かるる式 ゆる哲学エッセイ

乃東 かるる@全快

はじめに ホラー書きは“ユルみ”が命

私はホラーを書くのが大好きだ。
幽霊も、化け物も、人怖も、グロも──どんとこいだ。



会心の(自画自賛)怖い話や気色悪い文章が書けた日なんて、もう最高の気分である。



「今夜は良く眠れそう!」


と笑って布団に入れる。


(なお、そういう日に限って自分の家の家鳴りが気になって眠れなくなる。)


ただ、そんな私にも避けて通れない壁がある。



それは──“ガス抜き”の時間である。



ホラーばっかり書いていると、脳が“陰”でパンパンになるのだ。



冷蔵庫のドア開けるたびに「頭とか入ってないよね…?」と警戒するようになり、夜にトイレへ行くのがスニークミッション化する。


おかしい、私は書いてるだけで、見てるわけでもないのに。


そういうときに必要なのが、「ユルみ」である。



真顔で“猫吸い”をしたり、「おにぎりはなぜ泣けるのか」とかおにぎり見つめて考えて書いたりして、一度、脳内の呪詛を洗い流す。



ピンクの泡で禍々しいシンクを磨くような、そんな作業。


人は不思議なもので、怖いものばかり考えていると、そのうち“怖くないもの”がわからなくなる。



だからあえて、どうでもいいことを書く。



たとえば「リモコンが見つからない恐怖」とか、「アイスを食べて舌を切った後悔」とか。
ジャンルはホラーじゃなくて、日常の失点である。


そうして、くだらないことを書いてゲラゲラ笑っていると、ふと、新しい怖さが降りてくる。


「この笑いの裏に別の笑い声重なってたら何かいたら、怖くない?」



「猫を吸ってるときに誰か立ってて、猫は気がついてるが私は気が付かないとかなら、どう?」


──そう、私は笑いながらホラーを拾っている。



それはもう、海辺で砂を掘って貝を探すような作業だ。


可愛いバケツに、ちょっと気持ち悪い怪異やグロテスクな多毛類を詰め込んでいる。


だから、私が楽しそうにくだらない話を書いているときは、



「あ、今こいつ、なんか怖いネタ仕込み中だな」


と思ってもらえるとありがたい。


ホラー書きに必要なのは、想像力とユルさ。
そして、どちらもほどよく狂っていること、であると、おもうのだ。

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