第十七神話 雷神

私、アルトリス・セリスティアはとても緊張している。


今回初参加の武闘大会、私は初戦で七天神の一人であるバルザックと闘うことになったからだ。


正直勝てないと思ってる。


別国で神として君臨している人と最近Bランクに、しかも本人の力じゃないのに昇格した冒険者が戦うのよ?


勝ちたいとは思う、でもどう考えたって力量差が違いすぎる。


あの時、七天神全員とミュウさん、ウェスタさんと一緒に居た時どれほど怖かったか、あの場にいた私を除いて全員の魔力が強烈すぎて失神するかもしれなかった。


その時点で私は出場を棄権しようとすら思ってた。


でも…ミュウさんに頑張ろうって言った手前…断れるわけないじゃない…

それにあんな…純粋無垢の子供のような笑顔を見せられたら…頑張ろうって思っちゃうじゃない…


それに……聖王国が来ていると言うなら……

が……


「ふぅ……勝つ、私はこの戦いを勝利して…私の力を証明して必ず…に……」


「なんだ?緊張してんのか?」


後ろから急に声を掛けられた。


「えっ…えぇ…」


全く気づかなかった、というより…いつから?


後ろにいたのは、今回の対戦相手であるバルザック


黒髪に所々混じった金髪、目はキリッとしていて右頬には剣で斬られたような傷跡がある、見た目はハットをかぶり服は見たことの無い生地で作られた物だった。


「気楽にいけよ!初戦で俺らにあたることなんて滅多にねぇんだからな!ほら行こうぜ!そろそろ観客が次の試合を待ってるぜ?」


「あっ、はい!」


反射的に返事を返してしまった、だけど今の言葉で少し気が楽になった、優しいのかな?


「お待たせしました!武闘大会第二回戦!!対決するのはこの人達だァ!!」


「《海の国の冒険騎士》アルトリス!!海の国

リヴァルセリム代表に選ばれた若き新人冒険者だァ!」


〜観客席〜

「……………」


「父様?どうかなさいましたか?」


「………いや…なにもない、気にするな」


「そうですか、ですが…姉様がこの大会に出場するとは…」


「ふん…相手はこの国の神だ、痛い目を見ればよかろう…冒険者になるなど…」


「父様…それは…」


「気にするな、私の独り言だ、お前はアルトリスを応援していればいい」


「……はい」


〜舞台〜


「対するは!我等が天神国ヴァスラが誇る!七天神のこの御方だ!!」


「《七天神ヶ壱:霹》のバルザック様だぁ!!」


「バルザック様ー!」


「今日もかっこいいー!」


「バルザックぅ!負けんじゃねぇぞぉ!!」


「負けたら酒奢りだからなぁー!!」


観客からまた会場が響くほどの歓声が湧き

バルザックは手を振りその歓声に応える。


バルザックは位置に着くと右手の指をパチンと鳴らす。


その瞬間空から雷鳴が轟き、バルザックの手元に雷が落ちる。


雷は横長に形が変わり、バルザックがその雷を掴むと、蒼と金の槍の形を成した。


「こういう大会はこうじゃなきゃな」


「さぁ!両者構えた!これより武闘大会第二回戦!アルトリスvsバルザック!試合開始ぃ!」


恐らく時間をかければこちらが不利!なら!

初めから仕掛ける!


アルトリスは足を思いきり踏み込み地面が少しヒビが入るほどの力で踏み抜いた。


「おおっ?!威勢いいな!」


頭を一突きするために狙った攻撃を上半身を後ろに逸らしながらバルザックは呟く。


「だがまぁ…んだわ」


「なっ?!」


回避行動中に腕にあった槍を次はアルトリスの胸に向かって突き刺す。


「ッハハハ!」


間一髪でバルザックの腹を蹴りアルトリスは距離を取る。


「おぉ!!これ避けんのか!!すげぇな!

並の冒険者なら今ので終わってたぞ!!」


「…………」


「(今の一撃…頭に来るってことが分かってたの?そうじゃなきゃ反応できない速度で攻撃したのに…いや…というより…)」


アルトリスは一つの疑問が残っていた。


バルザックはアルトリスの攻撃を避けたあと直ぐに反撃に転じた。

普通なら蹴りなどで反撃を入れるだろう。

だがバルザックは上半身を逸らしながら槍を突き刺した。

普通なら体幹の強さがあると言うだけの話であるが今回は違う。

アルトリスの攻撃速度は一言で言うと

音速に近い速度で攻撃を行うことが出来るのだ。

並の冒険者なら攻撃に反応できずに喰らうか反応出来たとしても防御に徹するしかない。

それを話せるほどの余裕さで避け、更に反撃を入れた。

アルトリスは改めて目の前にいるこの男はこの国で神として君臨している力を理解してしまった。


「いやーハッハッハ!に来てからじゃ色んなことあったが……やっぱりと違って戦いは楽しいなぁ!あっちに未練がないわけじゃねぇがな!」


「……こっち?あっち?何の話?」


「あぁ気にしなくていいさ!俺の独り言だからよ!」


「……そう」


「んじゃまぁ……次俺な」


たった一回の瞬き——


一回の瞬きの刹那——


目の前に槍先があった。


「?!」


「(魔法で身体強化と風魔法を顔の横から外側に向けて発射…!)」


軽い衝撃に頭を任せ目の前に迫る槍をギリギリで左に避ける。


「あぁ〜やっぱ避けちまうかぁ〜」


「なんてな!!」


槍を突き刺した事による浮いた姿勢のまま左脚でアルトリスの横腹を蹴り飛ばす。


「なっ…?!ガッ……!!」


アルトリスは防御や受け身を取れずにもろに受けコロシアムの壁に打ち付けられる。


「ぐっ……」


「おぉ〜やっぱこうでなきゃな」


「(まぁ中々やるにはやるな…流石は騎士って名乗るだけはある…まぁアイツの家系が騎士一家ってのもあるだろうが…んーどうしたもんか…)」


バルザックは堪えるアルトリスを横目に観客席を見る。


あわあわした少年がアルトリスの方を見ながら威厳ある風貌の男が首を横に振る。


「…………」


「(まぁ…も降りたし…やるか!!)」


バルザックは自身の槍を空に向けて投げ、簡易的な詠唱を始める。


「雷鳴は鳴り響き、銃声は轟く、この世にあるもの全てを撃ち抜いてやる!」


そう唱えた瞬間槍に雷が落ち形を変える。


「ッハハハハ!!双銃とはお前も機嫌がいいんだなぁ!」


「なに……あの武器…」


〜王席・招待客席〜

「………ふむ」


「おぉー!バルザックが本気出すか!」


「主様、少しはしゃぎすぎです」


「あらあら…随分と張り切っていますこと」


「まァ…アイツにしてハめずラしいな」


「さて…どうなりますかね」


「リル様…あの力は…」


「そうじゃな…あの力は…」























「雷神の祝福じゃ」

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