幼馴染と一緒に異世界転移したので、すべてをフィジカルで解決します

五江いお

第1話 フィジカルはすべてを解決する

二人の人影の前に、凄まじい量のモンスターがあふれかえっていた。

この世界の人びとからすれば、一目で異常事態だとわかる量だ。


この大軍は「魔王軍」である。

90年前に封じられたといわれていた魔王が、復活して軍勢を率いているのだ。


その強さは並の王国や軍隊では一切歯が立たず、勇者や聖女といった選ばれし英雄たちが死力を尽くしてようやく渡り合えるほどなのである。だが勇者や聖女といった者たちは王都を守るのに手いっぱいで、辺境のこの地までは来れていないのだった。


二人の背後には小さな村がある。

とても魔王軍の侵攻に耐えられるような村ではない。村人たちはただ、このモンスターの大軍が全てを破壊するさまを見届けることしか出来なかった。

数秒前までは。


「な、なにをしておる、そこのお方!?」


村の村長が声を張り上げる。モンスターたちが攻めてくる直前、いきなり村人たちの目の前に二人の若者が現れたのだ。

見かけない服装に二人ともここらでは珍しい黒髪。その上、雰囲気も違った。


彼らはこの大軍を相手に、のんきに会話していたのだ。


「これがモンスター?面白いね」

「確認だけど、全部倒しちゃっていいんですよね?」


彼らは空中に向かって話しかけている。意味不明な人たちだが、それ以上にモンスターを目の前にして丸腰なのは危ない。


「そこのお方たち!今すぐそこを離れなされ!!さもないと――」


だが、村長の叫びも空しく、モンスターの大軍は二人の目の前にまで迫っていた。

先頭のゴブリンが棍棒を振り上げ、二人のうちショートヘアの少女の方を攻撃しようとして――消えた。


「え、いや、は?」


ゴブリンどこ行った。村長が視線を動かすと、ポーンと空中に飛びあがったゴブリンが目に入った。それも、地上から10メートルくらい上まで。


「あれ、なんか弱くない?」

「モンスターってこんな感じなのか……歯ごたえないなー」


モンスターの大軍は一瞬の出来事に動揺したようだが、そのまま突っ込んできた。

二人の若者はそれを見て嬉しそうににやりと笑う。


「根性は認めよう!」

「いくよー!」


次の瞬間、二人の若者のうち青年の方がジャンプした。が、村長は目を疑う。

あれは果たしてジャンプなのか?


青年がジャンプした地点は爆発でも起きたのかというほどえぐれ、そして彼は空中に飛び上がっていた。


「せーの!」


そのままモンスターの大軍めがけて着地する。凄まじい大音響とともに彼が着地した地点が吹き飛び、強烈な突風が村の方まで吹き込んできた。


「な、なんじゃありゃあ」


青年が着地した地点はなんというか、隕石が落下した跡地みたいになっていた。

一瞬にして数十体のモンスターが消し飛び、クレーターが出来上がる。


「派手にやってるね!じゃあ、私も!!」


続いて少女の方がそう言って走り出す。彼女は近くにいた牛頭の大男、「ミノタウロス」を掴むと、ぶん投げた。

……ミノタウロスとは、身長が3メートル以上あるモンスターである。人がぶん投げられる相手ではないはずだ。多分。


「そい」


気の抜けた掛け声とともにぶん投げられた大男は、後ろからやってきていた他のモンスターたちと激突。何かがつぶれるような音とともにまとめて下敷きになった。


「あはははは、楽しい、楽しいよ!人間相手じゃこんなことはできないよー!」

「こっちに飛ばしたら怒るからな」


魔王軍の軍勢を目の前に、のんきな会話を繰り広げる二人。

そして少女の方が元気に声を上げる。


「そうだ!あれやっちゃおうよいつき!」

「えー目が回るから嫌なんだけど」

「いーから!」


な、なにが始まるんだ。息をのんで見つめる老人の目の前で、少女がいきなり青年を担ぎ上げる。いや確かにミノタウロスを投げられるくらいだから当たり前なのだが、これから何をするのだろうか。


「ほんとにやるのか……」

「いいじゃん!」

「まあいいけど……せめて、投げる方向間違えないでくれよ?」

「もちろん!じゃあ行くよー!」


投げる……?村長が内心で怪しんだ次の瞬間。


「せーっのっ【雷槌トールハンマー】!!」


少女が青年をぶん投げた。

彼はすさまじい速度でモンスターたちの頭上を飛んでいき、そしてモンスターたちが最も密集している地点に蹴りを放ちながら着陸した。


着地する瞬間、一瞬の静けさがあたりを覆う。

そして直後、轟音とともにこれまでにない強烈な突風が村長を吹き飛ばした。


「な、なにが起こったんじゃ……」


村長はよろよろと起き上がる。村の方を見ると今の衝撃で家がいくつか倒壊している。幸いなことに村人たちは皆広場に集まっていたので無事だったが、間違いなく人間が放てる衝撃ではない。


とてつもなく強大な魔法か、あるいは勇者の一撃でなければこんなことはできないはずである。あの二人はいったい何者なのか。


目を凝らすと残ったモンスターを片付けている二人が目に入る。

青年が大軍相手にドロップキックをかまし、少女がぶん殴って敵を吹き飛ばす。


やがてモンスターたちはあらかた倒され、村の目の前は更地になってしまった。

そこでようやく二人が後ろにあった村に気づく。こちらへ近づいてくるその姿に、村長は背筋が凍る思いがした。


「あ、こんにちはー」


先ほどまでの恐ろしい出来事が嘘だったかのように二人は笑顔を浮かべている。この場面だけ切り取れば好意的な若者二人なのだが。


「き、君たちはいったい」

「一般人です~」

「通りすがりの旅人です」


そんなわけないだろ。村長は突っ込もうとしたが、しかし寸前で思いとどまった。代わりに質問を投げかける。


「君たちの強さの秘訣はいったい……?」


すると二人は待ってましたとばかりに笑う。


「「鍛錬トレーニングです!」」


村長は絶句するしかなかった。

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