パリシィ陥落

……………………


 ──パリシィ陥落



 オストライヒ地上軍の猛攻に一矢報いんとするガリア人民軍部隊。


 彼らはかき集めた戦車と機械化歩兵を総動員して、オストライヒ地上軍の側面に向けて機動中である。


『クソ。後ろにつかれた!』


『ブレイク、ブレイク!』


 ガリア人民空軍は作戦開始に当たって一時航空優勢を奪取したが、今やその航空優勢は早くも怪しくなりつつあった。


 オストライヒ空軍に対して物量で劣るガリア人民空軍の戦闘機は次々に撃墜されてしまい、オストライヒ空軍が航空優勢を奪い返していった。


「突撃だ! オストライヒのファシストに一矢報いろ!」


 ガリア人民陸軍の戦車を主力とする部隊はそんな状況下で、オストライヒ地上軍に向けて突撃する。偵察部隊からの報告によれば、オストライヒ地上軍は今も前進を続けており、その勢いは2、3日中にはパリシィに到達せん勢いだという。


 ガリア人民陸軍はこれを阻止できるのは自分たちだけだと意気込み、果敢な攻撃に打って出る。しかし、その動きは既に航空優勢を奪いつつあったオストライヒ空軍によって確認されていた。


「ガリアの連中は決死の突撃に出るつもりのようだ」


 オストライヒ地上軍西部作戦軍集団司令官のシュペングラー上級大将は、航空偵察の情報にそう呟く。


「彼らの攻撃は適切に対処すれば問題ありません。もはや我々の勝利は多少のことでは揺るがないかと」


「ああ。だが、手負いの獣には用心せよという。無力化できるまで完全に叩くぞ」


「了解です」


 オストライヒ地上軍に迫るガリア最後の攻撃にシュペングラー上級大将がそう指示。


 まずはガリア人民軍に対して空軍による大規模な阻止攻撃が実行される。


 爆装したRA-287攻撃機が次々にガリア人民陸軍の上空に現れて、爆弾を投下し、ロケットを掃射していく。RA-287攻撃機は第2世代ジェット攻撃機であり、後退翼を有する。言うならば人々がジェット戦闘機として浮かべるような姿をしている。


「クソ、クソ! こっちの空軍は何をしている!」


 ガリア人民陸軍の自走対空砲も応射するが、レーダーに連動していないそれでは撃ち落とせる航空機の数は限られる。


 ガリア人民陸軍の戦車部隊は、この航空攻撃でかなりの被害を出してしまった。


 それでもガリアは諦めなかった。


 寄せ集めの戦力を率いて首都を救うために前進を続ける。


「敵戦車視認!」


 そして、ついに両軍が衝突。


 ガリア戦車が森の向こうから姿を見せるのにオストライヒ地上軍のレオパルト主力戦車が一斉に砲撃。迂闊に姿を見せたガリアの戦車が吹き飛ぶが、すぐに次の戦車が突入してきてオストライヒ地上軍を攻撃。


『カエサル・アイン、より中隊各車! 発砲、発砲!』


『カエサル・ドライ、被弾した!』


 戦車の性能はオストライヒのレオパルト主力戦車が砲撃力に優れてるだけで、装甲においては同等だ。どちらにも被害が生じ、炎上する戦車が出る中で両軍は砲撃戦を継続していく。


『ドーラ・アインより中隊各車。突撃、突撃!』


 しかし、ここで勝敗を決したのは戦車の単純な性能の差ではない。


 両国の練度だ。


 ヒスパニア内戦からバルカン、アルビオン内戦までを経験したオストライヒ地上軍。彼らは全ての内戦において大規模な戦車部隊を派遣していた。


 実戦を経験し、生き残ったオストライヒ地上軍の戦車兵と、そうではないガリア人民陸軍の戦車兵。どちらが上かは言うまでもない。


 ガリア人民陸軍はオストライヒ地上軍に押されていき、さらにはオストライヒ空軍の航空支援もあってガリア人民陸軍の攻撃は頓挫した。


 ガリア人民陸軍の最後の組織的抵抗を退けたオストライヒ地上軍はガリアの国土を蹂躙し続け、ついに──。


「我々はパリシィに到達した。今やパリシィから忌まわしい赤旗は全て引きずりおろされている」


 西部作戦軍集団司令官シュペングラー上級大将はオストライヒ帝国の陸軍参謀本部に向けてそう打電した。


 ついにパリシィは陥落したのだ。


 この勝利についてオストライヒ帝国の全ての統制されたメディアが、オストライヒ帝国の勝利を讃える報道を行い、内外にオストライヒの勝利とガリアの敗北を知らしめた。


 しかしながら、ガリアがこれで完全に敗れたかと言えばそうでもない。


 パリシィ陥落後も各地でゲリラ化したガリア人民軍が行動し、オストライヒによる統治を拒んだ。それにである。パリシィ入りしたオストライヒ地上軍は、ガリア・コミューンの政府要人を部分的にしか拘束できなかったのだ。


 国家元首に当たるサティ第一書記などの政府メンバーは潜水艦で密かにガリアを発って、ルーシへと亡命した。彼女たちは陥落する祖国を逃れて、ルーシの地で亡命政府を宣言したのである。


 しかしながら、ガリアという国家が崩壊したことは事実。


「今、ここにルイ・オーギュスト陛下によるガリア王国政府の樹立を宣言する!」


 オストライヒはガリアでの革命ののちに国外に亡命していた王族を国家元首とする新しいガリアの政府──ガリア王国政府の樹立を一方的に宣言。


 これをオストライヒの友好国であるアルビオンなどが承認し、ガリア王国がガリアの大地を統治する政府になった。


 このことにルーシは当然不満を覚えたが、不満を持ったのはそれだけではない。


「オストライヒの脅威は強まるばかりだな」


 そう呟くのは50代ばかりの男性で、その手にはオストライヒについての報告書が握られていた。オストライヒによるガリア侵攻の報告書が最新ものだ。


「はい、大統領閣下。同国は旧大陸での覇権を手にするでしょう」


「この時代に専制君主が支配する国が覇権を握るとは……。我々にとってもこれは脅威となるだろう」


 そう懸念を示すのはロバート・カーター合衆国大統領だ。50代で大統領になったカーターは長く政権を運営している。


「アルビオンもまたオストライヒと手を組みつつあります。我々にとってこれは深刻な脅威になりかねません。早急に対処する必要があるかと」


「しかし、我々が軍事介入することに国民が納得するかどうか」


 コロンビア合衆国の外交方針のひとつに旧大陸には積極的にかかわらないというものがあった。だから、彼らは前大戦でも旧大陸に兵士は武器を送ることなく傍観し、戦後の復興に噛んで経済的発展を成し遂げたのだ。


「国民を納得させるには旧大陸が明白に我々の脅威になっていると示す必要があるかと。オストライヒの情勢について事細かに伝えれば、国民もオストライヒの専制君主に恐怖し、対応を求めるはずです」


「ふうむ。それまでは段階的にことを進める必要があるな」


「ええ。それとです、閣下。敵の敵は味方という言葉あります」


「まさか……」


 補佐官の言葉にカーターが彼を見つめる。


「ええ。ルーシやガリアを支援することで、旧大陸に膠着状態を作り出しましょう。そうすれば旧大陸の脅威は旧大陸に収められます」


……………………

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