市街地戦
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──市街地戦
第13警察軍降下猟兵旅団は固定翼の輸送機からの空挺降下の他にRH-333汎用ヘリによる空中機動を行う部隊だ。その隊員たちは伝統的な空挺部隊のそれに準じており、いずれも精鋭である。
空挺部隊の性質上、敵地で単独で行動する必要もあるため、銃火器以外での戦闘として格闘術などの高度な訓練を受けており、精神的にも肉体的にもタフな軍人たちのみが配置されているからだ。
バルム侯国の首都バルムシュタットには現在、第5警察軍装甲擲弾兵師団、第12警察軍装甲擲弾兵師団が既に展開している。その上でオストライヒ共産党が占拠し、オストライヒ・レーテ共和国を自称する都市を包囲していた。
バルムシュタットは人口10万人の都市で、そこには選帝侯時代の歴史ある遺産が多く残されている。主要な産業は製造業だが、遺産を活用した観光業もまた収入の柱のひとつであった。そんな普段は静かな地方都市である。
だが、それは一変した。
その共和国設立を宣言したオストライヒ・レーテ共和国陸軍を名乗るオストライヒ共産党の武装部隊は、陸軍から横流しされた銃火器で武装し、あちこちに機関銃陣地などを設置して、占領を継続していた。
既に占領されたラジオ局や政府庁舎では職員が人質にされて拘束されており、最悪なことにバルム侯爵私邸ではバルム侯爵であったオットー・ツー・バルム侯爵が使用人たちと抵抗したため射殺されている。
街のあちこちには市民が歓迎していない赤旗が翻り、共産党員たちが勝利を確信して叫んでいた。
「革命万歳!」
「労働者よ、立ち上がれ!」
オストライヒ共産党の党員たちは商店や銀行を襲撃し、略奪に励む。暴力が老若男女問わず振るわれ、あちこちで悲鳴と鮮血が散る。
帝国の一部であったはずのバルム侯国は、今や赤旗の下に秩序を失っていた。
「ミュラー中将閣下。ハルデンベルク大臣閣下より鎮圧を決行せよとのことです」
「カプリヴィ宰相閣下の許可は?」
「ハルデンベルク大臣閣下からは得ていると」
東部軍管区司令官であるエルンスト・ミュラー警察軍中将は反乱鎮圧の指揮を任じられており、包囲を続ける2個師団の指揮とともに増援として派遣された第13警察軍降下猟兵旅団の指揮も担当している。
「では、突入準備だ。包囲を狭め、確実に暴徒どもを確保することとし、抵抗の激しい場合は射殺を許可する。法廷に出てもどうせ非公開かつ極刑で決まりだ」
「了解」
オストライヒ共産党は軍用のGew44半自動小銃や猟銃などの銃火器、そして火炎瓶やパイプ爆弾などの爆発物で武装している。これを殺さずに逮捕するのは困難だとミュラー中将も理解していた。
「それでは都市への突入を許可する。徹底的にやれ」
そしてミュラー中将の指揮の下、警察軍部隊がバルムシュタットに突入。
「第5警察軍装甲擲弾兵師団、前進用意!」
第5警察軍装甲擲弾兵師団はその名の通り装甲化された部隊だ。
半装軌車両であるヴィーゼル装甲兵員輸送車で機械化及び装甲化されており、さらに帝国陸軍では旧式となった装輪装甲車のカメール装甲偵察車両で武装している。両車両は車載火器として口径7.92ミリのMG52汎用機関銃を装備。
警察軍部隊はオストライヒ共産党が占領する都市部に向けてそのカメール装甲偵察車両を先頭にヴィーゼル装甲兵員輸送車に搭乗した歩兵が続いた。
第5警察軍装甲擲弾兵師団の主力はバルムシュタットに繋がる南東の高速道路からの侵入を行っており、都市郊外の景色が広がる中を無限軌道が音を立てて押し進む。攻撃発起地点から敵との交戦が予定される場所までは30分足らずだ。
『間もなく敵勢力の支配領域だ。警戒しろ』
『了解』
先頭を進むカメール装甲偵察車両は3人乗りで、指揮官であうr車長が警報を発するのに無線手と運転手が了解の返事を返した。
それから装甲車は進み続け────。
「来たぞ! 反動体制の犬どもだ!」
「革命万歳!」
オストライヒ共産党の党員たちは一斉に侵入してきたカメール装甲偵察車両を銃撃するが、装甲がライフル弾を弾く。
『攻撃を受けた。射撃開始、射撃開始!』
オストライヒ共産党の攻撃に対してカメール装甲偵察車両の砲塔が旋回すると機関銃が応射した。けたたましい銃声が響き渡り、窓から身を乗り出していた共産党員が倒れ、地面に落下していく。
それ以上の攻撃はなく、カメール装甲偵察車両の車長は報告を発する。
『ゲルブ・アインより
『
そして警察軍の本隊が続く。
陸軍、皇帝親衛軍、そして警察軍に配備されているヴィーゼル装甲兵員輸送車はオープントップな車両である。警察軍の兵士たちは、そのオープントップの天蓋部位から慎重に周囲を見渡す。
警察軍の兵士たちのうち戦闘部隊は旧式のGew44半自動小銃の代わりに、同じくらいコンパクトかつ高性能のStG47自動小銃を装備している。
「周辺に十分に警戒しろ。敵は建物から撃ってくるぞ。狙撃にも警戒!」
「了解」
ベテランの下士官が命じ、兵士たちはヴィーゼル装甲兵員輸送車から頭だけを出し、周辺を念入りに警戒する。
「革命万歳!」
そこで突然建物の中から火炎瓶を持った共産党員が駆けだしてきた。
「来た! 敵だ! 火炎瓶を持っている!」
「撃て、撃て!」
火炎瓶を持った共産党員が装甲兵員輸送車に向かってくるのに兵士たちが一斉に射撃し、共産党員を蜂の巣にする。共産党員は崩れ落ち、地面に落ちた火炎瓶がその死体を火葬にしていく。
「降車だ! 降車、降車!」
そして、装甲車から警察軍の将兵が降車。
「これより建物内を掃討する。気合を入れてかかれ!」
「了解!」
第5警察軍装甲擲弾兵師団の将兵は建物に突入し、そのひとつひとつを確実に確保していくという市街地戦に突入した。
「反動分子の犬を殺せ!」
「今こそ革命を!」
共産党員たちは室内に陣地を作って、警察軍の将兵を迎え撃とうとする。
「3カウントで手榴弾を放り投げて突入するぞ」
「3カウント」
しかし、練度の面での装備の面でも圧倒的な警察軍部隊は、可能な限り迅速にオストライヒ共産党を押しつぶしていった。
手榴弾で室内を掃討し、重傷を負いながらもまだ生きている共産党員にトドメを刺す。質内戦において訓練を受けている警察軍の将兵を相手に共産党側は、思ったような戦果を挙げられずにいた。
第5警察軍装甲擲弾兵師団は緩やかながら、確実に包囲を狭めており、オストライヒ共産党は甚大な被害を出し続けている。
この戦況は東部軍管区司令官ミュラー中将が設置している司令部に届いた。
「鎮圧作戦は順調だ。留意すべきことはないか?」
「今現在、帝国の他の地域に連動した暴動などは起きておりません。しかし、時間は敵の味方となります」
バルム蜂起の鎮圧に時間がかかればかかるほど、他の地域にてバルム蜂起に共鳴した別の暴動やテロが起きる可能性が上がってしまう。
故に警察軍は迅速にこのバルム蜂起を叩き潰し、このような状況でも帝国が盤石であることを示さなければならなかった。
「そうだな。このような暴動など我々は瞬く間に鎮圧できることを示さねば」
「閣下。こちらには帝都軍管区からの部隊もおります」
「よろしい。彼らを投入しよう」
ミュラー中将が指揮する鎮圧作戦司令部では迅速な鎮圧のために帝都軍管区から引き抜いた第13警察軍降下猟兵旅団の投入を決定。ただちに司令部より第13警察軍降下猟兵旅団に出撃命令が下る。
「乗り込め! 急げ、急げ!」
かくして、バルム侯国内の空港に展開していた1個大隊の空中機動部隊が地上に駐機されていたRH-333汎用ヘリに乗り込む。
このRH-333汎用ヘリのスペックは航続距離400キロメートル、最大離陸重量約3000キログラム、そこに兵員7名を搭載可能なものである。
武装は自衛用のMG52汎用機関銃が搭載されているのみ。
『これより我々は暴徒どもに占拠されたバルムシュタット中央ラジオ局を奪還する。皇帝陛下と祖国のために勝利を!』
『了解!』
飛び立った輸送ヘリの編隊はオストライヒ共産党の占拠するラジオ局に向けて飛行。
ヘリの銃座に着いたガンナーがMG52汎用機関銃を握る中、ラジオ局が迫ってきた。兵士たちは空挺用に開発された折り畳みストックのStG47自動小銃を手に、地面に見えるラジオ局を睨む。
『降下開始、降下開始!』
大隊長である警察軍少佐からの命令で一斉にヘリが降下を始める。
この時代にはまだファストロープ降下などのロープを使って降下する方法は開発されておらず、ヘリは高度を急速に落としながらラジオ局に向かう。
バルムシュタット中央ラジオ局はバルム侯国最大のラジオ局であり、高い電波塔が目印になっている。そこに向かって大規模なヘリの編隊は降下を始めた。
そこでヘリに激しい金属音が響いた。銃弾が被弾した音だ。
「銃撃だ!」
「撃たれているぞ!」
地上に迫る警察軍のへりに向けて地上の共産党員が発砲。旧式の機関銃を含めた銃火器が素人の定める狙いながらヘリを銃撃し、警察軍のヘリが銃弾を浴びて煙を吹く。
「ガンナー! 叩き潰せ!」
「了解!」
上空からMG52汎用機関銃が火を噴き、地上の共産党員たちを薙ぎ払って行く。大口径ライフル弾を浴びた共産党員は臓腑や脳漿をまき散らして地面に倒れる。
「アカどもめ。着陸準備! 連中を一掃しろ!」
大隊長からさらなる明理恵が下され、ヘリが次々にラジオ局とその周辺に指定された場所に着地。ローターを回転させたまま警察軍の将兵たちを降下させていく。
大隊長はその際に生じた被害について報告を受けていた。ヘリ4機が被弾が原因で作戦不能になり空港に引き返した他、将兵16名が負傷している。
「この手の作戦は我々が初めてだな」
「ええ。反省点を後で求められるでしょう」
「うむ。まず火力が不足している。ヘリに追従できる火力が必要だろう」
まだこの時代にヘリを重武装させたガンシップは存在しない。だが、この作戦以降、オストライヒではガンシップの開発を急ぐことになる。
「大隊長殿。迫撃砲の設置完了です」
「よろしい。煙幕を展開させ、その後一斉にラジオ局に突入する。使えるものは全て使ってアカどもを叩きのめせ」
「了解」
降下した第13警察軍降下猟兵旅団A大隊は敵の増援を阻止するために市街地に展開しながら、同時にラジオ局に向けて布陣していた。ラジオ局の北西付近に主力を展開させた彼らはその地点からラジオ局に突入しようとしている。
突入の前に少数の斥候がラジオ局の状態を確認に向かう。
「敵が作った複数の陣地を確認」
「対戦車ロケットを使うことになりそうだ」
そうして派遣された斥候たちは共産党員が作った急ごしらえの陣地を確認していった。ラジオ局の椅子や机で作られた陣地に警察軍の兵士をひとりでも多く殺そうと共産党員が潜んでいる。
そんな彼らに容赦する義理などなかった。
「各中隊より突入準備完了とのこと」
「上出来だ。では、突入を命じる」
無線で大隊長からの指示が伝わり、警察軍の兵士たちがラジオ局への攻撃を始めた。
「煙幕弾展開」
ヘリボーンで兵士とともに運び込まれた口径60ミリの軽迫撃砲から煙幕弾が発射され、辺りが白い煙に包まれた。
「進め、進め!」
その煙の中を警察軍の兵士たちは駆け抜け、ラジオ局に一気に接近。
「前方に敵陣地!」
「対戦車ロケット! 後方に注意!」
警察軍は携行対戦車火器であるパンツァーファウスト44携行対戦車ロケットを装備していた。このパンツァーファウスト44携行対戦車ロケットは射程200メートルで強力な弾頭を備えており、HEAT弾による対戦車戦闘のみならず、歩兵の有する火力として敵陣地などへの攻撃にも使用される。
「撃て!」
3発の対戦車ロケット弾がバックブラストを吹きながら飛翔し、ラジオ局のエントランスに作られたオストライヒ共産党の陣地を粉砕。辺り人間だったものが飛び散り、悲鳴が聞こえる。
「エントランスに突入する。勇気のあるものは俺に続け!」
「援護します、中隊長殿!」
エントランスに向けて手榴弾を一斉に投擲したのちに警察軍が突っ込んだ。携行対戦車ロケットと手榴弾でずたずたにされていた共産党員が突入した警察軍の兵士たちに次々に射殺されていった。
「前方にバリケード!」
「手榴弾、行くぞ! 機関銃班は援護しろ!」
ラジオ局内にも作られている陣地に向けて機関銃が制圧射撃を行い、その隙に手榴弾を放り込み、陣地が共産党員ごと吹き飛ぶ。
「反動体制の犬どもを始末しろ!」
「俺に続け、同志たちよ!」
共産党員も必死に抵抗し、バリケードに立て籠もり、火炎瓶を握って突撃し、あらゆる方法で警察軍の兵士を殺そうとする。
「アカどもが。皆殺しにしろ」
「殺せ!」
警察軍部隊は交戦開始から約30分でラジオ局を奪還した。
人質を考慮しなかったこの作戦で民間人20名が死傷するも、公式発表では全て共産党員による犯行だとされたのだった。
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