第39話 歪に組み上がった心
三人の魔力が繋がった瞬間、ボクの全身を焼けるような多幸感が駆け抜けた。
これが、3人でのリンク。
結との絆に加えて、遥香とも繋がった。
新しい回路が開いて、暖かい力が身体の奥まで満たしていく。
魔力の流れが、以前とは桁違いだった。
右腕と両足を魔力を通したとき、その精密さと強度に自分でも驚く。
でも、それ以上に――
(遥香も、手に入れた)
ずっと欲しかった。結だけじゃなく、遥香も。
昔から自分を見つめてくれていた遥香を、自分のものにしたかった。
そして今、それが叶った。
遥香の想いが流れ込んでくる。
――やっと、かなちゃんと繋がれた。
――でも、結さんが一番大切なのは分かってる。
――私はおこぼれでも嬉しい。
その謙虚さが、またいじらしい。
遥香は自分の立場を理解している。
結が一番で、自分は二番目だということを。
それでいい。
結はボクの最愛の人。命に代えられない、唯一無二の存在。
遥香は、その次に大切な人。でも、やっぱり自分のものにしたかった人。
贅沢な独占欲かもしれない。
でも、この二人なら、ボクが独り占めしてもいいはずだ。
「行こう、遥香」
ボクは魔力の手足を形成し、立ち上がる。
3人でのリンクの力は圧倒的だった。以前の何倍もの魔力が溢れてくる。
遥香が私を支えてくれるが、もう必要ない。
この力なら、一人でも十分歩ける。
でも、遥香の手を振り払わずにいる。
その優しさが心地いいし、何より――これからずっと、この関係が続くのだと思うと嬉しい。
でも、あの女悪魔……絶対に許さない
心の奥で、冷たい怒りが燃えている。
あいつがボクにしたこと――
痛みも、屈辱も、全部覚えている。
でも、同時に別の感情もある。
あの地獄をくぐり抜けたボクは、もう以前のボクじゃない。
汚され、壊され、でも生き抜いた。
この経験をしたボクこそが、特別な存在なんだ。
遥香には、この苦痛は分からない。
結にも、完全には理解できないかもしれない。
でも、ボクだけが知っている地獄がある。
ボクだけが味わった絶望がある。
それが、ボクをさらに特別にしている。
そして――
(結は、この傷ついたボクを見て、どんな顔をするんだろう)
想像するだけで、胸が熱くなる。
苦痛に歪む顔?
それとも、怒りに燃える瞳?
どちらでも構わない。
結の強い感情が、全部ボクに向けられるなら。
「カナちゃん、大丈夫?」
遥香が心配そうに声をかけてくる。
「うん。もう大丈夫」
本当に大丈夫だった。
この力があれば、どんな敵でも倒せる。
あの女悪魔を捕まえて、同じ苦痛を味わわせてやる。
いや、それ以上の地獄を。
建物の外に出ると、真嶋さんたちが待っていた。
「彼方! 無事だったか」
真嶋さんが駆け寄ってくる。
「はい。でも、ボクを捕まえた悪魔はまだ野放しです」
ボクの声は、驚くほど冷静だった。
あの地獄を味わった後では、これくらいの緊張は何でもない。
むしろ、心が異常なほど澄んでいる。
「三人でリンクが繋がった。この力なら、あいつを必ず捕まえられます」
真嶋さんが目を見開く。
「三人でリンク……そんなことが可能なのか?」
「可能です。今、実際に繋がってますから」
ボクは魔力を軽く放出して見せる。
以前とは桁違いの出力に、真嶋さんも息を呑む。
「すごい……これなら確かに」
「お願いします。あの悪魔を、生け捕りにさせてください」
真嶋さんが少し躊躇する。
「生け捕り? 討伐ではなく?」
「はい。あの悪魔は普通の悪魔じゃありませんでした。拷問に欠けて、ボクと同じ様な目に合わせれば……きっと有力な情報が手に入るはずです」
その言葉に、真嶋さんの表情が曇る。
「君は……一体何をされたんだ?」
ボクは静かに微笑んだ。
「詳しくは後で。今は、あいつを捕まえることが先です」
ボクの中で、復讐への意志が固まっている。
でも、それと同時に、もっと別の感情も湧いている。
(結は、ボクがあんな目に遭ったと知って、どんな反応をするんだろう)
きっと泣く。
きっと怒る。
きっと、ボクを抱きしめて「もう大丈夫」と言ってくれる。
そして――
(汚れたボクを見て、複雑な顔をするかもしれない)
その可能性が、なぜかゾクゾクする快感を呼び起こす。
真嶋さんは複雑な表情を見せたが、最終的に頷いた。
「分かった。だが、無理はするな」
「ありがとうございます」
ボクたちは、女悪魔の痕跡を追い始めた。
3人でのリンクの感知能力は、想像以上だった。
かすかな瘴気の残滓も、はっきりと感じ取れる。
遥香と歩きながら、ボクは心の中で考えていた。
(結は今、どこで何をしているんだろう)
後衛待機施設で、ボクの帰りを待っている。
きっと、不安で仕方がないはずだ。
そして――
(遥香とボクがバディになったことを、どう思ってるんだろう)
嫉妬している。
間違いなく、している。
それを知っているからこそ、遥香とのバディ関係が余計に嬉しい。
結の嫉妬する顔が、早く見たい。
「あっちだ」
ボクは迷うことなく方向を指し示す。
女悪魔は、この街の地下に潜んでいる。
下水道の奥深く、人間が滅多に来ない場所に。
「見つけた」
地下空間で、女悪魔がひっそりと身を隠していた。
ボクたちに気づいて、慌てて逃げようとする。
でも、遅い。
「逃がさない」
ボクの魔力の手が、瞬時に女悪魔を拘束する。
以前なら苦戦していただろうが、今の力なら容易い。
女悪魔が必死に抵抗するが、3人でのリンクの力には敵わない。
「ギャアアア!」
女悪魔の悲鳴が響く。
その声を聞いて、ボクの心の奥で快感が湧き上がった。
(今度はお前の番だ)
でも、今すぐ復讐するわけじゃない。
じっくりと、時間をかけて。
結にも見せてやりたい。
ボクを苦しめた悪魔が、どんな目に遭うのかを。
女悪魔を完全に無力化すると、ボクたちは地上に戻った。
「すごいな……あっという間だった」
真嶋さんが感嘆の声を上げる。
「この女悪魔は?」
「後でゆっくりと、尋問してください。できたらそれを見れたら……」
ボクの声には、冷たい響きがあった。
真嶋さんが少し身震いする。
「君は……変わったな」
「はい。変わりました」
ボクは素直に認めた。
「でも、悪い方向じゃありません。強くなったんです」
それは本当だった。
あの地獄を味わったことで、ボクは以前よりもずっと強くなった。
精神的にも、肉体的にも。
そして――
結への愛も、以前とは違う形になった。
もっと深く、もっと独占的で、もっと支配的な愛に。
でも、それは悪いことじゃない。
愛が深くなったということだから。
基地に戻る途中、ボクは結のことを考えていた。
結は今、どんな顔をしているだろう。
遥香とボクがバディを組めたことを知って、どんな気持ちでいるだろう。
きっと、嫉妬している。
ボクのことを独占したがっているから。
他の誰とも分け合いたくないと思っているから。
そして、苦しんでいる。
自分だけが特別だと思っていたのに、遥香もバディになれたことで。
(結の苦しんでる顔、早く見たい)
想像するだけで、心が熱くなる。
苦しみながらも、ボクを愛し続ける結。
嫉妬しながらも、ボクを受け入れる結。
その複雑な感情を、全部ボクだけに向けてくれる結。
たまらなく、愛おしい。
(結は、ボクがいないと生きていけない)
あの地獄を味わって、ボクはそれを確信した。
どんなに汚れても、どんなに壊れても、結はボクを愛し続ける。愛さずにはいられない。
基地に到着すると、結が待機室から飛び出してきた。
「カナちゃん!」
結の目は赤く腫れていて、泣いていたのが分かる。
その顔を見た瞬間、ボクの胸に熱いものが込み上げた。
(やっぱり、ボクのことを心配してくれてた)
でも、同時に意地悪な気持ちも湧いてくる。
(どんな顔をするかな、汚れたボクを見て)
ボクは、わざと苦痛の表情を作って見せた。
「結……ボク、汚れちゃった」
その言葉に、結の顔が青ざめる。
瞬間、結の表情に複雑な感情が浮かぶ。
愛情、心配、そして――微かな嫌悪感。
その嫌悪感を見た瞬間、ボクの心の奥でゾクゾクとした快感が走った。
(結は、汚れたボクを見て苦しんでる)
その表情が、たまらなく愛おしい。
でも、それでも愛してくれる。
それでも受け入れてくれる。
この矛盾した感情を見せてくれることこそが、ボクが求めていたものだった。
「それでも、受け入れてくれる?」
ボクは確信犯的にそう言った。
結が拒絶するはずがない。
ボクのことを愛しているなら、どんなに汚れていても受け入れてくれる。
そして、その愛の深さを確認したい。
結の表情が、さらに複雑になる。
苦痛に歪み、でも愛情に満ちている。
「カナちゃん……」
結は涙を流しながら、ボクを抱きしめてくれた。
その瞬間、ボクの心は歓喜に満たされた。
(やっぱり、結はボクを拒絶できない)
どんなに汚れても、どんなに壊れても、結はボクを愛し続ける。
それが分かった今、ボクはもう何も怖くない。
「結……もし拒絶されたら、ボク死んじゃうかと思った」
ボクは素直に吐露する。
でも、本音は違う。
拒絶されないことを、最初から知っていた。
結がボクを拒絶できるはずがない。
ボクなしでは生きていけないことを、分かっているから。
「そんなこと……絶対にない」
結の声は震えている。
でも、その震えの中に、まだ翳りがある。
表情を見れば分かる。
遥香への嫉妬。
ボクが汚されたことへの複雑な感情。
自分だけの特別さを失った絶望。
その全部が、結の顔に現れている。
そして、それがたまらなく愛おしい。
「ねぇ、結」
ボクは、わざと無邪気な声で聞いてみる。
「ボクが遥香ともバディ組めたこと、苦しい?」
結の顔が、一瞬時が止まったかの様にこわばる。
そして、作り笑いを浮かべようとして失敗する。
「そんな……カナちゃんが無事なら、それで……」
嘘だ。
当然苦しいに決まっている。
そして、結が苦しいと思っているのも分かっている。
でも、聞きたかった。
その苦しそうな表情を、もっと見たい。
結が、ボクのためだけのものじゃなくなったことを受け入れられずにいる顔を。
「本当に?」
ボクは、もう一度問いかける。
今度は、少しだけ意地悪く。
結の目に、涙が浮かんでくる。
でも、それでも嘘をつき続けようとする。
「本当に……カナちゃんが幸せなら……」
その健気さが、また愛おしい。
苦しいのに、ボクのためだと思って我慢しようとしている。
そんな結を見ていると、心の奥で暖かい満足感が広がる。
(結は、ボクのためなら嘘もつく)
(自分が苦しくても、ボクの幸せを優先する)
(こんなに愛してくれる人は、他にいない)
遥香も、ボクたちの隣に立っている。
「結さん……」
遥香が申し訳なさそうに言う。
「私、カナちゃんを独り占めするつもりはありません。結さんが一番大切なのは分かってますから」
その言葉に、結は少し安心したような表情を見せる。
でも、完全に安心したわけじゃない。
まだ、心の奥に嫉妬がくすぶっている。
それが、ボクには嬉しい。
三人の絆を確認するように、手を繋ぎ合う。
でも、ボクの心は贅沢だ。
結も欲しい、遥香も欲しい。
二人とも、ボクだけのものにしたい。
結は最愛の人。命に代えられない存在。
遥香は、その次に大切な人。でも、やっぱり自分のものにしたかった人。
本当の絆は、ボクを中心にした関係。
結と遥香、どちらもボクのもの。
「おかえり……」
結がそう呟いて、涙で顔をくしゃくしゃにしながらボクを抱きしめる。
その時、ボクは結の表情の翳りを見つめた。
嫉妬に歪んだ顔。
苦痛に満ちた瞳。
それでもボクを愛さずにはいられない、複雑な表情。
その全てが、ボクの心の奥で暗い快楽を呼び起こす。
(結は、ボクの全て)
(ボクがいないと、生きていけない)
(どれだけ苦しくても、ボクから離れられない)
あの地獄を味わって、ボクは気づいた。
自分がどれだけ結を愛しているか。
そして、結がどれだけ自分を必要としているか。
この関係は、もう永遠に続く。
どんなことがあっても、結はボクのもの。
遥香も、これからはボクのもの。
三人で寮に向かいながら、ボクの心にはある予感があった。
これから始まるのは、新しい関係だ。
でも、今度はボクが中心にいる関係。
結を独占し、遥香も手に入れ、自分だけの世界を作り上げる。
二人は大切に、でも完全に支配する。
女悪魔には、地獄を味わわせる。
そして――
(結と遥香、どちらも手に入れた)
(これで、ボクの世界が完成する)
ボクは微かに微笑みながら、結と遥香の手を強く握った。
二人とも、少し身震いする。
でも、その手を離そうとはしない。
離せないのだ。
結は、ボクを愛しすぎているから。
遥香は、ボクに憧れすぎているから。
もう、永遠に。
でも、それは悪いことじゃない。
愛が深くなったということだから。
夕日が、三人の影を長く伸ばしていた。
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