この町のネコ、やっぱりおかしい "猫に嫌われる女子"の奇妙で切ない巡礼記

大西さん

プロローグ 猫に嫌われる女

第1話 猫に嫌われる女

冬、始まりの日


2024年1月15日


『猫への手紙 その1』


親愛なる猫たち


なぜ私を避けるの? 私はあなたたちが大好きなのに この想いは重すぎる? それとも間違った形?


でも諦めない いつか必ず あなたたちと友達になってみせる


愛を込めて 美久


「みくちゃん、また逃げられたの?」


1月の昼下がり、大学のキャンパス。寒風に舞う枯れ葉が美久の肩に降り注ぐ。その茶色い葉を払いのけることもせず、相沢美久は明るく頷いた。右手には高級な猫用おやつの袋——『プレミアム・まぐろフレーク(国産、無添加)』。一袋八百円もする代物だ。中身は当然、手つかずのまま。


「うん!でも今日は新記録!2.5秒も見つめ合えた!」


美久の声は弾んでいたが、その笑顔の端に微かな震えがあることを、親友の千春は見逃さなかった。


「...それ、見つめ合ってるって言うの?」


千春の声には、呆れと優しさと、そして長年の友人だけが持つ独特の心配が混じっていた。彼女は美久と中学からの付き合いだ。だから知っている。美久が猫に逃げられる度に、心の奥でどれだけ傷ついているかを。


午後の公園は、冬の陽だまりに包まれていた。ベンチに座る二人の大学生の前を、三毛猫が優雅に通り過ぎていく。その歩みは気品に満ち、尻尾をゆらりと立てて、まるで女王のような風格だった。


美久の体が反射的に前傾姿勢になる。瞳孔が開き、呼吸が浅くなる。それは獲物を狙う肉食獣の姿勢——いや、違う。ただ純粋に、触れたい、近づきたい、友達になりたいという願望が、体中から溢れ出ているだけだ。


三毛猫が立ち止まった。振り返る。琥珀色の瞳と美久の瞳が、一瞬交差する。


時が止まったような錯覚。


そして——


三毛猫の瞳孔が針のように細くなった。全身の毛が逆立つ。低い唸り声。まるで天敵を前にしたような、原始的な恐怖の反応。


次の瞬間、三毛猫は信じられない速さで茂みに消えた。小枝が揺れ、葉がざわめき、そして静寂。


「あーあ、また」


でも美久の顔に悲壮感はない。むしろ楽しそうだ。それは長年かけて身につけた、心の防御機構だった。


(大丈夫。いつか必ず、友達になれる)


心の中で、いつもの呪文を唱える。祖母から教わった、魔法の言葉。この言葉が、22年間、美久を支え続けてきた。

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