23.ぜんぶ並べたせいだ
新たに変身できるようになったスケルナイトは、これまでに変身できるようになったモンスターの中で一番の力持ちだった。
おかげでなんとか、コカトリスの死体を魔の森の入口まで運ぶことができた。
なんでそんなことをするのかって?
ちゃんとコカトリスが死んでいることを村の人達に知ってもらわないと、いつまで経っても村は恐怖から逃れられない。そう思ったんだ。
だけど、地面に並べておいたコカトリスの死体を発見した村の反応は、僕が予想していたものとは全く違っていた。
「魔の森の入口に、コカトリスの死体が並んでたんだって」
「槍みたいなもので心臓を突かれてたらしいな」
「剣とか斧みたいなもので首を落とされてるのもあったらしいぞ」
「いったいどこの誰が……」
村の人たちがみんな、揃っていぶかしげな表情を浮かべていた。
母親は子供を家から出さないようにしているし、教会で神に祈りを捧げている人の数も日に日に増えている。
誰ひとりとして安心した顔をしていない。
むしろ、得体のしれない新たな恐怖に怯えているようにも見えた。
僕が願った“恐怖からの解放”は、少しも叶わなかったのだ。
「神殿騎士ってことはないだろ。さすがに早すぎる」
「じゃあ、モンスターハンターか?」
「それなら死体を解体しないわけがない」
「死体を並べる目的がさっぱりわからない」
「もしかして、別のモンスターの仕業なんじゃ……」
「コカトリスを倒すようなモンスターが魔の森の入口をうろついてるってこと?」
「可能性がないとは言えないだろ」
「コカトリスよりヤバいモンスターって……ははっ、まさか! そんなこと……」
神の敵であるモンスターを倒すのは、神殿騎士のお仕事。
だけど別に、神殿騎士でなければモンスターを倒してはならないという決まりがあるわけではない。
村の大人だってアントラービットくらいは狩れるから、魔の森に小枝を拾いに行った日はウサギ肉が食卓に並ぶことがあるし、モンスターの肉や骨、皮や爪といった素材を剥ぎ取り、お金に換えて生活している“モンスターハンター”と呼ばれる人たちもいる。
問題は、コカトリスを倒したのが誰であっても、ただ死体を並べておいたりはしないということ。
5匹のコカトリスを倒したのは、神殿騎士でもなければ、モンスターハンターでもない。もちろん村人なわけがない。
ほかに、わざわざ僻地までモンスターを倒しにくるような、奇特な人間がいるとは考えづらい。
だったらコカトリスを倒したのは、別のもっと恐ろしいモンスターなんじゃないか――というのが、現在、村で飛び交っているウワサの最有力候補だ。
「どうして、こうなった?」
今の僕にできることは、頭を抱えて自問自答することくらい。
村のみんながもっと晴れやかな顔をして、「コカトリスが退治されて助かった」と喜び合っている状況を想像していたんだけどなあ。
なんだか全てが空回りしているような気がして落ち込んできた。
本当に死ぬかと思ったのに……。
でもまあ、エリシアの笑顔は戻ってきたから良しとしよう!
「たいへん! たいへん、たいへん、タイヘンだああぁぁぁぁぁぁっ!」
庭先で深い溜息をついていたら、聞き慣れた賑やかな声が聞こえたきた。
「どうしたんだ? マリウス。そんなに慌てて」
「だから、大変なんだよ。ザンマお兄ちゃん。ついにこの村にも来たんだ!」
「来たって……なにが?」
「騎士様だよ! 騎士様!! もうねえ、めっっっちゃくちゃ格好イイの!」
興奮するマリウスを落ち着かせながら、僕はきっと何かの勘違いだろうと考えていた。だって、村の人達はみんな言っていた。コカトリスを退治するために神殿騎士がやって来るのは、早くても一ヶ月くらいかかるって。
でも、だったら誰が来たんだろうか。
言っちゃあなんだけど、この山奥の村をわざわざ訪れるのは、街から来る行商人か、教会関係者くらいのものだ。
もし本当に神殿騎士だとしたら、見てみたいとも思った。
神殿騎士は男の子なら誰もが憧れるヒーローだ。
「そっか。それは僕も見てみたいなあ」
「でしょ、でしょ! じゃあね、じゃあね、俺が連れてってやるよ」
むくむくと興味が湧いてきた僕は、マリウスが見たという騎士様を見に行くことにした。テンションが上がりっぱなしのマリウスに連れられて、村の広場へと向かった。
広場にいたのは、鎧を着込んだ6人組の男の人たち。
おじさんばかりの中に一人だけ若い男の人がいて、村中の女の人が集まってるんじゃないかってくらいの密度で取り囲まれていた。
その中にエリシアの姿がないことを確かめ、僕はホッと胸を撫で下ろす。
彼女が他の女の人たちみたいに、男の人を囲んで頬を赤らめている姿は見たくなかったから。
囲まれている当人。オリーブグレージュの髪を束ね、快活に笑っている男の人は、確かに他のおじさん達とは雰囲気が違っていた。
鎧を着ているのに所作が軽やかで。
顔や腕に目立つ傷なんか一つもなくて。
それに何と言ったって日焼けしていない白い肌。
「え? もしかして、カルナ=ヴェリス!?」
いつの間に現れたのか、隣に立っていたエリシアが驚いた顔でそう言った。
「知ってる人?」
「はい。……あ、いえ。私が一方的に知っているだけですけど」
どういう意味がわからず、首を傾げる僕にエリシアは説明を続けてくれた。
「というか、教会の関係者で彼を知らない人はいないと思います。カルナ=ヴェリスは『神の最終兵器』とも呼ばれる最強の神殿騎士ですから」
「…………最強の神殿騎士!?」
「そうです」
「あれが?」
「そうです」
とてもそうは見えない。
笑顔で女の人たちに軽口を叩いている姿は、なんだかチャラチャラした都会の若者って感じがして、ハッキリ言っちゃうとそもそも神殿騎士に見えない。
「でも……、なんでそんな人がこんな山奥の村に?」
「それは、私も知りたいです」
驚愕と疑問に包まれる僕とエリシア、その目の前で笑顔を振りまいているとても最強の神殿騎士には見えないカルナ=ヴェリス。
このときはまだ、想像もしていなかった。
彼の笑顔が、僕の未来を照らす灯火になるなんて。
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