第4話


 ◇


 豪華な屋敷の豪華なリビングルーム。

 どっしりとした飴色の艶やかなテーブルに並んで座っているリアーヌとザームの姉弟。

 歳の頃は十五、六になっていて、ずいぶんと大人びた様子だ。


「姉ちゃんまだ……?」

 

 テーブルに座り、かれこれ二十分以上、一通の手紙をジッと見つめ続けるリアーヌに向かい、その様子をずっと見ていたザームはうんざりした様子で頬杖を付きながら言った。


「わ、分かってるし……!」


 ザームの言葉にそう言い返すと、気合を入れるように大きく深呼吸をしたリアーヌは、バッ一気にその封を開け放ち、中身の便箋に素早く視線を走らせる。


(合格? 不合格⁇ どっち⁉︎)


【ボスハウト子爵家、リアーヌ・ボスハウト殿。 レーシェンド学院 教養学科への入学を、王命をもって認めるものとする。 レーシェンド学院学園長 スクオーラ・シェンツィアート】


「ーーえ、認め……? 王命……⁇」


 眉をひそめ、首を傾げながらボソリと呟くリアーヌ。

 そんなリアーヌの様子に、ザームは気まずげに視線を逸らしながら「だ、ダメだったのか……?」と小さくたずねた。


 ザームと同じくリアーヌが手紙を開けるのを今か今かと待ち受けていた、母親であるリエンヌも、待ちきれずにその背後からひょっこりと顔を出して手紙を覗き込んだ。

 そしてリアーヌそっくりの仕草で素早く視線を走らせると、嬉しそうに笑みをこぼし明るい声で言った。


「ちゃんと合格してるじゃない!」

「――あ、合格なんだ⁉︎」


 びっくりしたように母を振り返りながら言い放つリアーヌ。

 そんな姉の態度に小さな舌打ちをしたザームは、手を伸ばしてリアーヌの手から手紙を奪い取り、自分でその内容を確認し始める。


「……入学を認めるって書いてあるんだから合格だろ」


 そう言いながらフンッと鼻を鳴らすと、手紙をテーブルの上に置きスッとリアーヌに差し戻した。


「――頭いいね?」


 その手紙を受け取りながら、リアーヌは少し目を見張ってザームを見つめた。


「――まぁな?」


 まんざらでもない様子でニヤリと笑い返す弟。


「そっか……だって入学していいって書いてあるもんね……? つまり――合格だあぁぁぁっ!」


 両手を上に振り上げながら、大声で喜びを表現するリアーヌ。


「ヴァルムさん! 受かりましたよっ! 合格ですっ‼︎」


 そしてバッと後ろを振り返り、壁際に控えていた執事服を着た、白髪まじりの男性に向かって笑顔を向けた。


「ええ、ええ! おめでとうございますお嬢様。 ――なんと嬉しいことか……」


 ヴァルムはコクコクと大きく頷きながら顔を綻ばせながら言う。

 言葉の最後の方は声が震え、その瞳には涙が滲んでいた。


「ヴァルムさんや皆さんのおかげです! 本当にありがとうございましたっ!」


 リアーヌは椅子から立ち上がってヴァルムに駆け寄ると、その手をとって感謝を伝える。

 そして部屋の中にいたメイドや侍女たちにも視線を送り、感謝の気持ちを伝える。


「お嬢様の努力の賜物たまものですわ。 ――けれど……ああ、なんで嬉しいんでしょう!」

「ええ。 誇らしいです!」


 満面の笑みを浮かべ、我がことのように喜ぶ侍女たち。

 それは数ヶ月前から付きっきりで、家庭教師の役目をになっていた者たちで、その者たちの嬉しそうな様子に、リアーヌもじんわりと目頭が熱くなる。


(――大変だったけど……頑張ってよかった……! 入学するんだ……あの学園に! すごい大変だった! ……でも頑張ってよかった‼︎)


「やったぞおぉぉぉぉぉっ‼︎」


 これまでの苦労や辛い記憶を思い出し、合格した喜びを爆発させたリアーヌは両腕を振り上げて、ありったけの声を振り絞り雄叫びを上げる。


「お嬢様。 ――いくらなんでもそのような大声は少々……」

 

 真顔になったヴァルムにたしなめられ、リアーヌは首をすくめて身体を小さくし、モゴモゴと答える。


「すみません……」


 そんなリアーヌの様子にクスクスと笑いをもらす母や家人たち。

 ザームだけはそんな姉を見てケラケラと笑っていたが、ヴァルムの咳払いを聞き取り、すぐさま姿勢を正してされて椅子に座り直していた。

 この姉弟にとって、この執事は頭の上がらない存在のようだ。

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