寄生虫で征くVRMMO〜いろんな生物に寄生しまくってたらいつの間にか最強になってた〜

ギンヌンガガプ

第1話 ランダム選んだら、寄生虫になった

「おわったぁー」


 現在七月二十二日午後十三時。

 高校生である俺——雨宮あまみやしゅんは、苦難の末討伐に成功した忌々しき夏休みの課題を見ていた。


「これでようやく、AFにありつける」


 Arcadiaアルカディア Frontierフロンティア、略してAF。

 VRMMOを手掛ける大手三社が手を取って作成したビッグタイトルである。

 発売から約一ヶ月。AFは爆発的な売り上げを記録し、社会現象と言って過言ではない人気を誇っていた。


 俺は夏休みをこのAFに捧げるべく、夏休み開始二日目にして課題を全て終わらせたのだ。


「よし」


 丁重に置かれたヘッドギアを手に取り、頭につける。


 俺は、VRの世界に旅立った。





〈ようこそ、AFの世界へ!〉


 はじめに俺を出迎えたのは、脳内に響く美しい声だった。


〈キャラメイクを開始します。まず、名前を教えてください〉


「レイ……いや、シグレで」


 普段は『レイン』という名前でゲームをする俺だったが、今回はシグレにしてみた。

 特に意味はない。気分だ。


〈次に、種族を選択してください〉


 目の前にウィンドウが表示される。

 人間、エルフ、ドワーフなどの種族が大量に羅列された。


 このゲームには、プレイアブル種だけで数千の種族があるとされている。これがAFの一番の売りだが、ここに羅列されているのは数百のみ。


 ここに載っていない種族になるには、この羅列をスクロールしていった一番下、『ランダム』とある種族を選択するしかない。


 俺は迷うことなく画面をスクロールしていき——ランダムを押した。


 情報によれば、ランダムを選択してもここに載っていない種族になれる確率は五パーセントを切っているらしい。

 さらに、リセットマラソンはできないという鬼畜仕様。脳波を読み取り、一人につき一つのアカウントしか持てないのだ。データの削除も不可能。となれば、ランダムを選ぶ意味はほとんどなかった。

 最初期こそランダムを選ぶプレイヤーはちらほらいたが、今ではそんな奴は絶滅危惧種。


 安定をとるなら人間、丁寧な暮らしがしたければエルフ、鍛治師になりたいならドワーフ、魔物としてロールプレイしたいならゴブリン、など、定石と呼べる種族が確立されていた。


 そんな中、俺はランダムを選ぶ。

 理由は、なんか楽しそうだから!


〈ランダムでよろしいのですか?〉


「もちろん」


〈ランダム選択では、『未知種』や『高難易度種族』、『非推奨種』が選ばれる可能性があります。当然、変更はできません。それでも、よろしいのですね?〉


 ずいぶん丁重に確認をしてきた。意思の固まっていない者は、ここでランダムを選ぶことを断念しているのかもしれなかった。


 ——が、


「大丈夫だとも」


 俺の意思は固かった。


〈……承認しました。個体名シグレ、ランダム種族で生成を実行します。これから起ることは、全てが自己責任、全てが自業自得です。我々運営は、一切の責任を取りません〉


 脳内に響く縁起の悪い忠告とともに、俺は光に包まれた。


 その、一瞬後——



「え……?」



 俺の身体は、一気に縮んだ。



〈……おめでとうございます。シグレ様は、レッサースモールパラサイトとなりました〉


「……へ?」


〈シグレ様は、レッサースモールパラサイトとなりました〉


「…………んん?」


 レッサーで、スモールな、パラサイト?


「んんん……?」


 パラサイトってことはつまり——


「寄生虫!?」


〈その通りです。詳細をご覧になりますか?〉


「あ、ああ、もちろん」


 目の前にレッサースモールパラサイトの詳細が映し出される。



 レッサースモールパラサイト

 最低位のパラサイト種。肉眼ではほとんど視認できないほどの細さで、全長は三から五センチ。

 単独での戦闘能力は皆無に等しいが、宿主に寄生し、神経、器官、精神などに干渉することによって、間接的に肉体を得ることができる。



「はは……寄生虫だあ、これは」


 寄生虫。完全に寄生虫。


〈はい。寄生虫です〉


 少なからずショックはある。

 しかし、これは俺が選んだことだ。くよくよしていても仕方がない。


〈次に、職業を選択してください〉


 気持ちが切り替わったところで、今度は職業の選択だ。

 このゲーム、職業の数も桁違いに多いらしい。職業の方はさすがにランダムという項目はなく、いま就ける職業は全て表示されている。


「俺、寄生虫の職業なんてわからねえよ……」


〈おすすめを挙げましょうか?〉


「お、頼む」


〈レッサースモールパラサイトには、この辺りの職業がおすすめです〉


 声と共に、目の前にいくつかのジョブが表示される。


神経騎手ニューロライダー隠棲者スニークス……」


 どれも聞いたことがない。


〈私のおすすめは断然、支配簒奪士ドミナンスハンターです〉


「……ドミナンスハンター?」


 やはり、聞いたことがない。


〈はい。宿主との主導権争いを有利に進める為のスキルです。パラサイト種が寄生する際には『支配率』という項目が現れます。支配率が〇パーセントなら宿主から追い出されますが、百パーセントになれば、その身体は完全にあなたのものになります〉


「へえ……そんなのがあるのか」


〈その支配率の奪い合いを有利に進めることができるジョブこそが、支配簒奪士ドミナンスハンターなのです〉


「なるほど。ちゃんと寄生できなかったら終わりだからな。支配簒奪士にしよう」


 俺は支配簒奪士をタップする。


〈承認しました……これでキャラメイクは完了です。レッサースモールパラサイトは非推奨種族であるため、初期装備の配布はありません。頑張って生き延びてくださいね〉


 俺は、光に包まれた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る