第3話
「どうなさいました?」
ついてきた張遼の副官が声を掛ける。
「………
また、万が一そうなったとしても本陣にいる
張遼もそう言っていたため、
「どうしても涼州騎馬隊の動きが気になる……妙です。何があったのかは分からないがこんな急に攻め手に出てくるはずがない。だがそうなったということは、何かが起こったのです」
「私もこの急襲は妙だとは思いますが」
「ここにいるより、それを探りに行きたいのです。ここを貴方に任せてもよろしいでしょうか」
「探ると言って……どこをどう探るおつもりですか? 西は今、後続と戦闘になっているでしょうし、張遼将軍からいずれ報せや命令が来ると思います。そうすれば状況が少しは分かるかと……」
「私は以前、涼州を何者でもない立場で訪問したことがあります……。
しばらく
西の山岳地帯から南に入り込めるかもしれない。探りに行きたい。
先鋒になっていた
「分かりました。ここは私が引き受けます。しかし兵は動かせませんよ」
「構いません。私一人で行ってみます。今は戦闘の最中だから、その方がかえって動きやすい。もうすぐ日が落ちます。夜のうちに何とか西南に抜けてみる」
彼にとっては涼州も、涼州騎馬隊も全く得体の知れないものだったので、夜陰に乗じてここに一人で探りに入れと言われても、自分には到底出来ないことだと思った。
少しも恐れなく、自らそう言った徐庶に対して、
「徐庶殿。以前とは貴方は異なる立場であることを決してお忘れなく。
魏軍に関わる者と知られ、捕らえられれば、必ず処刑されます」
言われて、徐庶はふと気付いた。
知りたいことに集中していてその発想が全く欠落していたことに、若干自分でも呆れてしまった。
「そうですね……確かに。今回の襲撃を見ても彼らの怒りは本気だ。捕まれば必ずそうなるでしょう」
徐庶は一度自分の手を見た。
それから軽く握りしめて、顔を上げる。
「覚悟の上で行きます。
「徐庶殿……」
母親のことを口では頼んだが、洛陽を去る時ほど、徐庶は感傷的にはならなかった。
ちゃんとそこで、穏やかに暮らしている母親を見て来たからだと思う。
以前のような暮らしなら、残された母親が一体どうして暮らしていくのかと不安に思ったが今、自分が涼州の人間に捕まり死んだとしても、魏将としての死だ。
決して母が悪いようにはされないだろうと思う。
そう思えば、あまり不安は感じなかった。
自分は元々、身内に対して情の薄い人間なのだ。
ここまで来たら、なるようにしかならない。
しかし徐庶には、涼州側に何か妙なことが起こったのだという、確信のようなものがあった。
それは自分の命を懸けてでも知りたいことなのだ。
これで涼州と曹魏が戦になる。
その戦は必ず劉備のいる
だから何が起こってそういう戦が始まったのか、それは知りたい。
何のために自分が死ぬのか、それくらいのことは徐庶は自分で知りたかった。
もう一度
冷たい風が吹いている。
空の雲が早い。
(一体何が起きている?)
徐庶は馬を駆らしながら、姿の見えない何かに問いかけた。
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