は席に座り直して、契約書を手に取って目で読んだ。
契約書の内容は、ダンジョン利用に関する注意事項。
ダンジョン街への引っ越しに関しての日時や引っ越し先の住まいのタイプを選ぶようになっている。
「注意事項は分かりますが、この住まいのタイプって何です?」
「一戸建てか、マンションタイプかの選択ね。
お二人は、一緒に住むの?」
俺と紗枝は、お互いを見てから東先生を見る。
「先生のお勧めは?」
「マンションタイプで一緒に住む、ね。
一緒に住んでいると、同じパーティーになりやすいから。
それに一緒に住んでいると、どちらかが病気か何かでも休みやすいわよ」
……確かに、住人の人数で特典みたいなものがあるみたいだ。
「東先生、この初回パーティーの注意事項にあるランダムで選ばれるというのは……」
「そのままの意味よ。
ダンジョンに行く最初のパーティーは、能力や戦い方で突出する人なんて出ないからね。
だからこそ、ランダムで選ぶのよ」
「なるほど……」
確かに全員初めてなら、誰と組んでも同じってわけか……。
「氏名……、生年月日……、案内人の名前……、各注意事項を読んで、最後に同意者の名前と拇印、と。
……はい、これでいいですか?」
「私も、お願いします」
「はい、確認しますね……」
3枚ほどの契約書に記入した後、東先生に渡して確認してもらう。
確認後、東先生が責任をもって、今日中に提出することになっている。
「……はい、二人とも問題ありません。
では、これは今日中に提出しておきます。
それと、二、三日したら、ダンジョンから案内書が届くはずです。
案内書には、引っ越しの日時が記載されているはずですから準備をお願いしますね」
「はい、分かりました」
「あ、あと、紗枝さんは休学か退学の手続きを。
拓海さんは、今の仕事を退職する手続きをお願いします。
ダンジョンでの返済生活は、一年以内で終わることはありませんから」
「わ、分かりました……」
退職か。まあ、いつでも面接が受かってもいいようにしていたから、バイトはすぐにやめることができる。
紗枝は退学より、休学を選ぶだろう。
一浪して、ようやく受かった大学だ。このまま退学を選ぶとは考えにくい。
「……先生は、ダンジョンでの生活とかは教えてくれないんですか?」
「それは、研修の時に教えてもらえるはずよ。
ダンジョンでの戦い方とかね。
あ、あと、最初は、武器とか防具は支給してくれるから心配いらないわ。
それと、何か困ったことがあったら、私の名刺に記載している番号にお願いね。
出来る限り力になるからね」
「はい!」
「ありがとうございます、東先生」
東先生と一緒に喫茶店を出ると、その場で別れる。
紗枝も、東先生に手を振って別れた。
「……これからはまた、一緒に住むことになるね、お兄ちゃん」
「だな。……ダンジョンでは、よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
俺と紗枝はその場で握手すると、駅に向かって歩いていく。
これから先どうなるか分からないが、ダンジョンで借金を返済しながら生き残る。
必ずなッ!
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