一ヶ月だけ異世界転生~ダッシュで世界救います~
東雲シノ
第1話 前日
今はサイエンスとテクノロジーで何でも解決出来る時代。夢物語だと思われていたVRMMOが現実になって早数年、ついに、人類は悲願である異世界転生の技術を確立した。
といっても、本当に死んで転生するのではなく、半ばゲーム感覚で、(簡単に言えば)魂だけを別の世界に送って異世界転生生活体験が出来るというものだ。向こうで本当に生活を送って、勿論自分の好きなタイミングで現実世界に戻ることも出来る。開発会社によれば、実際に死んだ魂を異世界に送って転生するのも可能らしいけど、異世界転生がしたい人間はまだまだ若者が多くて、運良く若くして事故で死ねたとしても、家族の同意がないと転生させられないから実現したケースはほぼないらしい。
まあそんなこんなで、最近のブームは夏休みや冬休みなど、長期間の休みだけ異世界転生を楽しむことだ。必要な機材は結構な値段がするものの、十分高校生のバイト代を貯めれば賄える程度。勿論俺も、購入済み。このかったるい終業式が終われば、家に帰って早速設定、明日から一ヶ月だけ、異世界での生活を楽しむつもりでいる。
「なかやん、今日から?それとも明日?」
「明日のつもり。向こうで地球の生活が恋しくならないように準備したいから」
「まあ、ホームシックになったらいつでも戻って来ればいいじゃん?俺は早速今日から、夏休み最終日まで向こうで暮らすぞ」
「……課題は終わってるの?」
「……あ。え、え、なかやんは?」
「俺は終わってるよ」
「裏切り者ぉぉお!!」
教室の隅で、俺に抱きついてくる無駄に煩いバカは駿河虎太郎。なかやんこと俺は中谷冬馬。異世界転生体験は今まで無事故だが、何があっても自己責任だ。俺はこいつと違って、学校に届出を出しておいたのだ。だから早めに課題を貰って、実は既に提出済みだったりする。これで万が一戻るのが遅れても、最悪成績はどうにかなるだろう。
「なかや~ん……」
「そんな顔したって答えは見せないぞ。じゃあな、俺もう準備したいから」
「え、待ってよ!途中まで一緒に帰ろうぜ?」
「……はあ」
道中虎太郎の下らない話に付き合いながら家まで辿り着く。虎太郎には大げさに準備、とかなんとか言ったけど実際に俺が出来ることなんて事足りている。機材の設定は済んでいるし、一ヶ月だけ転生体験する状態になっていることは何度も確認した。
俺の父さんと母さんは忙しい人で、俺が勝手に機材を買って、夏休みに異世界転生することを伝えても「そうなのね」としか言われなかった。から、実際に未練があるのは両親じゃない。未練があるのは、こっちだ。
「じいちゃん。」
遺影の前に座って線香に火を付ける。俺のじいちゃん、父方の祖父は忙しい両親に代わって俺の面倒を見てくれた人で、三年前に死んだ。それより前にばあちゃんは死んでて、俺は顔すら記憶にない。母方の祖父母とは縁が切れていて、俺は会ったことすらない。じいちゃんの葬儀に、大事な仕事だと言って出席もしなかったような両親だ。縁が切れても仕方ないとは思っているが、じいちゃん同様に俺に良くしてくれた父さんの弟、俺の叔父さんとも縁が切れてしまったのは悲しかった。
「じいちゃん、俺明日から異世界いくんだ。大丈夫だと思うけどこっちに戻ってこれなかったら、お線香あげられる人いなくなっちゃうけど、ごめん。元気でやるからさ。じゃあ、またな。」
手を合わせてから立ち上がり、簡単に食事を済ませる。風呂に入って、寝る準備を整えベッドに潜る。
一応、異世界転生体験中のこっちの身体は仮死状態になるらしい。まあ魂が抜けた状態になるんだと思うけど、問題がないように脳に電波信号?を送るみたいだ。そこら辺のテクノロジーのことはよく分からないが、まあ安全ってことだ。とにかく今日は早く寝て、明日に備えようと思う。
異世界転生前最後の夜はしんみりするかと思ったが、不思議とスッキリ眠ることが出来た。
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