day25.じりじり
俺、由紀瑞希は寒さに震えつつ、温室の手入れを進める。年が明けたら加温を始めるため、それまでにすべての温室を整えておかなければならない。
「うー、寒い」
手を擦りながら家に戻ると、客間には叔母たちが来ていた。
「瑞希くん、大きくなったわねえ」
「すっかり立派になって……あとはきちんとしたお嫁さんさえ来てくれれば安泰ね」
まるで昭和の嫁いびりみたいなことを言う叔母たちに軽く挨拶して通り過ぎると、背中越しに、
「瑞希くんに寒い中働かせて、妹はなにをしてるのかしら」
なんて聞こえた。
立ち止まり、ひとつ深呼吸してから踵を返し、客間へ戻る。
「今、花音が叔母さんたちの昼食を準備していますので、少々お待ちいただけますか。お越しになるのは一月一日とうかがっていましたので、こちらも準備が追いついておらず……申し訳ありません」
「え、いえ、そんな、ねえ……?」
「そうだったかしら? 行き違いがあったみたいね……」
「わざわざ父の不在を狙ってお越しになるなんて……由紀の娘としての手際、じっくり拝見させていただきますわ」
黙り込んだ叔母たちにひとつ微笑んで、今度こそ台所へ向かう。花音は慌ただしく昼食を準備していた。
「あ、瑞希、ごめん。もうちょっとかかる」
「いいよ。お前の旦那、呼ぶ?」
「なんで?」
「藤乃を怒らせてみようかと思って」
「嫌味くらい、言わせとけばいいよ」
諦めたように笑う花音に腹が立つ。でも、それだけ言われてきたのは知ってるから、何も言えなかった。
せめて手伝いながら、叔母たちに昼食を出す。食事中は俺が睨みを利かせていたせいか、余計なことは言わなかったし、途中で親父が帰ってきてからは機嫌もよくなった。
「母さんは?」
飯を食いながら親父が顔を上げる。
「やだ、家のことを放ったらかしてるの?」
「家長の嫁がねえ」
尻馬に乗って嫌味を重ねる叔母に、親父がため息をついた。
「こんな嫌味ったらしい小姑がいたら、放ったらかしたくもなるわな」
「なっ、」
「母さんなら叔母さんたちがアポなしできたからその分の食材を買いに行ってます。掃除についての嫌味も言われたから、掃除道具も」
花音の一言に、親父がジロッと叔母たちを睨む。彼女らはばつが悪そうに目を逸らした。
叔母たちが嫌味を言いすぎて、親父がブチ切れて藤乃を呼び出すまで、あと四日。
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