クソッタレ(アイリスSS)
神国から逃げて到着した大陸はウルダという国だった。
国の名前は早々変わらないと思うから130年前のままだったらの話だけど。
冒険者登録をした町はフッサの町、まだウルダの国内だから神国と同じような感じだったら、この国には私の属性が知らされてしまっている可能性が高い。となればできるだけ早急に髪色と属性をどうにかしないといけないだろう。
時々町に潜り込み、薬草を薬局へ、肉を肉屋に直接販売する。
ギルドで売ればポイントなどが貰えるものの、カードを使えない今は現金をもらう為にもこうするしかない。少しずつお金を貯めて冒険者装備と呼ばれるような装備を整え、髪は短く切り落とし、色は草を潰した汁を塗りこんでボロ布を巻いておけば目立たない。女子だと分かれば危険なのは当り前なので、少年を装って行動した。
それでも小さな子供の一人はカモにされやすく、優しい声をかけてきて奴隷市に連れて行こうとする奴、子供好きな変態なのか、ベタベタと纏わりつこうとしてくる奴は男も女もいた。
冒険者として助かる情報だけを頂き、危険だと思えば【ライト】の魔法を目の前に突然出して目くらましをしているうちに逃げ出した。
ウルダの隣はこの大陸で一番大きなメネクセスという国だという。冒険者も多く、ダンジョンも多いらしい。
ダンジョンには魔獣がいるものの、沢山の便利な魔道具などもあるという。冒険者に見せられた見た目よりも多くの荷物が入るという不思議鞄は絶対に欲しい。カードの聖の字を消し、森を突き抜ける形で国境を越え、メネクセス王国に入ってから冒険者としての活動を開始した。
前世の記憶を思い出し、移動中に採集した薬草などを使って回復薬を作って販売したりもしたが、この年齢だからか足元を見られて買い叩かれる事も多かった。馬鹿らしくなって今は自分が使う分だけを作ったら、あとは素材のまま納品するようにしている。
ソロで活動をしていると時々お人よしな冒険者が「子供が一人で活動するのは危険だし」と一緒に活動してくれることもあったけど、私の魔法が普通じゃない事を知ると便利に使いたいと思うのか、扱いが変わってくる。
敵を拘束する木魔法、魔法の詠唱をさせない水魔法、味方が怪我をしても回復しててやる、遠距離の敵でも十分届く魔法攻撃、それに慣れると自分達だけでは選ばなかったような危険な依頼も受けるようになり、ランクも上がる。
まあ私もそのお陰で危険がない状態で初級ダンジョンのソロ踏破をして銀ランクになれたからその件に関しては感謝してもいい。
だけどそのうち「自分たちが拾ってやったんだから、お前を育ててやったのは自分達だから」と言い出すのだから始末に負えない。
報酬だって私の分など微々たる金額しか渡されていないのは分かっている。ポイントは自動付与されるから私のランクも上がっているし、その代金だと思っていたけどいい加減腹立つというものだ。
それを伝えれば「じゃあクビだ」と言われたので喜んで抜けたんだけど、その後あのパーティーの姿を見ることが無くなったことを思えば、まあそういう事だろう。私が知ったことではない。
脱退したパーティーがあの後どうなったのかは知らないけれど、あいつらと一緒にいて良かったのは銀ランクになった事、それから時間は経過するけどマジックバッグを手に入れた事、ダンジョンの潜り方を覚えることが出来た事かな。
マジックバッグは討伐したボス部屋の宝箱から出たんだけど、何度も同じボスに挑戦して複数個の鞄が出たから私も貰えただけの事。
ボスを倒す為の足止めも、目つぶし攻撃も私がしたんだけど、良い報酬は自分達だけで山分けだったからね。
本当は私が持っているマジックバッグもオークションで売りに出した方が金になるとか言ってたんだけど、次のボス戦は手伝わないと言ったら渋々くれたんだよね。
まあ、そのダンジョンを終えたところでクビ宣告だから、餞別のつもりだったのかもしれないけど。
まあ屑な奴らはどうでもいい。
私はあれからメネクセス王国を出て、今はリズモーニ王国に来ている。
この国は冒険者の国と言われるくらいダンジョンが多く、冒険者も多い。ソロで活動する人はやはりそう多くはないけれど、メネクセスによくいた5人組以上のパーティーというのはそんなにいないとも聞いている。
3~5人くらいでの活動が多く、ダンジョンによっては臨時パーティーを組んで活動することもあると聞いて、私も活動しやすいかと思ってきたのだ。
この国には魔道具ダンジョンと言われるくらい魔道具が多く出るダンジョンがあると聞いているので、そこを目指した。
町から町へ移動しては小さな依頼を受けて小銭を稼いで食料と水を補充する。馬車は使わず歩くけど、この領地には驚くほど魔獣が少ない。山にはそれなりにいたのに、街道が整備された場所に出てからは小さな魔獣しかいないのだ。
「魔境と聞いていたけど、噂は噂って事なのかな?」
辺境の言い間違いだったのかもしれないと思い、旅を続ける。途中でポイントが貯まって銀ランクの中級になった頃には11歳になっていた。
「おいおい、このダンジョンは上級だぜぇ? 流石にソロはキツイだろ? 先輩の俺達が一緒に潜ってやるよ~」
「遠慮しておく、自分のペースを乱されること程鬱陶しい事はない。まず入ってみて無理だと思ったら考慮するけど、中に入ってからそうして声をかけるのは強盗目的か強姦目的だと思ってしまうのだが?」
「ちっ、優しくしてやってんのに調子乗るなよ?」
ゲルシイの森ダンジョンではソロで入場したからか、非常に鬱陶しい奴らに絡まれた。優しくされた覚えは全くないのだが?
ゾロゾロと大人数で囲むように声をかけてくるなど良い奴らのはずがない。そして私を完全に囲んでニヤニヤし始めた男たちだ、何の遠慮もいらないという事でしょう? 掌に魔力を集中させてファイアボールをどんどん大きくしていく。
「お、おい、おい、やべえ」
「なんだ? なにがっ……」
バチバチという火花が散り始めたところで私の手元に気付いた男が後ずさり始める。
「自己防衛、って事でいいんですよね、せ・ん・ぱ・い?」
「お、おい、待て、話せばわかる! 俺らは心配して声をかけただけで、本当に他意はない! あんたがソロで行くってんなら俺らは見送る! だから、それは下ろして……」
囲んでいた奴らもリーダーのような奴の周辺に集まり始めて、リーダーの後ろに隠れようとしている。こいつら仲間でもない訳?
サッサと消えろという気持ちで2階へ戻る階段を顎で示せば、コクコクと頷きながら走って逃げて行った。何人か躓いてるけど大丈夫かしらね?
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